春のスペシャルイベントにおいて、M1を搭載した「iPad Pro」、リモコンを刷新した「Apple TV 4K」、数年前から噂になっていた「AirTag」を発表。iPad Proの12.9インチモデルはディスプレイにミニLEDバックライトのLiquid Retina XDRを搭載しています。
そして9月イベントで「iPhone 13/iPhone 13 Pro」、画面を拡大した「Apple Watch Series 7」、新デザインで画面を8.9インチに大型化した「iPad mini」を発表しました。
iPhoneとiPad、Apple Watchに関して、今年は安定した製品の年だったと言えます。デザインに大きな変更はなく、刺激的ではなかったものの、今の設計・デザインで成熟期を迎えた魅力を備えた製品です。
戦いとは常に二手三手先を読んで行うものだ
今年のiOS/iPadOS、macOSのメジャーアップデートの最大の特徴は、新機能やサービスの多くが全てのプラットフォームで同時に利用できるようになったことです。
以前はiPhone優先で、iOSに新しいアプリや機能が投入されても、iPad版がすぐに用意されなかったり、Mac版は登場しないことがままありました。Appleは時間をかけてiOSとmacOSでサブシステムの共有を進め、その一方でタブレット向けにiOSからiPadOSを独立。そしてiPad向けアプリを簡単にMacに移植できる「Catalyst」を用意し、昨年MacのプロセッサにiPhoneやiPadと同じApple Siliconを採用しました。そうした長年の取り組みの成果が今年のアップデートです。FaceTimeの強化、「集中モード」、「テキストの認識表示」など、iOS 15/iPadOS 15とmacOS Montereyで、それぞれのデバイスの良さを活かしながら同じ機能を利用できます。
Apple製品を通じて使える共通のAPIというような環境が整いつつあります。Appleプラットフォームの規模で整理が進むことで、全てのOSの共通のインターフェイスであるSiriによる音声操作が活きてきます。それによってスマートホーム・デバイスなど、キーボード/マウス、タッチ操作が使えないデバイスを扱いやすくなります。噂されるhomeOSやReality OSの展開も現実味を帯びてきます。
こういう時は臆病なくらいがちょうどいいのよね
Tim Cook氏がCEOになって以降、iOSのアップデートが51%増加しているそうです。特に、ここ数年でアップデートの増加が指摘されることが増えました。安定性の低下から、OSを毎年メジャーアップデートするサイクルの限界も議論されています。
アップデートのリリースは特に秋のメジャーアップデート後から冬の時期に増えていています。これは単体で動作していたOSが他のOSと連携して機能するようになり、複雑化しているのも大きな原因の1つです。iOS/iPadOSは9月、macOSは10月以降のリリースが多く、リリース時期が異なるOSのすり合わせや連携の調整・修正などでアップデートの頻度が増します。それらよるトラブルも少なくありません。
今年はこれまでのところ、ここ数年と比べてOSアップグレードの安定性が向上しています。これもOSの連携整備が進んだ成果の1つなのかもしれません。また、Appleはこれまでセキュリティ機能が向上する新しいOSになるべく早くアップデートするように呼びかけていましたが、アップグレードのプロセスに対してより慎重になっています。iOS 15/iPadOS 15では、リリース後すぐにアップデートせず、重要なセキュリティアップデートを受け取りながらしばらくiOS 14を使い続けられるオプションが用意されました。
製造プロセスの違いが戦力の決定的差ではないということを…教えてやる!
2022年は2年計画であるM1への移行の最終年です。あとはMac ProとiMacの上位モデルを残すのみ、デザイン変更なしでM1搭載になったMacBook Air、Mac mini、13インチMacBook Proの新デザインも噂されています。
iPhoneに関しては、iPhone SEの5G対応の新世代モデル、そして次期iPhoneは無印モデルのminiがなくなって、画面が大きいiPhone 14 Maxが登場するという噂も。また、4,800万画素のカメラを搭載するとも報じられました。4,800万画素というとこれでしょうか…。
さて、AppleのSoCを製造するTSMCが2022年に新しい製造プロセスによる量産を開始します。
Appleは半導体の微細化で競合をリードするTSMCとの強いパートナーシップによって、どこよりも早く7nm(A12)と5nm(A14)で製造されるSoCを用いて、SoCの性能でライバルを引き離してきました。製造プロセスの微細化は性能と効率性の向上に大きく貢献するので、デバイスの進化にもつながります。
これまでの経緯から予想すると、次のiPhoneで初めて3nm製造のSoCを搭載し、追いついてきたライバル再び引き離すというシナリオになります。しかし、3nmの量産は当初の計画より遅れていて、TSMCの情報アップデートによると、N3ノードを使った最初のチップの量産開始は2022年後半です。数も要求するiPhoneへの採用は厳しそうで、5nmの派生プロセスであるN4(4nm)が有力視されています。3nm製造については、SamsungもGAAを適用した技術で巻き返しを図っており、3nm製造のSoCを搭載する初のスマートフォンはiPhone以外のスマートフォンになるかもしれません。
もしiPhoneのSoCがN4製造になるなら、3nm製造による最初のAppleのSoCはMシリーズになる可能性が高くなります。例えば、来年前半にWWDCでMac Proのスニークピークを行って、年末に発売という2013年のMac Pro発表の再現も考えられます。
プロ向けデスクトップとなると、電力の制限にしばられないパフォーマンスの競争になりますが、その市場でApple Siliconが競争できるでしょうか。M1 Pro/Maxを体験した今、1年間のような不安はありません。期待が膨らむばかりです。
Appleでプラットフォームアーキテクチャ・チームを管理するTim Millet氏が、Rene Ritchie氏のYouTubeチャンネルで語っていたことを1つ紹介すると、Appleの強みは一般的な手法とは全く逆のシステム作りです。一般的には、最初にチップがあり、デバイスメーカーはそれをマザーボードに載せる方法を考え、平行して別の誰かがチップを冷却するのに十分なサイズのファンを作成。そして、その上でソフトウェアがどのように動作するか見てみます。Appleでは、チップを設計する前に、SoCを開発するチーム、製品デザインチーム、ソフトウェア開発チームがワークロードチームと話し合い、最終製品の要求を理解し、それを実現する性能・機能、デザインを目指して連携して開発を進めます。最終製品がどのように使われるか思い描いて、チップレベルからカスタマイズするのです。
今のAppleならプロ向けデスクトップを必要とするユーザーが求めるワークロードを正しく想定して、期待に応える製品を届けてくれるのではないでしょうか。
MacのApple Silicon移行が完了する2022年は今年よりも劇的な年になりそうです。さらに2022年の「one more thing.」としてパススルー機能を備えたVR(仮想現実)ヘッドセットの発表も噂されています。Appleはかねて、AR(拡張現実)に積極的でしたが、同社がAR/VR市場に本格参入する意義はあるのか、後編では2022年以降も含めた長期的な視点からAppleの今後について展望します。