昨年10月、日本テレビ系列の福岡放送(FBS)で、異例の新人アナウンサー・井村ららさんがデビューした。彼女は、航空会社・スターフライヤーの社員で、本業は空港などで働くグランドスタッフ。コロナ禍で減便が続く厳しい状況の中、福岡県に拠点を置く両社が協力して実現した取り組みで、朝の『ZIP!』『スッキリ』ローカル枠、夕方の『めんたいワイド』といった情報番組に出演し、ニュースや天気予報などを担当している。
もともとは半年間の任期で3月末までの出演を予定していたが、好評を受けて9月末まで半年の延長が決定。実は小学生の頃からアナウンサーに憧れ、「夢が叶った」と喜びを語る井村さんが、テレビで情報を伝える仕事を通して気づいたこととは――。
■アナウンス方法の違いに「とにかく苦戦」
中学・高校時代は放送部に所属し、大学時代はアナウンススクールに通っていた井村さん。人前に立つことに慣れるため、観光大使「北九州看板娘」を務めたことで観光業に興味を持ち、エアライン業界も進路希望に。就活でアナウンサーには縁がなかったが、2019年にスターフライヤーへ入社を果たした。
しかし、翌年春から新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、航空便の減便・欠航が相次ぐ事態に。井村さんは自治体に派遣され、助成金手続きの仕事をしていたが、21年8月にスターフライヤー内でFBSのアナウンサー募集があったことから立候補。書類選考、カメラテストなどのオーディションを経て選ばれた。こうした経緯があっただけに、「夢が2つとも叶ったという感じです!」と笑顔を見せる。
グランドスタッフも空港で館内放送を行うため、アナウンス研修はあったものの、ニュース番組での話し方とは基本が違うのだそう。「空港のアナウンスだと語尾を伸ばして響くようにするのですが、ニュースでは語尾をピタっと止めて落とさないといけないんです。話し方は癖になっているので、とにかく苦戦しました」と振り返る。
■制服姿で出演「会社を背負ってる気持ちに」
そして迎えたデビュー日。スタジオに立つと、「カメラの向こうに私の想像つかないくらいの数の人が見るだろうと思って、すごい汗が出てきました」と緊張がピークに達したが、本番では「ちょっとつっかかりそうなところはあったのですが、大きなミスをすることなく無事終えることができました」と、生放送を乗り切った。
時にはアドリブ対応が必要になる場面も。「お天気のコーナーで外の様子を映してからその日の天気予報を伝えるのですが、リハーサルから本番まで15分くらいしかないのに、その間で外の様子が変わっていることがあるんです。そういうときは『先ほどまでは晴れだったのですが、今は雲がかかってますね』と言ったり、その場の判断も求められます」と苦労を明かす。
ニュースや天気予報の原稿読みだけでなく、『めんたいワイド』では視聴者参加のゲームコーナーの進行を担当。立体的なCGの漢字の周りを飛行機が旋回し、その視点で何の漢字かを当てるという内容だが、ここではスターフライヤーの制服で出演している。
このため、「より会社を背負っているという気持ちになります。ありがたいことに、飛行機もスターフライヤーの黒い機体をデザインしてくださっているので、私も頑張らなきゃとなりますね」と気が引き締まるそう。さらに、「このコーナーは何が起こるか分かないのですが、出てくださる視聴者の方が楽しめるようにというのを心がけています」と、また違った緊張感で臨んでいるそうだ。
こうして出演を重ねることで、「始めの頃はとにかく間違えないことに注力していたのですが、今は伝えることに気持ちが向くようになりました。原稿に合わせて、言葉を立てたり、ゆっくり読んだり、高く読んだりと、少しずつ工夫もできるようになった気がしています」と成長。
地上波の出演はやはり反響が大きいそうで、「一番驚いたのは、駅で見知らぬ方に声をかけていただくことが2回もあったんです。マスクをしてても声で分かったそうで、『応援してます』と言ってくださり、すごくうれしかったです」と感激。正月には視聴者から井村さん宛の年賀状も届いたといい、「テレビの世界で働いていると、こういうことがあるんだなと思いましたね」と、メディアの影響力の大きさを実感した。