木月:『うもれびと』って、すごく奥行きのあるセットだったんですよ。めちゃくちゃデカいセットの端っこのちっちゃいところでトークしてましたよね。
鈴木:代官山に蔦屋書店ができた頃で、ゆったりとした素敵な空間に買いたいものが自然にあり、ずっとそこにいたくなる趣味の良さが、当時一番今っぽいって感じだったんですよ。それを参考にして、ラウンジの一角で人知れず行われているトークということで考えたんですけど、その後が大変で(笑)。CCCの増田(宗昭)社長と対談することになったとき、『うもれびと』のセットの写真見せて、「ごめんなさい、リスペクトでパクりました!」って、TSUTAYAの「T」の部分が中居正広さんの「M」になってると説明したら大喜びしてくれて、「パクられるようになって一流ですよ」と言ってくれました(笑)
木月:あの番組で、賢太さんには「奥行き」がいかに大事かというのを教えてもらいました。
鈴木:外国のドラマが入ってきたことによって、映像の流行が、ターゲットだけにフォーカスが合って、背景がボケてるという感じにどんどんなっていったんですよ。雰囲気もいいしオシャレだし、他に余計な情報がないほうが会話に集中できる。でも、日本のテレビ収録でそれをやろうとすると、スタジオのカメラは被写界深度が深く、どれにもピントが合いがちでそうならない。だから、物理的にボケちゃう距離まで持って行っちゃおうというのが、このときの発想だったんです。これで、雑多な中でもターゲットだけ切り取って見えてくるという状態になるんですね。
木月:『久保みねヒャダ(こじらせナイト)』もそうですね。長細ーいセットの手前でトークしてる感じ。
鈴木:それで横からドラマみたいに覗いて撮れるようにしたんですよね。そう考えると、ドラマをいくつか担当したのも、無駄な経験じゃなかったのかなと思います。
横井:賢太のセットはいつもパースのコントロールを細かくやっている印象だけど、これはオーバーパース(=誇張した遠近法)をかなり意図的にかけてるよね。
鈴木:そうです。それでより奥行きがあるように見せてます。これをやりだしたのは『リチャードホール』っていうコント番組からなんですけど、尊敬の念を込めて「恐ろしゴリラ」と呼ばれている伊藤征章さんという演出家から、「金もない、時間もない、スタジオは狭い。だけど奥行きがあるコントセットを建てろ!」と言われて苦肉の策で作ったのが、小さいセットに無理やりパースを付けることで広く見せるというやり方でした。教室だろうがバーだろうが会社だろうが、全部パースを付けて。あの当時はすごく斬新な手法だったので、関わってる構成作家さんたちがみんなこぞって「美術が変な番組」と挙げてくれました。
木月:素人目にも見てて分かりました。すごいことしてるなって。
鈴木:映像を見ただけで「あのコント番組だ」って分かるようにしたいという、その思いに応えたつもりなんです。木月もそうですけど、やっぱりムチャを言う演出家と仕事すると、面白いところに行きますよね。先輩からディレクターとデザイナーは切磋琢磨するものだと言われて来ました。
■曖昧な記憶から組み上げたほうがオリジナルになる
鈴木:横井が入社4年目で会社のロゴを作ってものすごい速さで出世していったんですけど、僕もセットデザインで自信がついたのは、入社3年目くらいのときに『笑う犬(の生活)』をやったのが大きかったんですよ。そこから、『ワンナイ(R&R)』『感じるジャッカル』も加わって、コントセットを1週間で30杯描いてたんです。それを2年くらいやってました。
木月:すごいですね。まさに千本ノック。
鈴木:あのぐらいの時期に苦労してよかったです。コントって実はドラマの凝縮版だと思っていて、一番特徴的な部分だけを抽出して、一番短い表現で伝えるということをやっているので、ずっとそのトレーニングを積んでその2年を通過したら何でもできるようになった気がします。そうすると、例えば「世界一爪が長いタイ人が住んでる部屋のセット描いて」と言われたときに、行ったことのあるタイのバンガローとか、ずっと食べないで暮らしてるというインド人の写真とか思い出して、いろんなものを混ぜながら、たぶんこんな感じだろうな…というものを見出していって、結果それがオリジナルになり人を納得させるものになっていく。曖昧な記憶の中でどうにか組み上げたほうが、絶対誰かがすでにやったものにはならないので、僕は写真を撮ったり、検索したりというのはあまりしないです。ネットで鳥居の写真を見て作るのもいいけど、現場に行くとその裏にある落書きとかいろんなものが見えてくるので、自分にしか気づけていない視点で物事を見ることができますから。それと、打ち合わせの時にイメージを伝え切ることも大事で、「ターコイズブルー」とか「アクアグリーン」と言って通じなければ、「ティファニーの箱」だとか「チョコミントの色」と言って分かってもらったり、と言った具合です。
次回予告…~美術クリエイター編~<3> レディー・ガガも認めた『スマスマ』『Mステ』の“攻めた”美術
●横井勝
1973年生まれ、京都府出身。デジタルハリウッド卒業後、97年に全国朝日放送(現・テレビ朝日)入社。『ミュージックステーション』『アメトーーク!』などの番組のアートディレクションのほか、『ABEMA NEWS』クリエイティブ統括、テレビ朝日のCIデザインや「テレビ朝日・六本木ヒルズ 夏祭り」から「バーチャル六本木」の展開、『世界体操・世界新体操』の国際大会演出など、最新テクノロジー企画、リアル空間、商品開発も多数手がける。
●鈴木賢太
1974年生まれ、埼玉県出身。武蔵野美術大学卒業後、97年にフジテレビジョン入社。主な担当番組は『ENGEIグランドスラム』『ネタパレ』『人志松本のすべらない話』『IPPONグランプリ』『ジャンクSPORTS』『ワイドナショー』『人志松本の酒のツマミになる話』『VS嵐』『MUSIC FAIR』『FNS歌謡祭』『全力!脱力タイムズ』ほか。14年には『VS嵐』正月特番のセットで第41回伊藤熹朔賞協会賞を受賞。
●木月洋介
1979年生まれ、神奈川県出身。東京大学卒業後、04年にフジテレビジョン入社。『笑っていいとも!』『ピカルの定理』『ヨルタモリ』『AKB48選抜総選挙』などを経て、現在は『新しいカギ』『痛快TV スカッとジャパン』『あしたの内村!!』『今夜はナゾトレ』『キスマイ超BUSAIKU!?』『ネタパレ』『久保みねヒャダこじらせナイト』『バチくるオードリー』などを担当する。