取材開始から2カ月間は、変化のない、穏やかな日常がシェアハウスに流れていたという。そこに突如もたらされたのが、住人の一人、ももこさん(30代)の結婚・妊娠という一報だった。
「妊娠、出産というのは、シェアハウスが始まって以来初の出来事です。しかも、ももこさんは、シェアハウスを退去せず、子どもをここで育てると言っていました。私はぜひとも、子どもの誕生で、ももこさん夫婦や住人たちがどう変化していくか見てみたい、ももこさんの人生とシェアハウスにとっての大きな転機にスポットを当てたいと思いました」と、具体的な取材テーマに出会う。
ももこさんの第一印象は、「おっとりした方ですが、実は芯の強い女性だと思います。最初の頃、一緒に散歩をしながら、仕事に悩み山奥にやってくるまでの話を聞かせてもらったことが、今も印象に残っています。『ここは心地いいし、これからもずっと暮らしたい』と話していました。その時は、まさか結婚して妊娠、出産するとは想像していませんでしたね(笑)。でも、そういう人生の岐路に立ち、自分でしっかり考えて決断し、ブレないで前に進むのは、とても芯の強い人だと感じました」とのこと。
出産から育児の始まりを、ずっとカメラで密着したいという申し出に対しても、快く受け入れてくれたそうで、ももこさんは「赤ちゃんへのプレゼントにしたい。『私は最初、こんなにへっぽこなお母さんだったんだよ』と話して、将来、一緒にこの番組を観れたらいいな」と、すべての場面を断ることなく撮らせてくれた。
■「本当に恵まれている」子育て環境
シェアハウスでの子育てを、竹内Dは「ももこさんの心身の状態が不調だったこともあり、なかなかうまくいかず、ももこさんは模索していました。私はそばで、彼女を心配しながらも、応援する気持ちで撮影するようになっていました」と回想。
竹内Dを受け入れたのと同じように、ももこさんの赤ちゃんも歓迎しているという住人たち。「誰一人としてももこさんにここで子育てをしてほしくないという人はいませんでした。結婚式もみんなで祝福してくれ、ももこさんは本当に幸せな環境にいるなと思いました」と実感した。
この“幸せな環境”を構成するもう1つの大きな要素は、隣の山の限界集落に暮らす中岡さん(86)の存在だ。シェアハウスの住人たちを支え、前例のない子育てに挑むももこさん夫婦を心配し、時には叱咤激励してくれる姿が映し出されている。
「“自分と出会った人みんなに幸せでいてほしい”という中岡さんは、情の深い素敵な方でした。慣れない育児をついつい夫のアツシさん任せにしてしまうももこさんにかけた『アツシさんへの愛をもう少し出してもいいんじゃない?』という言葉は、厳しいけれど心に響くアドバイスですよね。親身になってあそこまで言ってくれる人もそばにいたのは、大きいと思います」
そんな中岡さんやシェアハウスの住人たちに支えられているももこさんの子育ては、「本当に恵まれていると思います」と感じた。
「都会では、父親の帰宅時間が遅く、周囲に相談したり、助けたりしてくれる人もいない中で、孤立して“ワンオペ育児”をせざるを得ない母親がたくさんいます。ももこさんは、自分ができないことはちゃんと主張して旦那さんや住人に助けてもらっているんです。住人には戸惑っていた人もいたけれど、やれる範囲で彼らなりに手助けを始めています。最初は赤ちゃんという現実がやってきて、どうなってしまうのだろうと思いましたが、自分たちのペースで助け合い、赤ちゃんを受け入れていてうまく回っていくということを最後には感じました」