“ぼく”ではなく、“ボク”と表記した詩にも、山田なりの問いかけが込められている。「基本的にカタカナが嫌いなんですよ。不思議なことに、カタカナってそれっぽく見えちゃうから、あまり使いたくない。ムロツヨシのことを言ってるわけじゃないですよ(笑)」と冗談めかしつつ、「ひらがなで“ぼく”と書くのは普通だけど、カタカナで“ボク”と書くことで『なんでカタカナにしたんだろう?』という『なんで?』が1個入る。全てのものに『なんで?』が大事だと思っていて。『なんで“ボク”ってカタカナで書いてるんだろう? あっ、もしかして自分の意見じゃなくて、そういう架空の主語を立てているのか。もしかして私のことを言ってるのかな?』と捉えてほしかった」と語る。
デザイン、表記だけでなく、一見してすぐには飲み込めないような複雑な比喩表現を用いた詩も多く見られた。断定的な書き方をしないのは「“こう捉えてほしい”と思っても三者三様じゃないですか? 監督やプロデューサーをしていても、あまり答えを決めつけたくない。取り手次第なので」と考えているから。
自身がプロデュースを手がけた映画『デイアンドナイト』(19)の製作時にも「みんなで『こういう問題点を入れ込もう』と話し合いましたが、『俺たちはこう思う』ということはやりたくないって最初から言っていました。『こういうことがありますよね? どう思いますか?』と提示したかったんです」と明かす。それによって「自分と見つめ合うし、同じ映画を観た人との『どう思った?』という対話につながる。それが重要だと思っている」と述べた。
詩の創作やプロデュース業だけに限らず、山田は自身が行うあらゆる表現において、そうした問いかけを大切にし、「受け取った人がどうなるかは僕には見えないけど、どうにかなるだろうな、ちょっとでも響くところはあるだろうなって。その人が何か行動を起こして、喜んだり悲しんだりしたらいいな」と考えている。それには自身の体験が影響しているという。
まだ洋楽にほとんど触れたことがなかった頃、マドンナのアルバム『ミュージック』を初めて聴いた山田は「言葉もわからない」「彼女がやってきたことの歴史も知らない」なか、「めちゃくちゃかっこいい!」と感動したと述懐。視聴場所も「渋谷・QFRONTのTSUTAYAだった」と鮮明に記憶している。そして「そこで僕は日本語でですけど、音楽を楽しむってこういうことかと気づいているわけじゃないですか? そこから音楽に興味を持った」と言い、自身の表現のベースには「そういう風にみんなの行動に繋がることができたら」という思いがあると話した。
山田孝之
1983年10月20日生まれ。鹿児島県出身。1999年に俳優デビューし、2003年に『WATER BOYS』(フジ系)でドラマ初主演。主演をつとめた映画『電車男』(05)は社会現象にもなった。その後『闇金ウシジマくん』シリーズ(12~16)、『勇者ヨシヒコ』シリーズ(11~16)などのドラマで存在感を発揮。主な出演映画は『クローズZERO』シリーズ(07~09)、『凶悪』(13)、『映画 山田孝之3D』(17)、『50回目のファーストキス』(18)、『ハード・コア』(18)、自身のドキュメンタリー『No Pain, No Gain』(19)など。2019年には主演ドラマ『全裸監督』(Netflix)が全世界に配信され人気を博す。近作の主演は映画『はるヲうるひと』(21)、『MIRRORLIAR FILMS Season1 さくら、』(21)がある。また、映画『デイアンドナイト』(19)ではプロデュース、映画『ゾッキ』(21)で長編監督デビューした。
スタイリスト:五月桃(Rooster)
ヘアメイク:灯(Rooster)
シャツ:64,900円/YOHJI YAMAMOTO(ヨウジヤマモト プレスルーム)