――コンセプトビジュアルを手がけられた樋口真嗣さんとは、どのような意見交換をされましたか。

今回、仮面ライダーのデザインを一新しましょうという話になったとき、僕ひとりでは自信がなかったんですよ。まずどこから始めればいいかもわかりませんから、ここはやっぱり「その道」のプロフェッショナルに入っていただき、仮面ライダーのアイデア出しを含めて世界観を作ってもらいたいと思いまして、樋口さんに来ていただいたんです。以前から仲良くさせてもらっていたものですから「ちょっと仮面ライダーの仕事を手伝ってください」とお願いしたのですが、お忙しいなか快く引き受けてくださいました。

樋口さんは「そもそもなんで仮面ライダーはバッタの改造人間なのか」という根本から疑問を持ち、バッタ怪人がどうしてヒーローになるのか、そして他の怪人たちがどうして生まれたのか、というところから理論を積み上げ、作品世界を構築していってくれたんです。僕自身、想像もつかないところからの発想で、樋口さんとのディスカッションの中で学び、いくつもの発見がありました。とても心強かったですね。

――まだ発表されていませんが、仮面ライダーBLACK/南光太郎とシャドームーン/秋月信彦のキャスティングがそれぞれどなたになるのか、すごく気になります。(※インタビュー時点では主演は未発表。11月21日にブラックサン/南光太郎を西島秀俊、シャドームーン/秋月信彦を中村倫也が演じることが発表された)

いまの段階で申し上げられるのは「衝撃的なキャスティング」だということです。光太郎と信彦をこの人たちが演じますと発表されたら、みなさん絶対に「ええ~~ッ!?」と驚かれると思います。それだけ意外なキャストだというわけですが、衝撃的につじつまが合っていますので、ご覧になれば納得していただけると確信しています。お2人とも、オファーしたら2つ返事でOKをもらえました。「変身させていただいて、ありがとうございます!」って言ってくれて(笑)。

――すると、これまで特撮変身ヒーローを経験されていない俳優さんということなんですね。もうひとつだけお尋ねしますが、お2人ともこれまでの白石監督の作品に出演したことのある方なのですか?

ひとりは今回初めて組む人で、もうひとりは僕が過去に監督した作品に出ています。

――石ノ森先生が『週刊少年サンデー』で連載されていた漫画『仮面ライダーBlack』は、光太郎が生々しいバッタ男の姿で戦ったり、ゴルゴムによって全世界が壊滅寸前になったりと、テレビ番組の制約を受けない自由な発想で描かれていました。『仮面ライダーBLACK SUN』を手がける際、こちらのほうも参考にされたりしましたか。

もちろん全部読みました。テレビシリーズを観たあとに読んで、ビックリしましたね(笑)。当時の段階で『仮面ライダー』をあのような形でリブートした石ノ森先生が、もっとも冒険されているなあと感銘を受けました。先生が作品に込めたパッションの部分を我々が受け継いで、積極的に冒険をしていかなければと勇気をもらいました。

――もともとの『仮面ライダーBLACK』が、原点の『仮面ライダー』から大きく飛躍し、守るべき部分を守りつつ変えるところは大胆に変えていた作品ですから、『仮面ライダーBLACK SUN』も思い切った冒険のある作品になりそうですね。

確かに、リブートであってもことさらそれを意識せず、要素を盛ってもいいし、捨ててもいいという自由度がありますね。『仮面ライダーBLACK』が目指した方向性や精神を大事にしながらも、思い切ったことをやっていきたいです。

――発表されたコンセプトビジュアルの一部を拝見しますと、かなり生々しくグロテスクな怪人が登場するようです。仮面ライダーと怪人とのアクションシーンについては、どのようなこだわりを入れ込もうと思っていますか。

僕がこれまでの作品で積極的にやってきたような「バイオレンス」寄りに持っていきたいと考えて、現在はアクションチームの方々とプランをいろいろ練っています。仮面ライダーだからといって、ライダーキックでスマートに怪人を倒す、みたいなヒーロー然としたアクションにはしないと思います。

樋口さんとのお話の中で「たとえば、バッタとカマキリが殺し合いをしたとき、両者がどういう結末を迎えるか」みたいな話題が出てきました。お互い、ガジガジかじりついたまま2時間くらい経過して、気が付いたら死んでいるとか。そんなの映画でどうやって表現するねんと思いましたが(笑)、そういうところからひも解いていき、生々しい怪人同士の戦いをビジュアルとしてお見せできるならば、ご覧になった方の心に重くのしかかるような映像になるのではないかと考えています。

――配信作品ということですが、視聴ターゲットについてはどのようにお考えでしょうか。

映像表現については、これから精査するべきところです。とはいえ、あまりハードルを上げすぎてもよくないかなと思っていて、ある程度の年齢の子どもから大人まで幅広い年齢層に楽しんでいただけるような形にはしたいと考えています。

ただ、作品を作っていくなかでどうしても必要だと思ったら、いかに残酷な描写であってもそこは躊躇せずやっていくつもりです。人間同士なら「ちょっとこれは……」と思う場面でも、異形の怪物同士の戦いだったら子どもたちにも見え方が違ってくるでしょうし、やり方はあると思っています。

――白石監督は『仮面ライダーBLACK SUN』をどのような方たちに観てもらいたいと思われますか。

仮面ライダーが大好きな人はもちろんのこと、ふだん「仮面ライダー」シリーズを観たことのない方たちにもぜひご覧いただきたいです。『仮面ライダーBLACK SUN』をきっかけにして、新たな仮面ライダーファンを増やしたいという意欲がありますし、そんな気構えでこれから撮影に臨みたいですね。

――最後に『仮面ライダーBLACK SUN』を楽しみにしている大勢の方々に向け、白石監督からメッセージをお願いします。

『仮面ライダーBLACK SUN』は僕の映画監督キャリアの中でも「転換点」になる作品だと思っています。本当に、もう一回デビュー作を撮る機会が訪れた……というくらい、自分で期待をものすごく高めているところです。その思いはきっと作品を通じてみなさんに伝わると思いますので、どうぞ楽しみにしていてください。

僕がこれまで作ってきた映画には「正義と悪の境目」というテーマがあって、そこは今回もブレずに入れ込んでいます。僕の師匠である若松孝二監督は「俺の映画は、観ている客にナイフを突きつけて終わらせるんだ」と常々言っていました。つまり、観客のみなさんに「あなたはどう思ってるの?」と問題を提起する姿勢です。そんな『仮面ライダーBLACK SUN』がどう受け止められるか、不安もありますが、やってやりたい!という闘志のほうが強く、今はやる気に満ちてファイティングポーズを取っているところです。

(C)石森プロ・ADK EM・東映