5位 伝統ドラマ枠、日テレ『水曜ドラマ』、フジ『木曜劇場』の変革
今年、方向性が大きく変わったドラマ枠が2つある。1つは36年の歴史を持つ日テレの『水曜ドラマ』で、もう1つが37年の歴史を持つフジの『木曜劇場』。ともに局で最も長い歴史を持つドラマ枠だ。
まず『水曜ドラマ』は、今年『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』『恋はDeepに』『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』『恋です! ~ヤンキー君と白杖ガール~』を放送。それぞれ菅野美穂、石原さとみ、戸田恵梨香と永野芽郁、杉咲花と、強力な主演女優を立てつつ、よりコメディ色の濃い作品で勝負した。また、恋愛重視と仕事重視の物語を交互に放送し、原作の有無を五分五分程度に抑えてバランスを取っている。
一方の『木曜劇場』は、『知ってるワイフ』『レンアイ漫画家』『推しの王子様』『SUPER RICH』を放送。こちらは『レンアイ漫画家』まで4作連続で原作モノだったが、『推しの王子様』以降は来年1月期の『ゴシップ #彼女が知りたい本当の〇〇』まで3作連続のオリジナルに一変した。物語も恋愛より仕事の比重が増え、働く女性たちの生き生きとした姿を描こうという姿勢が見える。
また、カンテレ制作(フジ系)ドラマ枠の火曜21時台から月曜22時台移動も思い切った編成だった。藤井道人監督と主演・綾野剛を迎えた第1弾の『アバランチ』は映像面での評判が上々。しかし、次作の『ドクター・ホワイト』も含め、月9ドラマの内容に合わせたような事件・医療モノばかりでは、視聴者に飽きられることはあっても大ヒットは難しいだろう。
4位 不倫モノが深夜に集中、身体の関係なしだから際立つ『うきわ』
前述したようにラブコメを中心に多くの恋愛ドラマが放送されたが、意外なほど多かったのが不倫ドラマ。
主な作品だけで、『にぶんのいち夫婦』(テレ東系)、『サレタガワのブルー』(MBS・TBS系)、『ただ離婚してないだけ』(テレ東系)、『うきわ ―友達以上、不倫未満―』(テレ東系)、『じゃない方の彼女』が放送された。
それぞれ、サスペンス、センセーショナル、クライム、コメディなど、コンセプトが異なるものの、いずれも刺激的な要素があり、23時以降の深夜帯に放送。それまで不倫モノはプライム帯で、主婦層が非現実的な恋愛を楽しむような形で放送されていたが、より刺激を求めて深夜帯に移動したことになる。ちなみに、現在プライム帯は『恋です!』などの牧歌的な世界観のラブコメが主流になり、「不倫ドラマが追い出された」という見方もできるだろう。
なかでも衝撃的だったのは、『うきわ』。不倫がテーマのドラマなのにプラトニックな関係を貫き、けっきょく身体の関係なしで終わらせ、「そのほうが強い色気や結び付きを感じさせる」という新たな世界を見せた。原作漫画からの脚色、門脇麦と森山直太朗の好演も含めて、今年屈指の名作と言ってもいいだろう。
依然として芸能人のゴシップが関心事となり続けているだけに、来年もさまざまな形の不倫ドラマが制作されるのではないか。
3位 TBS『日曜劇場』の圧勝劇、国内制覇の次は海外配信へ
冒頭に挙げたように今年は、『天国と地獄 ~サイコな2人』『ドラゴン桜』『TOKYO MER ~走る緊急救命室~』『日本沈没 -希望のひと-』とTBS日曜劇場の圧勝。すべてのクールで注目を集め、視聴率を獲得した。
それぞれ、綾瀬はるかと高橋一生の男女入れ替わりファンタジーを名手・森下佳子のオリジナル脚本で。知名度の低い若手俳優を抜擢しつつ、原作漫画を“日曜劇場風”に脚色。コロナ禍で奮闘する医療従事者にエールを送るような医療ドラマ。約半世紀前の原作小説を令和版に脚色と、思い切ったプロデュースで力強く成功を引き寄せた。
善悪をはっきり描き、過剰な演技などのけれん味あふれる作風は、好き嫌いこそあるが、「けっきょく見てしまう」という人が多く、幅広い視聴者層を獲得。さらに『TOKYO MER』は放送終了後にDisney+で、『日本沈没』は各話の約2時間後にNetflixで世界配信するなど、グローバルな展開を見せはじめている。
来年1月スタートの『DCU』もハリウッド大手制作会社との共同制作であり、企画の段階から世界を意識した作品。「放送収入の低下を配信収入で補う」「コンテンツ制作力で稼いでいく」という意思の見える戦略であり、成否の行方がドラマ業界に影響を与えるだろう。
2位 『おちょやん』『モネ』『カムカム』“重い”“つらい”朝ドラが復活
今年放送された朝ドラは、『おちょやん』『おかえりモネ』『カムカムエヴリバディ』の3作。いずれも放送前の印象よりずっと「重い」「つらい」を感じさせる作品だった。
2015年に『あさが来た』がヒットして以降の朝ドラは、どこか牧歌的で浮き沈みが少なく、悪人がごくわずか。「朝から重い・つらい物語は避けたい」という視聴者に合わせるような作品が主流となっていた。
しかし、昨年の『スカーレット』『エール』から重い・つらいシーンが見えはじめ、今年の『おちょやん』では全開に。ヒロインはどん底に突き落とされ、そこから立ち直る姿を辛抱強く描いた。
続く『おかえりモネ』も、東日本大震災を真っ向から扱い、さまざまな思いを胸に秘めた内向的なヒロインを丁寧に描き、『カムカムエヴリバディ』では、次々に家族を失い、最愛の娘とも生き別れる初代ヒロインの姿が反響を集めている。もちろん制作サイドは、「重い」「つらい」だけを描いているわけではない。それらがあるからこそ温かさや幸せが際立ち、視聴者の感情移入をうながしている。
いずれも視聴率の高低以上に、視聴者の反応は良好で、3作ともSNSの動きは活発。しかも愛情の深さやヒロインへの愛着を思わせるコメントが多く、週5日を半年間にわたって放送できる朝ドラの強みが表れている。
もともと朝ドラは、『おしん』に代表されるように「重い」「つらい」シーンがあるからこそ、感動を集めてきた歴史があり、「ようやく本来の形に戻った」と言えるのかもしれない。
1位 『最愛』大ヒットで長編ミステリーのブーム到来なるか
秋に放送された『最愛』は、TBS歴代1位の配信視聴数を記録したほか、ネット上でさまざまなコメントが飛び交い続けるなど、終わってみれば今年一番の話題作だったのではないか。
これほどの反響を集められたのは、「それぞれの“最愛”をめぐる切ない人間ドラマ」「事件の真相と犯人捜しの考察」の2点で視聴者を引きつけたからだろう。どちらの点から見ても楽しめる上に、もともと長編ミステリーは難しさからめったに制作されないジャンルだけに希少価値も高かった。
その立役者は主に、脚本・奥寺佐渡子と清水友佳子、演出・塚原あゆ子、プロデュース・新井順子のトライアングル。彼女たちは、かつて湊かなえ小説の『夜行観覧車』『リバース』『Nのために』を手がけた実績がある長編ミステリーのスペシャリストであり、『最愛』はそれらの経験を踏まえて制作されたオリジナルだった。
ちなみに、同時期にスタートした同じ長編ミステリーの『真犯人フラグ』は、「考察合戦の状態を作るために、あやしい人物とショッキングな描写を次々に投入する」という策が裏目に出て、今のところ評判は芳しくない。しかし、『最愛』のスタッフが凄すぎるだけで、難易度の高い長編ミステリーに挑戦しているだけでも称えるべきだろう。
もともと「3カ月かけて1つの大テーマを追う」「最も続きが気になる」という長編ミステリーは「作り手たちの憧れ」と言われるジャンル。連ドラの醍醐味が詰まったジャンルであり、ネット上の反響も大きいだけに、「結末を誰も知らないオリジナルを手がけたい」と思っているプロデューサー、脚本家、演出家は多いはずだ。
連ドラの企画は早く、来年の予定は多くが決定しているだけに、すぐに増えるわけではないが、TBSはもちろん他局も「『最愛』のようなドラマを作ろう」という動きがあるだろう。裏を返せば、「難易度が高いから」「視聴率のリスクが高いから」とチャレンジする姿勢を見せなければ、近いうちに資金力で勝る配信ドラマに太刀打ちできなくなってしまうかもしれない。
1990年代から2000年代前半あたりまでは多くの長編ミステリーが制作され、しかもその大半がオリジナルだった。やればできるが難しい。それを「やる」か「やらない」か。作り手たちの覚悟が試されるジャンルであり、『最愛』はそのきっかけを与えてくれたのではないか。
最後に、好き嫌いというより、“挑戦・差別化・希少価値”という観点で選ぶ個人的な“2021年の年間TOP10”を選んでおきたい。
10位『珈琲いかがでしょう』(テレ東系)
9位『ハコヅメ』(日テレ系)
8位『コタローは1人暮らし』(テレ朝系)
7位『八月は夜のバッティングセンターで。』(テレ東系)
6位『知ってるワイフ』(フジ系)
5位『恋です』(日テレ系)
4位『ここは今から倫理です。』(NHK)
3位『その女、ジルバ』(東海テレビ・フジ系)
2位『うきわ ―友達以上、不倫未満―』(テレ東系)
1位『最愛』(TBS系)
終わってみれば、コロナ禍に翻弄された2021年のドラマ界も力作が多く、ここで挙げたものは一部にすぎない。未視聴のものは年末年始の休みを利用してオンデマンドで視聴してみてはいかがだろうか。
最後に、ドラマ制作のみなさん、俳優のみなさん、今年も1年間おつかれさまでした。2022年も「多くの人々を楽しませる」「心から感動できる」ドラマをよろしくお願いいたします。