大輝が心の中で思っていることは、視聴者には明白だ。梨央を信じたいし、守りたいのだ。その前提がありつつ、冷静沈着に刑事としての立場に徹することで「大輝、つらいな」と同情することができる。だが、大輝は所々で心の声が漏れ出てしまうことで「大輝、分かるよ」と切ない気持ちに共感できるのだ。前半部分の松下の演技を見ていると、この心の声の漏れ具合が絶妙で、とにかく大輝と梨央という2人の関係性に感情移入してしまう。

物語が進むにつれ“刑事として”の大輝の立ち振る舞いは、徐々に崩れていく。特に梨央の弟である優(高橋文哉)の出現によって、大輝は刑事としての建前よりも、学生時代の“大ちゃん”でいることをより大切だと感じてしまうスイッチが入る。ついに同僚の前でもはばかることなく「梨央」と呼ぶまで心の声が表に出てしまったのだ。

ここでも、ただ梨央への思いを爆発させているのではなく、あくまで“漏れ出てしまった”と思わせる松下の染み入るような芝居によって“切なさ”が強く胸に宿る。ある意味で、大輝という人物を演じているのではなく、感じているような……。

本作がオンエアされる前のインタビューで、松下は塚原あゆ子監督から「表情だけで思いを表現しなくてもいい」とアドバイスされたという。言い換えれば「伝えよう」と思わなくて、演じる役を感じていれば、おのずと漏れ出てくるということなのかもしれない。

松下の芝居を観ていると、心に宿した思いを出しているのではなく、身体から漏れ出ているように感じる。その結果、刑事としての立場を脅かしてしまうことになってしまっても、見ている側は「行け!」と応援したくなる。でも梨央は大輝の刑事としての立場を考え「ダメ」と拒絶する。松下が大輝を見事に演じているからこそ、2人の関係は、設定のさらに上をいくドラマチックさを観ている側に与えてくれる。

6話終了時点で、物語は大きな展開を見せた。完全オリジナルストーリーだけに、2人はどこに着地するのかは、正直分からない。しかし、どんな結果になろうとも松下演じる大輝の『最愛』は遂げられることを祈っている視聴者は多いのではないだろうか。引きで映る佇まいだけで、切なさを表している松下の大輝を最後まで堪能したい。

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