フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)では、社会や家族とのつながりから離れ、和歌山県の限界集落で共同生活をする若者たちを追った『山奥ニートの結婚 ~一緒に赤ちゃん育てませんか~』を、きょう20日に放送する。
今回の舞台は、自らを「山奥ニート」と呼ぶ20~30代の約10人が一つ屋根の下で暮らすシェアハウス。自由気ままな暮らしを続け、社会とは距離を置くことを望んで生きる彼らの暮らしぶりに興味を持った竹内みなみディレクター(スパークル)だったが、気がついたら約1年もの長期密着になっていたという。その原動力は、住人たちがそれまで経験したことのない出産・子育てに立ち向かう様子と出会ったからだ。
互いに干渉することもない“理想郷”にたどり着いた彼らは、この現実にどのように向き合っていったのか。そして、その姿を通して番組で伝えたい思いとは。今回が長編ドキュメンタリー初挑戦となる竹内Dに、取材の裏側を聞いた――。
■ほどよく雑然として居心地よい場所
竹内Dの取材のきっかけは、今から1年前、シェアハウスの住人の1人である石井あらたさんの著書『「山奥ニート」やってます。』を書店で手に取ったことだった。
「『山奥ニート』はいわゆるニートとはちょっと違うんです。単なる都会からの逃げではない。親に金銭的に依存することなく、山奥ならではの節約生活で出費を切り詰め、最低限必要な生活費を稼いで、自立して好きなことをして生きている。それは、自由で、合理的な考え方だと思ったのです。しかもシェアハウスですから、嫌でも人間関係を築く必要がある。人間や社会から距離を置いて生活したい人たちが、どういう付き合い方をしているのだろうと、興味を持ちました」(竹内D、以下同)
実際にどんな暮らしをしているのか関心を持ったのには、「私の周りの人たちがうつになったり、仕事に悩む人がいたからということもあったかもしれません」という。
その段階で、思い描いていたテーマは「シェアハウスに密着したらどんな物語があるのだろう?」と漠然としたものだったが、『ザ・ノンフィクション』の西村陽次郎チーフプロデューサーから「見に行ってみてはどうか」とGOサインが出て、取材が動き出すことになった。
長期にわたる取材だが、生活の場に頻繁にカメラが入るため、抵抗を感じる人がいるかもしれないと予想していたが、「取材をやめてほしいと言う人はいなくて、住人の皆さんの懐の深さを感じました」といい、その背景を「社会で何かしらのつらい経験をしているからこそ、他人を許容したり、優しくできる人が多いのかもしれません」と推測する。
現地に通いながらの取材を進めつつ、1カ月にわたりシェアハウスに泊まり込んで生活をしてみると、「私が思い描いていた学生寮のイメージよりはきれいで、それでいながらほどよく雑然として居心地よい場所でした。引きこもろうと思えば部屋にいればよいし、人恋しくなったらリビングに誰かしらいるという、その塩梅がいいんです」とのこと。
食事や家事、買い出しの係を決めなくても、誰かがやる気の起きたときにするというやり方で生活が回っており、特に当番を決めている訳ではない。誰かがやる気になったらやるというスタンスだが、それで困ることはないそうだ。
■「街で引きこもってるくらいだったら、山奥で引きこもったほうがいい」
シェアハウスがあるのは、もともと住民が5人しかいない平均年齢が80歳に迫る限界集落。住民たちは、シェアハウスに暮らす若者たちを歓迎し、折に触れ交流が行われている。
「放送には入れられなかった出来事もたくさんあり、例えば、村の神社の鳥居が倒壊してしまったときは、地域住民と若者たちが協力して修復したということもありました。また、シェアハウスに地域住民の方を招待して、ささやかなお誕生パーティーをしたこともあります。こういう交流を通じて、若者たちは地域の人に受け入れられていったのだと思います」
逆に、シェアハウスの住人は、地域住民から畑での野菜づくりを教えてもらったり、野菜や鹿をもらったり、単発のアルバイトを紹介してもらったりと、様々な形で助けられているそうだが、「何よりの贈り物は、地域の人々の役に立って感謝されるという経験の積み重ねだったかもしれません」と推察した。
シェアハウスの住人たちからは「街で引きこもってるくらいだったら、山奥で引きこもったほうがいい」という声も聞こえてきたのだそう。その言葉は、ただ節約生活ができるというだけでない、人間関係のありがたさと、自信の獲得という手応えからきているようだ。