次に、福岡市天神地区のまちづくりについて、常務執行役員の田川真司氏が説明。福岡・天神の立地や、物価の安さ、若者比率や起業希望者の割合の高さ、ワーカーの住みやすい街に選ばれていることなどが取り上げられた。2014年に国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」に選定されたことを成長エンジンとして、福岡市は創業支援施設による情報提供・相談・交流をはじめ、「福岡市スタートアップパッケージ」として、外国人の創業を6ヶ月間特例的に認めることや、最大5年間の法人市民税減税などを実施し、経済発展にも寄与している。

2015年からは、国家戦略特区による施策や福岡市独自の施策をひとつのパッケージとし、福岡市が「天神ビッグバン」を始動。天神地区においては、航空法による高さ制限がある中、エリア単位での特例承認や容積率の緩和、地下ネットワークの強化、地下鉄延伸などの取組みを進めている。国際金融機能誘致の取組みも紹介され、シンガポールの投資関連事業や国際法律事務所など国内外の10社を誘致した。

  • 天神エリアは博多駅や博多港、福岡国際空港へのアクセスにも優れる

天神のエリアマネジメントは、ソフト面・ハード面に分けて推進組織をそれぞれ立ち上げ、地権者や企業と手を組んでまちづくりを推進している。ソフト面は「歩いて楽しいまち」「心地良く快適に過ごせるまち」「持続的に発展するまち」を目標に、ハード面では「アジアで最も創造的なビジネス街」を目標としている。都市機能として、良質なオフィス環境、人や企業の呼び込み、出会い・交流を促すしかけをつくり、空間整備の点では美しい街並みと快適な歩行空間、環境との共生および安全・安心の向上をめざす。

それらを踏まえた上で、大型開発プロジェクトのひとつ「福ビル街区立替プロジェクト」で建設予定の「新福岡ビル(仮称)」の説明が行われた。「創造交差点」を開発コンセプトに、アジアと九州・福岡、働きと暮らし、2つの面でつねに新しいビジネスと文化を生み出す場所にしていきたいと田川氏は話す。外装デザインはニューヨークのKPFが手がけ、ランドマーク性の高い建物となるとのこと。6・7階スカイロビーおよびオフィス共用部の内装にもKPFを起用し、外装との連続性やビル全体の調和を意識したデザインとなる。

  • 「新福岡ビル(仮称)」の外装デザイン

  • 外装デザインには米国のKPFを起用する

フロア構成としては、地下4階から地上19階まであり、地下3・4階は駐車場、地下2階から地上4階までは商業施設、6・7階はスカイロビーを建設する予定。8~17階はオフィス、18~19階はワーカー向けホテルとなる予定となっている。地下2階は天神地下街・地下鉄天神駅と直結させる。スカイロビーにはカフェやコワーキングスペース、ジムなどオフィスワーカーを支援する機能を多数備え、共用部は開放感のあるテラス・ラウンジの設置を予定している。

  • 6階スカイロビーに設置されるパブリックスペースのイメージ

感染症対策として、自然換気が可能になるダブルスキンの導入が予定されている。内側・外側にそれぞれガラス窓を設けることで、天候や騒音に関係なく常時換気が可能になる。もちろん、2枚とも窓を閉じれば省エネや断熱効果も期待できる。その他、非接触エレベーターや5Gによる通信環境を導入予定。環境負荷を低減すべく、CO2除去デシカント空調機の設置、CO2排出量削減のための地域熱供給システムの導入も行う。

ビジネス環境としては、西日本最大規模となるワンフロア約1,400坪のオフィスとなる。天井高は3m確保され、柱のない空間として設計されるので、大きな面積を必要とするテナントも効率よく利用できる広さと開放感が実現。セキュリティも万全に整え、とくに高層・中層バンクにはセキュリティゲートが設置される。VIP動線と車寄せも確保されるとのこと。LGBT対応として「みんなのトイレ」を設置するほか、ジェンダーレスカラーを使用して男女の色分けを行わないという施策も行う。

災害対策として、停電時でも作動する高性能制震システムを導入。水害に備え、防災センターは2階に、主要な受変電設備のある機械室は5階に設置し、ビル管理設備の浸水リスクに対応する。建物の出入口等には防潮板も設置予定。BCP対応の点では、非常用発電機にデュアルフュエル・ガスタービン発電機を設置し、中圧ガスによる電力供給が可能に。重油を利用することで72時間の運転も可能となる。災害時の衛生設備として、下水本管が万が一断裂したとしても3日間はトイレを使用できる。これらの地震・水害対策とBCP対応を行うことで、災害にも強いオフィスビルをめざす。

「新福岡ビル(仮称)」は12月に工事着工予定、2024年12月竣工予定とのこと。幅約100m・奥行き約80m・高さ約97mという規模で、明治通りと渡辺通りの交差点に位置することにより、福岡の新たなシンボルとなるだろう。