――物語が進む中で「夢がないほうが傷つかなくて楽なんじゃないか」という考えも出てきます。

どれくらいのものを夢と呼ぶのかは人それぞれですが、周囲に決められるだけの夢はつらいんじゃないかな。子どもたちって、まわりが野球選手って言ったら自分も野球選手、サッカー選手って言ったら自分もサッカー選手、と周りに流されることもあると思っていて、大人からすると「本当は何になりたいの?」と心配になることもありますが、フラフラしながらいろんな経験を積んで、最終的に自分で決めればいいのではないかなと思います。

僕も小学生の頃「人気の夢ランキング」を見ながら、この中から選ばないといけないのかなと悩んだことがありました。大人が提示する夢じゃなくて、自分で見つけさせてほしいと思っていたし、夢のせいで本当の自分が見えなくなることもあるので、「本当にやりたいことは?」と聞かれたときに「大人が、親が、まわりがこうだから」という言葉が最初に来てしまうとつらいと思うんです。

たとえ夢を叶えられたとしても、すぐに次を求められる。芸能界でも、たとえば「この賞を獲ることが夢です」と答えても、「賞を獲ったあとはどうするんですか? さらにその後は?」とキリがなく続いていくと思うんです。だから「家に帰ったらビールを飲みたい」こんな小さな夢でもいいんですよね。美味しいビールを飲むためには、ちゃんと仕事を頑張らないといけないですし。ただ、僕にとっては「充実した幸せな日々を送るために無理をしすぎない」という考えも大事だから、「本当にやりたいことはなんだろう」と立ち止まったときに、「もう十分夢は叶ってる」「今幸せだな」と、今の自分を改めて振り返ってみることも大切だと思いました。

――井ノ原さんは、これまでどんな風に自分の夢を叶えてきましたか。

リレーで足の速い子と一緒に走ると、自然とタイムが伸びていることってありますよね。僕は、できないだろうと思うこともできると言ってしまうタイプで、自分を騙しながらやっていたらできていたという経験が結構あって。だからどんなことも「本当は最初からできるんだ」と思えるようになりました。その反面、自分にはできないこともはっきりと分かってくる。だったら、できることややっていて楽しいこと、誰かのためになることを選ぼうと、選択肢がどんどん明確になっていきました。

芸能界への最初の夢はジャニーズ事務所に入ること。入所後は、ものすごく振り分けられるから食らいついていくのに必死でした。「デビューなんかできないよ」と言っている人もいる中で、僕は「できるでしょ」と思っていました(笑)。ネガティブな感情に流されないように自分を騙す意味もあったんですけどね。

何も分からないときこそ、とにかくやってみることも大事だと今になって思います。「できる?」と聞かれたとき、僕はいつも「できる」と答えてきました。でも1人ではなく、助けてくれる人がたくさんいたからやってこれたなと思います。僕1人じゃできないことを、いつもグループという存在に助けられてきました。

――自分1人じゃできないことも、グループがいたから叶えられたんですね。

もちろんもちろん。グループじゃなければできないこともそうだし、ジャニーズじゃなければできないこともたくさん経験させてもらいました。

――最後に、今作の見どころとメッセージをお願いします。

今作もうっかり泣いてしまう作品になっていますが、とにかくかわいいから癒やされてほしいです。すみっコたちにはふわっとした設定はありますが、細かい説明はされていなくて台詞もないから、想像力をかきたてられるところが楽しい。ご家族やお友達と一緒でも、1人でも楽しめる映画だと思います。“逆アベンジャーズ”じゃないですが、すみっコたちは半人前だけど、皆が寄り添い合うとものすごいエネルギーになる。“寄り添う”ことがいかにこの時代に大事かということにも、グッとくるかもしれません。今はこんなふうにすみっこでぎゅうぎゅうになれないですからね(笑)。

井ノ原快彦
1976年5月17日生まれ、東京都出身。1995年にV6としてCDデビュー。以降、グループでの活動のみならず、ドラマ、映画、舞台で俳優として、TVではMCとしても活躍の幅を広げ、老若男女問わず愛されている。近年のドラマ出演作は、カンテレ開局60周年特別ドラマ『僕が笑うと』(19年)、NHK BSプレミアム『カンパニー〜逆転のスワン〜』(21年)、前シリーズを含めると16年にわたって出演している『特捜9』シリーズ(18〜21年)など。主な映画出演作は『天国は待ってくれる』(07年)、『FLOWERS』(10年)、『461個のおべんとう』(20年)。V6として集大成となるベストアルバム『Very6 BEST』が発売中。
『映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ』(11月5日[金]全国ロードショー)
前作『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』から2年、待望の2作目はすみっコたちが暮らす街で青い大満月の夜、魔法使いの5人きょうだいが舞い下りてくることから始まる。魔法がかけられ、キラキラと彩られていく街。やがて魔法使いたちは月へ帰っていくが、ひょんなことからすえっコの“ふぁいぶ”と間違えて“たぴおか”が連れて行かれてしまう……。ナレーションは前作に続き井ノ原快彦と本上まなみ、監督は大森貴弘氏、脚本は吉田玲子氏が務める。

ヘアメイク:松本未央(GON.)、スタイリスト:五十嵐孝智(Yolken)
(C)2021 日本すみっコぐらし協会映画部