石敏鐵工

超小型衛星をターゲットに定め、地道な開発がNASAの目にとまった企業もある。愛知県の機械メーカー石敏鐵工は、2017年からアルミ削り出しのキューブサット向け構体を製品化し、2021年版小型衛星最新技術レポートで1U用のフレームが紹介された。

NASAによれば、モノコック構造のキューブサットは、内部の容積を大きく取りやすく、表面積が大きいため放射線耐性を上げやすいといったメリットがあるという。石敏鐵工は、海外の宇宙産業展示会にも出展するなど地道にPRを続けた結果が同レポート掲載につながったようだ。

石敏鐵工の担当者に製品についてや、掲載の意義について聞いた(以下担当者コメント)。

「小型衛星最新技術レポート2021年版に弊社製品が掲載されたことを知り、大変驚いています。2017にプロトタイプを発表した後、キューブサットのコンポーネントとしての新規採用を目指し、国際航空宇宙展2018、第33回小型衛星カンファレンス(2019、アメリカ)などでPRをして参りました。従来製品と異なるコンセプトで開発した製品ということもあり、実績を重要視される航空宇宙業界において、一筋縄ではいかない難しさを感じております。今後はNASAが認知している製品であることに自信を持ちつつ、さらなるPRを続けていく所存です。

弊社は昭和23年の創業時より瓦金型の製造をしており、近年は自動車部品、航空宇宙部品とその対応範囲を拡げてきました。さまざまな業種の課題を日々解決している弊社ならではの発想がこの度掲載された一体型構体(フレーム)の開発につながりました。同レポートで紹介された製品は1Uのキューブサット向けの構体(フレーム)です。一般的なフレームは板金部品もしくかアルミ切削品の組み合わせで構成されており、ボルトで各部材を締結します。内部機器の搭載後に衛星放出装置が要求する仕様にて、フレームの精度調整が必要になります。

弊社製品は自動車部品と金型の加工技術を活かしたアルミブロックからの削り出し工法を採用しています。5軸マシニングセンタを用いて多方向から削り出されたフレームにはつなぎ目がありません。0.01mm単位での調整が施されており、手元に届いたその状態のままで要求精度を満たします。面倒な調整作業に時間を費やす必要はありません。部品点数が少なくなるため、量産性にも優れており、メガコンステレーション時代に最適な工法です。また、削り量の調整による形状変更が容易なためカスタマイズ性に優れ、顧客のニーズに柔軟に対応可能です。」

  • フレーム

    アルミブロック削り出し一体型のキューブサット向けフレーム。小型衛星最新技術レポートでは1Uのみの紹介だが、3U向け製品もラインナップされている(提供:石敏鐵工)

ルネサス エレクトロニクス

2020年、2021年版小型衛星最新技術レポートの小型衛星向け電子機器を扱った第8章に名前が上がっているのがルネサス エレクトロニクスだ。ルネサスはこれまでにも多様な衛星、探査機に電子部品を提供した実績があり、特定の製品ではなく、代表的なメーカー群としてリストアップされているようだ。

ルネサスの担当者に製品についてや、掲載の意義について聞いた(以下担当者コメント)。

「ルネサスは、2017年に買収したインターシル社の宇宙関連製品を、インターシルブランドで開発、販売しています。この宇宙関連製品は、60年以上に渡る宇宙産業での長い歴史を持っています。例えば、2020年7月30日に打ち上げられたNASAの火星探査機“Mars 2020 Perseverance”にも、宇宙用耐放射線ICが20以上搭載されています。これらのICは、電源管理や配電、慣性計測ユニット、精密データの取り扱いや処理、飛行の開始やナビゲーション、降下、着陸制御などのミッションクリティカルなアプリケーションのサブシステムをサポートしています。電圧レギュレータおよびリファレンス、同期整流降圧およびLDOレギュレータ、PWMコントローラ、MOSFETドライバ、16チャンネルマルチプレクサ、SPSTスイッチ、RS-422ライントランスミッタおよびレシーバ、マイクロプロセッサ監視回路など、幅広いインターシルの耐放射線ソリューションが使用されています。

また、JAXAの“はやぶさ2”ミッションにも、ルネサスの耐放射線ICは搭載されました。このミッションでは、電圧レギュレータおよびリファレンス、PWMコントローラ、MOSFETドライバ、クワッドコンパレータ、8チャネルおよび16チャネルマルチプレクサ、RS-422レシーバおよびドライバなど、はやぶさ2のさまざまなサブシステムに使用されています。」

取材を終えて

NASAの小型衛星最新技術レポートに紹介された企業は、長く衛星コンポーネントを製造してきた実績あるメーカーから、近年宇宙用製品の開発に乗り出したメーカーまで幅広く紹介されていた。

需要の多いコンポーネントには欧州の小型衛星関連企業の名前が多く並び、日本のメーカーの存在感はまだそれほど大きくない。とはいえすべて公開情報から集められたということで、英語でしっかり技術情報を発信すれば、NASAに紹介されて宇宙の世界で引き合いが増えることも大いに期待される。