労働人口の減少が続く中、企業はさまざまな施策で人材を得ようとしている。NTT東日本もまた、「99%リアルなSE業務体験」をテーマにインターンシップを行った。その最終日の様子を見学しつつ、参加した学生とNTT東日本にそれぞれの感想、そしてインターンシップにかける想いを聞いてみたい。
NTT東日本が現実さながらのインターンシップを行うワケ
「NTT東日本は、インターンシップ自体を抜本的に改善しなければならないと考えています。就職活動は、すでに我々が一方的に学生を品定めするような環境ではありません。学生に『この会社に入りたいな』と思ってもらわなくてはならないのです」(伊藤氏)。
NTT東日本 総務人事部の伊藤信吾氏は、このように就活の現状を語る。これまでのインターンシップに対する学生の認識の多くは「参加することで採用に有利に働くもの」だっただろう。だが、優秀な学生が企業を選べるようになり、インターンシップもその中身が問われているのかもしれない。
「SEになりたくてインターンシップに来ている学生さんに、実際の業務にない内容をやらせて、入社後に『あれ? こんな仕事じゃなかったんだけど?』と離職される可能性もあるわけです。こうなっては、学生も企業もどちらも不幸じゃないですか。それだったらお互いにウソをつかず、インターンシップからリアルな業務を経験してもらい『SEをやりたいのか、やりたくないのか』正しく判断してもらった方が良いと思いました」(伊藤氏)。
NTT東日本の業務を想定しプロポーザルを体験
NTT東日本のインターンシップは5日間の日程で行われる。参加者は10グループに分かれ、それぞれが仮想の会社を作る。そして、仮想自治体の教育ICT案件を受注するためにプロポーザル(提案)に望むというストーリーだ。なお、各社には学生を導くアドバイザーとして、NTT東日本 人事部の社員ひとりが"先輩"として加入する。
新型コロナウイルスの影響がまだまだ強いため、参加者も社員もZoomでオンライン参加。昨今の情勢を考えると、これが逆にリアルさを感じさせる。また現実であれば選定されるのは1社だが、インターンシップでは参加人数が多いため、10社をさらに5社ずつに分け、最終的に2社の案が選定される。
SE向けとはいえ、ほとんどの学生は実際のネットワーク設計に関して素人同然。当然、そのままでは業務をこなすのは難しい。そこで初日はハードウェア、ネットワーク、セキュリティ、クラウドといった、実際のSE業務で求められる基礎知識のレクチャーを受ける。
こうして学生たちは、それぞれの会社でお互いを高めあい、他の会社と競い、ときに先輩社員から学びながら、SEの仕事を学んでいくことになる。
さらに詳しい内容は、夏に開催された同インターンシップの模様を取材した記事『NTT東日本が目指したのは「リアルを超えるインターンシップ」 - 99%の参加者が「大変満足」だった新プログラムの中身』で紹介している。興味のある方はぜひご一読いただきたい。
インターンシップに参加した学生のリアルな声は?
最終日のプロポーザルを終え、ネクタイも外して一息ついている学生たち。あとは結果を待つだけというみなさんに、このインターンシップの感想を聞いてみた。
──インターンシップでは、最初にSEに必要な知識を学べる研修が準備されていました。この課程をどのように感じましたか?
春日部さん:知識の共有に苦労しました。私も理解していなかったことがたくさんありましたが、参加者の中には情報系どころか、もっと予備知識がない文系出身の人も居て、まずグループ全員を同じ水準まで引き上げなければなりませんでした。
小森さん:自分は理系とはいえど情報系の人間ではないので、初日はやはり辛かったですね。しかしグループ内には苦労を分かってくれる人もいたので、理解できなかったところをお互いにヒアリングし、理解している人やNTT東日本の先輩社員から学んでいきました。
佐々木さん:3日目以降の話になるのですが、僕たちのグループでは知識を共有するために、提案依頼書を上から読み合わせをしていきました。そして重要な事柄をパワーポイントに書き出し、"コレを見れば分かる"という知識をまとめた紙を一度作成しました。
──知識を学ぶだけでなく、その後実践するにあたっては情報共有も重要そうですね。さて、グループごとに仮想の会社を設立しましたが、みなさんの会社はどのようなコンセプトでしたか?
小森さん:自分たちは会社名を「CCS(Co-Creating Customer Service)」としました。企業理念は、お客さまのことを第一に考え、お客さまと一緒に未来を作っていくことです。NTT東日本さんはお客さまとの距離感を大事にしていると思うので、これを理念としました。
佐々木さん:僕たちの会社の名前は「For Smart」です。世界はいまICTによって利便性が向上しています。これをよりお客さまの身近に構築したいという想いからつけました。「Smart City」という言葉がありますが、街だけでなく世界も変えていきたいということで、企業理念は「Smart Worldを実現します」としました。
春日部さん:世界レベルのことまでは全然考えてませんでした(笑)。私たちのグループには、みんなの出自が異なる中で、「やるからにはオンリーワンを作り上げたい」という共通した想いがありました。その上で、プロポーザルでは教育とICTがテーマだったので、オンリーワンの"1"とICTの"I"が似ているということで「Education I」という社名にしました。
──各グループ(各社)と自治体の間で計2回、60分間の打ち合わせが行われたそうですが、実際の業務さながらの打ち合わせを体験した感想を聞かせてください
佐々木さん:僕たちの1回目の打ち合わせは失敗しました。お客さまがお持ちの知識を把握しない状態で、SEが用いる用語で質問をしてしまったからです。必要な回答を得られず、いわばSEの仕事を相手に任せる形になってしまいました。この反省を踏まえ、2回目は自分の立ち位置、そしてSEという仕事は何のためのあるのかを考え直し、「僕らが知識を持っているからこそお金がもらえる」という自覚を持って質問をしました。
春日部さん:私たちの会社の反省点は、行く時間が遅すぎたことです。毎回最後になってしまい、印象が良くなかったと思います。2回目に至っては「スケジュール大丈夫?」と聞かれてしまいました。それでも逆に最後であることを利用して、他のグループから情報を共有させてもらいつつ、改善点に基づいてヒアリングできたという点で強みになったと思います。
小森さん:自分たちの会社は1回目と2回目で行くメンバーを変えました。私は2回目に参加しましたが、1回目の手応えが良くなかったことを聞き、戦略を変えました。実際の案件を踏まえると、選定はプロポーザルだけで決まる物ではありません。打ち合わせの段階からお客さまとの距離を縮める必要があるのではないかと考え、2回目はとにかく"お客さまと仲良くなりに行く"ことを目的にしました。結果として市役所の方の想いを聞くことができ、良いヒアリングになったのではないかなと思います
──さまざまな学部、学科の人たちがひとつの会社を形作ることは、どのようなメリットがあると考えますか?
佐々木さん:一言でまとめると多様性ですが、出身が異なることでモノの考え方、捉え方が変化することだと思います。自分が考えも及ばない提案も出てきました。
春日部さん:最初はグループ内での知識の壁が大きなハードルだったと思います。ですが壁を乗り越えたとき、逆に強さを感じました。いまでは全員がほぼ同じ知識を持っていると私たちは自負していまして、1+1が無限大になるんだなと実感しています。
小森さん:自分のグループにも文系出身の方がいましたが、成長したいというモチベーションは非常に高く、我々理系の知識に食らいついてくるんです。それに対して説明を行うことで自分の知識を再確認できますし、こういったやりとりがあるからこそ固定概念に捕われることなく進められたと思います。
──みなさんが、5日間のインターンシップで得たことを教えてください。
佐々木さん:僕は「一歩引いて考える」ことを苦手としていましたが、先輩社員からその点を指摘いただき、気づけるようになってきました。将来的にはプロジェクトマネージャーになりたいという想いもあるので、ワンステップ上がれた、成長できたと感じています。
春日部さん:より現実に即したSEのワークフロー、考え方を学ぶことができました。先輩社員が良いタイミングで方向修正してくれたおかげで、お客様目線で考え、自分たちがなにをするべきかが分かったと思います。また私一人だけでグループをまとめられるわけではなく、繋げてくれる方がいたからこそ、チームとして機能したのだと感じました。
小森さん:一言で言うと、NTT東日本さんの良さがわかりました。現場でSEとして働く先輩社員がどんなプライドを持って仕事をやっているか、他の通信会社との違いはなにか。これがインターンシップで一番得られたことだと思います。
──ありがとうございます。みなさんの会社の提案が選定されることを祈っております!
今回のインターンシップでは、各グループに先輩としてNTT東日本の社員が入り、サポートを行った。社員側から参加した学生はどう見えていたのだろうか?