■後悔が再チャンスの気合いへ
――涙を流す熱演に、監督も驚いたのではないでしょうか。
実はこのシーンは一度撮り終わっていたのですが、芝居に迷いがあって「中野くんらしくなかったかもしれない。もっとやれたかもしれない」と悔いが残っていて。その後たまたま撮影場所の変更などがあり、そのシーンだけもう一度撮影することになって「やるしかない」と気合いが入りました。でも、自分の中で「ここでこういう感情になろう」と作っていくのは良くないと。ト書きに「ここで怒る」と書いてあっても「怒れないと思ったら怒らなくていいよ」「自分のタイミングで泣いて笑って。無理にテンションを上げなくていい」と仰って頂くことが多いんです。
今回も「時間をかけて、ゆっくり自分のタイミングでやっていいから、任せるから」と仰って頂いたので、余計なことは何も考えずにフラットに演じた結果、役にのめり込んで池田優斗という人格がなくなっていきました。監督さんからの指示を落とし込みながらも、まわりを遮断して役だけにまっすぐに向かうことで、いいものができるのかもしれないと芝居について再確認した経験でした。
■林遣都に感じた芝居への姿勢と役へのこだわり
――そんな中野幸の現代の姿を演じるのが林遣都さんでしたが、お話しする機会はありましたか。
林さんが、自分の撮影がない日にわざわざ僕のシーンを見に来てくださって、そのときにあいさつさせて頂きました。僕の芝居や、撮影以外の時間も役作りをしている姿勢がいいと褒めてくださってすごくうれしかったです。今回は僕が林さんに寄せるのではなく、林さんが中学時代の僕に寄せるという形になっていたので、オンエアを見ると林さんの台詞の言い方や目線が僕の中野くんとリンクしている気がして、林さんの演技のすごさを感じました。雨宮くんのときはキラキラしていてかっこよくて爽やかなんですけど、見ている人に「本当は中野幸だったりする?」って想像させる余地がしっかりとあって、今のシーンは雨宮くんだったけど、次のシーンでは2人が入り混じってる、という演じ分けがさすがだなと。
――林さんが自分のお芝居に寄せてくれるというのは、共演とはまた違う貴重な経験ですね。
監督さんからも、僕のシーンを林さんに見せて作ってもらうからと仰って頂いて、林さんの役作りに僕の芝居が必要になってくるという貴重な経験でした。僕が中野くんをどう演じるかで、林さんの中野くん像が変わってくると思い、大切に演じました。幼少の芝居を大人の芝居に寄せるパターンが多いので新鮮でしたね。中学時代からすべてが始まっているというのがこの作品の肝だと思いますし、見てくださった方に「ここ似ていたな」と思って頂けたら嬉しいです。
――改めて林さんの尊敬している部分を教えてください。
お芝居に対する姿勢、役に対するこだわりです。僕の役に対する姿勢を林さんが褒めてくださったからこそ、いろんな人となるべく関わりを持たないようにしようと過ごした時間が役作りに活きて手応えを感じられたし、林さんの言葉が支えになって「この中野くんでいいんだ」と自信を持って役にぶつかることができました。尊敬しています。
2005年6月25日生まれ、埼玉県出身。5歳の頃から本格的に活動開始。『平清盛』、『西郷どん』、『麒麟がくる』でNHK大河ドラマに3度出演を果たす。昨年はKTV『青のSP―学校内警察・嶋田隆平―』、NHK『ここは今から倫理です。』に同時期レギュラー出演も。近年の主な出演作にNTV『ハコヅメ』3話、MBS『トーキョー製麺所』4話、FOD『めぐる。』4話8話など。ディズニー&ピクサー作品『あの夏のルカ』ではアルベルト役の日本版声優を務める。