GDDR(Photo07)

  • Photo07: 1年後の姿(里親宅にて)。勿論世話してもらったことなど完全に忘れて、良い感じに太ましく成長した。

GDDR6は見事に立ち上がり、既にNVIDIA/AMDで利用されているし、Intelの最初の製品であるAlchemistにも採用予定とみられる。それは良いのだが、既に性能が頭打ちというか、各社最初からTop SKUを採用しており、この先どうするんだ? という話ではある。ただ先にちょっと触れたSamsung Tech Dayで同社がGDDR6をこの先24Gbpsまで引き上げると宣言しており(Photo08)、もうしばらく延命しそうである。もっともSamsungにしても現状ラインナップしているのは18Gbps品までである。Jooyoung Lee氏(SVP, Head of DRAM Product & Technology)によれば、既に2021年11月時点で1znmノードを利用して量産が始まったとしている(Photo09)が、まだ同社のProduct Selectorにあるのは18Gbps品までである。あるいはGeForce RTX 4000なりRadeon RX 7000なりの新製品投入時に、あわせて実装される形で発表されることになるのかもしれない。

  • Photo08: これは"Great Change Beyond Breakthroughs"という基調講演の中の"Memory product enhancement"という項目で出て来た話である。

  • Photo09: この24Gbps品はGDDR6+という扱いになるようだ。

ただ信号速度的に、GDDR6はSingle Endedでかなり限界まで来ているのも事実だ。Samsungにしても、よくSingle Endedで24Gbpsまで引っ張ったなと思わざるを得ないのだが、次のGDDR7も同じようにSingle Endedのままで行けるとはさすがに考えにくい。案としては2つあり、一つはPCI Expressなどと同じようにDifferentialにする案、もう一つはMicronのGDDR6Xと同じ、PAM-4 Encodeである。どっちも一長一短があり、

  • Differential
    • 長所:信号伝達が安定するし、ノイズにも強くなる。また2本の信号の電位差で伝達する関係で、信号電圧そのものは下げられるので、消費電力を減らすことも可能になる。信号速度は32Gbpsまで、既にPCI Express Gen5で実証済。
    • 短所:信号ピンの数が2倍になるので、そうでなくとも既に多くなっている配線が更に増えるし、パッケージも大型化される。また、Multi-Dropが難しい(技術的に不可能ではないが、2本の信号がMulti-Dropで完全に同じ挙動をするとは考えにくいので、普通はやらない)ために、例えば8GBと16GBの2種類のSKUの製品を同一の基板で提供するといった事が難しくなる。もっともGDDR6でも既にMulti-Dropは難しいとされており、GDDR6チップの数を増やして対応するのではなく、チップの容量を引き上げる(4Gbit品→8Gbit品)事で対応しているので、これは深刻な問題にはならないかもしれないが。
  • PAM-4
    • 長所:信号速度を上げずに実効転送速度を2倍に出来る。PAM-4そのものの技法は広く利用されており(主にネットワーク系)、その意味では既知の技術の組み合わせで実現できる。
    • 短所:なにしろ信号レベルをNRZ(0か1の2段階)から4段階(11/10/01/00)にするので、信号波形の乱れに極端に弱くなり、伝達異常が発生しやすい。これを補うために、ネットワーク系だとFEC(Forward Error Correction)を噛ますことが多いが、これはLatencyの増加に繋がる。同じくPAM-4を導入したPCI Express Gen6では、Latencyの増加を嫌って軽いFECにFLITと呼ばれる再送プロトコルを組み合わせて対応したが、DRAMにこうしたメカニズムを実装するのはコストの観点から厳しい(MicronのGDDR6Xは、独自のアナログフロントエンドでこれに対応する事で、FEC無しで実装されている)。またPAM-4の先はPAM-8とか16などがあるが、更にLatencyが増え、信号伝達のエラーが増えやすいのでスケーラビリティに欠ける。

このどちらをJEDECが選ぶのか(あるいは合わせ技にするのか)は現状定かではない。SamsungもこのJEDECのGDDR7のWorkgroupに参画しており、32Gbpsに向けて作業を進めているとしている。ただこのGDDR7、早くて2024年頃。現実には2025年あたりに実用化という感じで、直近で言えばGDDR6のまま。今年後半には、ひょっとするとGDDR6 24Gbps搭載GPUカードがハイエンド向けには用意されるのかもしれない。

  • Photo10: これを見る限り、PAM-4ではなさそう(もしPAM-4なら、GDDR6+の2倍の48Gbpsが可能になりそうに思えるからだ)ではあるが、まさかSingle-Endedで32Gbpsを狙うとかの恐ろしい話ではないことを祈る。あとRealtime Error Protectionとあるあたり、相当エラーが多くなるのでECCがチップの側に入る事を想定しているのだろうか?

ついでにGDDR6Xについても。GDDR6Xはこちらで説明した通りであるが、MicronはこれをJEDECでの標準化作業に持ち込んでおらず、このまま独自規格のままで推移しそうだ(このあたりはJEDECに持ち込んだものの、新規ユーザーが獲得できずに消えたGDDR5Xの反省もあってのことかもしれない)。Samsungが24Gbps(=12GT/s DDR NRZ)まで信号速度を引き上げられるという事は、GDDR6Xも頑張れば30Gbps(=7.5GT/s DDR PAM-4)位まで帯域を引き上げられる可能性はあるのだが、これはPAM-4のTransceiverの作り方次第という話で、現状そこまでのヘッドルームがGDDR6Xにあるのかどうか良く判らない。そしてもしマーケットがそれこそSamsungに追従する形で信号速度を引き上げる方向に行くのであれば、MicronとしてもGDDR6の高速版を用意する必要があるだろう。この辺のMicronの戦略が現時点でははっきりしない。いずれGeForce RTX 4000シリーズが出て来た時に明確になるとは思うのだが。