テレビ朝日系ドラマ『愛しい嘘~優しい闇~』が4日に最終回を迎えた。林遣都演じる“中野くん”こと中野幸の中学時代を任されたのが、俳優の池田優斗だ。5歳でデビューし、高校1年生ながらすでに役者として10年を超えるキャリアを積んできた池田は、今作を「中野くんの愛の物語」と捉えてこの難役に挑んだ。

共演者とのかかわりを断って役作りに邁進したストイックな姿勢、熱演から自然とあふれた涙、そして林遣都にかけられた言葉や同じ役を演じて感じた林の魅力――池田が「中野幸」に込めた思いをたっぷりと聞いた。

  • 俳優の池田優斗 撮影:宮田浩史

    俳優の池田優斗 撮影:宮田浩史

■監督からは「池田くんが思うように演じて」

――『愛しい嘘~優しい闇~』の台本を読んだときの印象を教えてください。

最初は中野幸くんのことを謎の人物だなと感じていましたが、ト書きには中野くんの抱える闇の部分だけではなく、等身大の高校生らしい一面も書かれていて、読みすすめるうちに『愛しい嘘』は中野くんの愛の物語でもあるんだと感じました。中野くんを演じるにあたって、しっかり台本を読み込んだうえで監督さんと意見を交換して、毎シーン毎シーン作り上げていきました。

――「謎の人物」というイメージが先行するキャラクターでしたが、過去を演じる池田さんは高校生らしい一面も表現しないといけなかったんですね。

もともとは中野くんも雨宮くんや望緒ちゃんと同じ普通の中学生だったはずなのに、両親から虐待を受けることで変わってしまった。本当は皆と話したい、周りが羨ましい……そんな部分を繊細に表現するために、台本を繰り返し読まないほうがいいと思いました。たとえば先生と話すシーンでも、同じ年くらいの僕が等身大の会話を見せたほうが、中野くんらしさに繋がるんじゃないかと。

監督さんからも「池田くんが思うような中野くんを演じればいいよ」と言って頂いたので僕が思う中野を自由に演じさせて頂きました。難しかったのは「笑顔だけど、笑顔じゃない表情」「うれしいけど、うれしさを前面に出さない表情」というリクエスト。中野くんは、中学生らしく喜びたいけど感情を表に出せない子なので、視聴者の方々にうまく感情が伝えられるかどうか挑戦でしたがすごくやりがいがありました。

■中野幸は「普通の子だったのに変わってしまった」

――物語の始まりを担うキーパーソンかつ、過去と現代で辻褄を合わせていかないといけない役であるにもかかわらず、監督に「池田くんが思うように」と言われるのは信頼されている証拠ですね。そのほか役作りで心がけていたことはありますか。

顔合わせのときから、中学生役の共演者さんと話さないようにしていました。「皆とおしゃべりしたいけど話せない」という状況に自分を置いてみると、中野くんもこんな気持ちだったのかもしれないと思えて。この、うまくマッチした感情を活かすために、撮影のない時間も皆と同じ空間にいないようにしよう、誰とも話さないようにしよう、そのために近づきがたいオーラを出そう……と心がけていました。

中野くんをただの暗い子だと思ってほしくなくて「普通の子だったのに変わってしまった」、という部分を表現するためには「等身大のリアルな中学生」を投影することが必要だと思いました。だからこそ監督さんも「思うようにやって」と仰ってくれたのかなと。監督さんにそう言って頂けてうれしかった分、お芝居や気持ちで返していかなきゃいけないなと思って、撮影以外の時間も全力でやらせて頂きました。

■涙があふれたシーン撮影後は放心状態に

――印象に残っているシーンはありますか。

望緒ちゃんに「またね」と言われる場面です。中野くんにとって「またね」という言葉、「明日」という存在はすごく大きなもの。中野くんは絶望的な日々を送っているのに誰にも声をかけてもらえなくて、本当は誰かに声をかけてほしかったかもしれない、だから望緒ちゃんとの美術室の時間が支えだったと思うんです。「またね」の重みが人と違うということを見ている方に届けたいと思いました。中野くんの気持ちになって演じるだけじゃなくて、世界中で中野くんと同じ思いをしている人や何か悩みを抱えている人、学校に行きづらい人、行っていない人とか、いろんな人のことを考えて演じていると、自然と涙が出てきちゃったんです。

ト書きには「感情があふれて涙が出る」なんて書いていなかったのに、あの瞬間、中野くんはこんな気持ちだったのかなと思えた。僕は中野くん本人ではないから、自分が作り上げた中野くんに一生懸命寄せていくことでしか表現できないんですけど、あのシーンは、まるで自分が中野くんとして実際に経験したかのような感覚になって、自然と涙がこぼれて……僕にとっても不思議な時間になりました。

――お芝居を超えて中野くん本人になったような感覚でしょうか。

終わったあとも放心状態で、自分でも何が起こったのか分からなかったんです。監督さんやスタッフさんに「今のシーン本当に良かった!」と褒めて頂けて、「ありがとうございます」と声には出しているのに、僕じゃない、もう1人の僕がいたというか。今後も忘れられないであろう特別な時間になりました。ほんの一瞬ではありますが、中野くんの苦しい思いが届くシーンになったんじゃないかなと思います。