テレワークが普及し、営業活動が大きく変化している。そんな中でクラウドサーカスは従来型の"足で稼ぐ"営業スタイルからオンライン営業へ完全にシフトすることで業績を上げた。その成功の秘訣とは? 「Fullstar(フルスタ)」のプロダクトオーナーの橋口浩暉に迫る。

  • クラウドサーカス 「Fullstar」プロダクトマネージャー 橋口浩暉氏

成長を続けるクラウドサーカス

クラウドサーカスは、デジタルマーケティングとITインフラを事業とするスターティアHDのグループ会社だ。2012年にAR制作ソフト『COCOAR』を開発。さらにMAツール「BowNow」、などSaas総称「クラウドサーカス」として10のSaas商材を提供し、ここ数年でSaas企業として大きく躍進した。2021年現在、「クラウドサーカス」の導入件数は約2万2,000件まで伸びている。

同社が短期間のうちに大きく営業成績を伸ばすきっかけとなったのが、営業スタイルの抜本的な改革。それまで中心だった訪問営業をほぼすべてオンライン営業に切り替えることで、企業文化すら変えることに成功している。社会情勢の変化に伴い、多くの会社が新しい営業の仕方を模索する中、クラウドサーカスの変革が成功したのはなぜか。同社の橋口浩暉氏に伺った。

橋口氏は、2018年にMtame(現クラウドサーカス)に入社。MA(マーケティング・オートメーション)ツール「BowNow」のインサイドセールス、オンラインセールス、カスタマーサクセスのマネージメントに携わった。現在はカスタマーサクセスマネジメントシステム「Fullstar(フルスタ)」の責任者として開発・戦略立案・導入支援を行っている。

  • クラウドサーカスで取り扱っているツール

オンライン営業へのシフトを決めた理由とは?

「クラウドサーカスは2018年4月から本格的なオンライン営業が開始しました。それまでは訪問営業、いわゆる"どぶ板営業"が基本となっており、それが企業の文化だったといえます」

橋口氏はこのように振り返る。営業スタイルを変える大きなきっかけとなったのが、同社のMAツール『BowNow』だ。BowNowの営業活動は現在オンラインが主流だが、2018年当時のBtoB営業においては異例の取り組みだった。当然顧客の反応も渋く、全体の5%ほどではあるが「お越しいただけないなら結構です」と断られるケースもあったという。

「BowNowではすでに訪問営業を一切行っていません。一部のお客さまが離れていくことは仕方がないと割り切って、『それでもいいよ』といってくださる会社さんを大切にしてきました。そのぶん、オンライン営業を受け入れてくれる会社さんからは好意的な反応をいただいています。我々はITサービスを提供する立場なので、そういった点も含めて評価いただけたのではないかと思います」

この「訪問営業をしない」という方針を決めた理由は2つあるそうだ。

1つ目は、「お客さまのために使える時間を最大化する」という点。客先を訪問するには、近い場所でも往復で1時間程度かかる。これからBowNowをどんどん広めて行こうと考えていたクラウドサーカスでは、その時間を企業の活用支援などに充て、有限な時間を顧客のために費やしたかったという。

2つ目は、BowNowの事業モデル。実はBowNowの月額利用料は非常に安い。2018年当時のMAツールは全体的に高価で、一定以上の企業でなければ導入が難しかった。だがそういった企業はすでに大手のMAツールを導入している。そこでBowNowは、これからICTへの取り組みを進めようとしている中小企業でも使ってもらえるよう、単価を大きく下げた。単価が低い分、訪問するコストがネックになり利益を上げられなくなってしまうため、オンライン営業に完全シフトした。

「当社のお客さまはIT企業が多いと思われがちですが、実は6~7割が地方の小さな製造業の方です。デジタルシフトが叫ばれていますが、小さな会社はそもそも資源がなく、チャレンジも難しいでしょう。そんなみなさまに使っていただきたいと思って開発し、無料で提供しているのがBowNowです」

  • BowNowは無料から提供。初心者でも使いやすいようサポート体制を整えている

クラウドサーカスは「デジタルマーケティングの民主化」を掲げている。ICTの知識が少ない人でもストレスなく扱えるよう、UI・UXにこだわり、カスタマーサクセスも充実させた。また、オンライン営業に完全移行してからMAツール国内導入数で2位になったが、1・3・4位は海外製で、中小企業には使いにくい。そういった点もシェアを伸ばした理由になっている。

こうしてBowNowは、中小企業を中心として急速に売り上げを伸ばしていった。だが同社はそれ以外にもさまざまなサービスを提供している。シンプル・セールスが求められるBowNowはオンライン営業が功を奏したが、コンプレックス・セールスが求められるような大規模なツールは最後まで訪問営業だった。

結論から言うと、この状況を最終的に変えたのは2019年の新型コロナウイルス感染症の流行。多くの会社がオンラインに移行できていない中、すでにオンライン営業を主軸としていたクラウドサーカスの動きは迅速だった。アフターコロナにおいてクラウドサーカスが展開するサービス、そして営業スタイルはより強みとなり、現在に至る急成長が実現する。

「コロナ禍直後は、先が見えない中で多くのBtoB企業が投資を抑えていました。現在は多くの企業がWebに投資をしています。実際、2020年からは当社のサービスも非常に引き合いが増えています。コロナ禍は社会を大きく変えました。企業もいま変わるしかないと思います。当社には地方出身者が多く、地方で頑張っている中小企業の姿を知っています。将来的には、地方に移り住んでも都会と変わることなく働ける社会を作りたいと思っています」