俳優の菅田将暉が主演するフジテレビ系月9ドラマ『ミステリと言う勿れ』(毎週月曜21:00~)。田村由美氏の同名漫画を実写化したもので、洞察力に長け、大きな天然パーマが特徴の主人公・整(菅田)が、自身に容疑がかけられたある殺人事件をきっかけに、次から次へと事件に巻き込まれていく物語だ。タイトルの通り、事件を解決するミステリの部分だけでなく、多弁な整の言葉によって、登場人物たちはもちろん、視聴者の心も解していくという新感覚のドラマに仕上がっている。

今作のメイン演出を務めるのは、『LIAR GAME』『鍵のかかった部屋』『失恋ショコラティエ』『信長協奏曲』など、多くのヒット作を手がけてきたフジテレビの松山博昭監督。演出面のこだわりや、撮影から放送まで期間を置くことでのメリットなど、制作の裏側を語ってもらった――。

  • 『ミステリと言う勿れ』主演の菅田将暉 (C)田村由美/小学館 (C)フジテレビジョン

    『ミステリと言う勿れ』主演の菅田将暉 (C)田村由美/小学館 (C)フジテレビジョン

■秀逸だった取調室のセット

今作では第2話・3話で登場したゴージャスな犬堂邸など、セットへのこだわりが大いに感じられるが…。

「実をいうと、犬堂家のセットより第1話のセット(取調室)のほうがこだわっていて、どう作るかにすごく頭を使いました。座りっぱなしで狭いセットなので画に変化をつけるのがすごく難しいんです。だから、あのセットは半地下の設定にして、さらに扉を開けた先に細い通路を作りました。そうすることで通路側から撮ったりもできるし、カメラを壁沿いに動かして撮ることによって立体感も出すことができる。天窓を付けて、そこからも撮ったり…と、画のバリエーション増やすことに注力しました。僕の大先輩でもあるデザイナーのあべ木(陽次、『貴族探偵』『コンフィデンスマンJP』『翔んで埼玉』などを担当)が今回、デザインをやってくれたんですけど、『取調室のセットは秀逸でしたね』と、直接お伝えしたくらいです」

その取調室に差し込む光の照明にも、こだわりがあった。

「本来であれば、太陽は今、東にあるのか西にあるのか考えながら照明を当てるんですけど、今回はそこに関しては忘れようという話をしました。だから、朝日と夕日が同じ方向の窓から差し込んだり、曇り空のブルーな照明からシーンの途中で太陽が差し込んできてオレンジに変わったり、変化をつけました。あと、天気のことで言えば、原作では雨だった日を1日ずらしたりと、いろいろ工夫をしています」

  • 半地下に光が差し込む取調室のセット=第1話より (C)田村由美/小学館 (C)フジテレビジョン

■タイトルが最後に一瞬だけ表示される理由

松山監督の作品と言えば、中田ヤスタカ氏が手がけたキャッチーなメロディの『LIAR GAME』や、Ken Arai氏が手がけた斬新かつビビッドなサウンドの『鍵のかかった部屋』など、テレビドラマのサウンドトラックとしてはコントラストの強いEDM(=エレクトロニック・ダンス・ミュージック)を流すことが定番。だが、『ミステリと言う勿れ』では一変してクラシックを多用しているのが印象的だ。

その理由を聞くと、「整の音楽って何かな?って考えたときに、今までのEDMではなく、クラシックなんじゃないかなと思って、今回はほぼほぼEDMもかけてないんです。編集の段階で、そのシーンのリズムと物語の意図に合うものを試行錯誤しながら選曲していきました」と明かしてくれた。

ほかにも、監督がこの作品の世界観を構築する上でのこだわりが随所にみられる。それが、出演者やスタッフの名前を表示させるテロップ。最近の現代劇では珍しく、名前を縦書きにし、その上部に添えるように横書きで役名や担当職を配置している。

「劇中で挿入される縦文字で登場人物の名前を出すという演出は原作を最初に読んだときから決めていたんですけど、スタッフロールのテロップを縦文字にしたのにあまり意味はないんです。スタッフロールは本編の終盤に入れることが多いんですけど、テロップが出ると、その時点で物語が終わってしまった感じになっちゃうのが僕は嫌で、ラストに向けての流れが途切れちゃうような気がするんですね。だから、今回は本編を邪魔しないように、最初に入れようと思ったんです。そのテロップも邪魔にならないように、画になじむようなものをと思って試行錯誤して、横文字をオレンジで、縦文字を白にして、位置もそれぞれバランスを考えて調整して、文字自体も縦と横で若干フォントを変えたりして、画の中にあっても気にならないものを見つけた感じです」

ドラマのタイトルもオープニングではなく、最後の最後に一瞬だけ表示させるという、ドラマの流れを“邪魔しない”こだわりぶり。

「僕もこれまでオープニングのタイトルバックを結構一生懸命作ってきたんですけど(笑)、1話ではそれをちゃんと使うものの、2話以降はドラマの尺調整で最初に削るのがオープニングになっちゃうんですね。だから今回はどうせ使わなくなるんだったら、端からいいやと思って。それで最後にドン!ってタイトル入れて終わらせるようにしました」