舞台役者として確固たる地位を確立していた梅沢だったが、バラエティ番組などへの出演で、さらなる広がりを見せる。ワイドショーのコメンテーターとして、ときには過激な発言で周囲をざわつかせる。

「テレビ番組では目の前にお客さんはいませんが、常にカメラの向こうには見てくれている人がいるというのは意識しています。以前、テレビ番組で『ここでキレてください』というカンペが出たんです。そのとき『てめーこの野郎! キレるときはおめーに指示されなくたって自分でキレるぞ』って言って笑わせたのですが、僕にとっては良いネタなんですよね。僕がやっている舞台というのは、いつも目の前にお客さんがいるなかで、生でやっている。その感覚というのはとても大切で、テレビだからといって変わらない。カメラの向こうで見てくれている人に、いかに楽しんでもらえるか……常にその意識で臨んでいるんです」。

どんなときでも最も大切なのは、見てくれているお客さん。その人たちのために、一秒たりとも気を抜くことはない。

「新橋演舞場で芝居をしていたころ、お客さんが寝ていたんですよ。僕はアドリブで『すみません、寝ないで起きてください』と言ったら、お客さんが『起こしてみろよ』って。あれは名ゼリフでしたね。自分の芸はそんなもんかって……。やっぱりお客さんを楽しませてナンボなんです」。

■レモンサワーCMで若い世代に認知度アップ

舞台は違えど、常に「お客さんを楽しませること」が梅沢にとっての最大であり唯一の役目。そしてもう一つ、大きな役割が、自身の最も大切にしている演劇というものを、幅広い世代に伝えること。

「バラエティに出させてもらうのは、自分のやっていることを広く伝えるため。僕らの演劇は中年や年配の方だけのものにしてはいけない。もっと若い世代に見てもらいたいという思いは強いです。面白かったのは、レモンサワーのCM。レモンの被りものをして出演していますが、CM中に『夢芝居』が流れるじゃないですか。若い人は『夢芝居』ってレモンサワーのCMのために作ったものだと思っているんですよ。若いタレントさんに会うと『あれって梅沢さんの持ち歌なんですね』なんて言われるんです」。

ある意味でかなり失礼な発言にもとれるが、そんなエピソードも、梅沢は嬉しそうに話す。

「いや感動しますよ。だって僕のことなんてまったく知らない世代が『夢芝居』って梅沢さんの曲だったんですねなんて言ってくれるんですよ。それだけでもあのCMに出た甲斐がありますよね。僕の歌を知ってもらえるし、役者・梅沢富美男ということも、若い世代に認識してもらえたんですから」。

■『プレバト!!』出演で子供からの手紙が増える

もう一つ『プレバト!!』(MBS・TBS系)も梅沢にとっては大きな意味があるという。

「あまり裏話はしたくないのですが、夏井(いつき)先生が、大物女優さんが番組に出演するときに『どういう口調でしゃべったらいいのか分からないので、気を使うんです』と話していたので、『夏井先生は元国語教師だろ? 先生なんだから、生徒に対してガンガンいけばいいんだよ』と言ったんですよね。でも俺は年上だから『なんか言われたら言い返しますよ』って言って、ああいう関係性が生まれたんです」。

梅沢と夏井の掛け合いは、大きな反響を呼んだ。梅沢は夏井に対して「ババア」など暴言を吐くことがあるが、そんなやりとりも多くの人たちを魅了した。

「まあ、ある意味でバカをやって、視聴者の方には面白がっていただきました。僕は“ばいきんまん”みたいな立ち位置でしたが、あの番組に出演してから、お子さんから手紙をもらうことが増えたんです。あるときはイタリアのお子さんから『大好きです』というお手紙をいただきました。子供からウケるというのは、さすがに予測できなかったことなので、すごくうれしかったです」。