――今回、咲子は特に、価値観の違う人に囲まれて悩んだり葛藤したりしますが、お二人は普段、自分と違う価値観の人たちの中に入った時、どう対処されていますか?

高橋:精神的鎖国でしょうか。

岸井:わかります(笑)。

高橋:こちらの価値観を押し付けても仕方がないので、それしかないと思います。ある程度、放っておける距離を見つけることが大事なのではないかなと。そういう意味では、羽の気持ちは非常に分かりやすかったです。ある意味、諦観し、諦めをもって人生や社会と接してきたのだろうかと感じました。

岸井:私は自分と価値観の違う人に対して、「なんで?」と聞くかもしれないです。自分の価値観を押し付けるのではなく「あなたってそういう価値観を持ってるんですね! 私とは全然違う」と、ある種の興味を持ってしまうところがあるかもしれない。でも「全然分かりあえないですね。じゃあ」といったように、すっきりとした諦めもあるのですが、あまりにも自分と違うと、興味をそそられます。

高橋:たとえ相手のことを理解できなかったとしても、そういう方がいるんだということを認識することで、周囲との関わり方も変わってきて、人との接し方に選択肢が増えるということに気づきました。

――咲子と羽の関係性について率直にどう思われましたか?

高橋:人を好きになることと恋をすることが別だということを改めて考え直しました。人を好きになったら、触れ合うという肉体的な行動を伴いますが、あるセクシュアリティの方においては、そのこと自体がキツイことになる。かといって人を好きになることがないのかといえば、そういうわけではない。とても繊細なラインで、その部分を感じ直せたことは、貴重な経験だったと思っています。

岸井:恋愛には発展しないけど、家族になろうとする2人。恋をしたり、付き合ったり、好きな人とああしたいこうしたいという願望はないけど、家族に愛されて育っているから、そういう家族に憧れもある。本当に難しいところですが、この2人の間にそれが成り立っていることが重要だなと思いました。そして、それは2人にとっての愛だと思います。

――こういったマイノリティの問題を、地上波のNHKのドラマとして放送する意義をどう捉えていますか?

高橋:この現代社会において、多くの人がみんなと同じじゃないと不安に感じるという部分が加速しているんじゃないかと思います。今回、羽を演じて、人間にはいろんな多様性があっていいんじゃないかなと改めて感じました。

岸井:悩んでいる方々もいらっしゃると思います。だから、どんな個性を持っていても、みんな堂々と生きていきたいじゃん! と思いました。堂々と生きている人はかっこいいし、みんなが個性を認め合って、一緒に楽しく生きたらいいなとも思いました。どんな人も自信をもって生きていける世の中になればいいですよね。

■岸井ゆきの
1992年2月11日生まれ、神奈川県出身。2009年にデビューし、舞台、映画、TVドラマなど幅広く活動。映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』(17)やドラマ『まんぷく』(18)、『浦安鉄筋家族』(20)、『私たちはどうかしている』(20)、『99.9-刑事専門弁護士-』シリーズなどに出演。2019年、映画『愛がなんだ』(19)で第11回TAMA映画祭最優秀新進女優賞並びに、第43回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。映画は『やがて海へと届く』(2022年春公開予定)、『大河への道』(2022年5月20日公開予定)が待機中。
■高橋一生
1980年12月9日、東京都出身。近年の主な出演作に、ドラマ『岸辺露伴は動かない』(20・21)、『天国と地獄~サイコな2人~』(21)、映画『引っ越し大名!』(19)、『ロマンスドール』(20)、『スパイの妻』(20)、『るろうに剣心 最終章 The Beginning』(21)など。舞台『天保十二年のシェイクスピア』(20)の演技では第45回菊田一夫演劇賞を受賞したほか、NODA・MAP第24回公演『フェイクスピア』(21)に主演するなど、多方面で活躍中。BSプレミアム・BS4Kで今春放送予定のドラマ『雪国 -SNOW COUNTRY-』に主演する。

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