女優の高畑充希が主演する日本テレビ系ドラマ『ムチャブリ! わたしが社長になるなんて』(毎週水曜22:00~)が、きょう12日にスタートする。
このドラマを試写する前は、主人公の高畑に、松田翔太と志尊淳というメインビジュアルの印象から、お仕事ドラマに三角関係をプラスしたライトなラブコメディを想像していた。しかし、その予感は秘めつつも、ヒロインの成長物語はもちろん、寂れた老舗レストランの再生も描かれるなど、さまざまな要素を含んだ“お仕事エンタテインメント”で、“働くこと”についてちょっぴり考えさせられる、ライトなだけではない作品に仕上がっている。
■一見共感を得られなさそうな設定だが…
この作品はタイトルが表すように、主人公・高梨雛子(高畑)がある日突然、子会社の“社長”になることを“ムチャブリ”されて奮闘するという、オリジナルストーリー。昨年放送された『推しの王子様』や『SUPER RICH』(いずれもフジテレビ)も、女性社長が主人公の物語で、男女の立場を逆転させ、その中で生まれる新しい価値観や構図を楽しむという見せ方だったのだが、今作のテイストは全く異なる。
大きな違いは、主人公が志を持って立ち上げた会社の社長、つまりバリバリのキャリアウーマンではなく、これまで指示されるがままに仕事をし、向上心も出世欲もなく、ただ抜てきされただけの“消極的な社長”という点。そんなヒロイン像の新鮮さと、主人公が“ムチャブリ”をどうやって受け入れ、自分も会社も社員たちも、どのように成長していくのかが見どころとなっている。
しかし、いくら“ムチャブリ”とはいえ、“消極的な社長”に視聴者は共感できるのか?という不安がよぎってしまう。社長ではない一般社員の目線で、その上の立場が“消極的”では、ドラマの世界とはいえ、視聴者の多くは主人公を応援する気持ちになれないからだ。そんな、ともすれば誰にも共感を得られないような主人公の物語だが、今作はそれをメインビジュアルに登場する魅力的な3人のキャラクターによってクリアしている。
高畑演じる主人公の高梨雛子は、どんな“ムチャブリ”にも、自我を捨てて指示されるがまま受け入れてきたキャラクターで、決して仕事に対してポジティブではない。だが、文句を言いながらそつなく手際よくこなしてしまう“仕事はできる”人物なので、ストレスを感じない。
また、社長として肝心な“社員を引っ張っていく力”も、高畑が持つ魅力の1つ、天性のハツラツさが存分に発揮されており、“ムチャブリ”に翻ろうされながらも絶えない笑顔の先に、希望が待っているに違いないと思わせることに成功している。つまり、本人が気づいていないだけで、主人公には社長になる素養も、その先の可能性も秘めているという描写がさりげなく盛り込まれているのだ。
■志尊淳&松田翔太の絶妙な配置
一方、「自分の方が優秀でやる気もあるのに、なぜ雛子が…」という立場の大牙涼(志尊)を配置。“ムチャブリで社長”というキャッチーな設定だけで物語を突破させない、仕事に対して“積極的”な人物という地に足のついた存在によって、その構図・関係性も興味深くさせている。
そして、“ムチャブリで社長”にしてしまうという、一見すると非現実的で、突拍子もないとっかかりを、「さもありなん」と思わせてしまうのが、ヒロインの親会社社長・浅海寛人(松田)の存在だ。冒頭で描かれる浅海の“ムチャブリ”は、その状況を客観的に見れば、社員を必要以上に困惑させ、振り回すパワハラにも見えてしまうところだが、それを、松田にしか出すことのできない飄々(ひょうひょう)とした佇まいと、圧倒的な存在感、カリスマ性のおかげで見事に解決している。
次々と繰り出していく“ムチャブリ”に、意図があるのか・ないのか、辣腕なのか・サディストなのか、またヒロイン・雛子の能力に気づいているのか・いないのか――そのどっちに振れても「あり得る」と思わせる、余地の残し方が実に絶妙なのだ。そんなミステリアスなキャラクターの浅海社長は、ドラマの縦軸にもなる予感で、最後まで見届けたくなる。