第26回では吉沢の美のみならず話芸の達者さも大いに披露された。実家に帰ってきて歓迎する人々の前で洋行の折り見聞きしてきた土産話を語って聞かせるときの話っぷりの見事なことといったらなかった。要点を押さえて身振りも交え実に生き生きとわかりやすく語る。平九郎(岡田健史)が亡くなって哀しみにうちひしがれ篤太夫を責めるてい(藤野涼子)もついつい彼の話に引き込まれていく。蒸気機関車の話、エレベーターの話、絵が見えるようだった。
朝までみんなで騒いでようやく千代と2人きりになると篤太夫の話し方は血洗島にいたころの素朴な雰囲気に戻る。千代にだけ見せる顔なのだろう。
千代は平九郎のことで自分を責める。千代こそ尾高家の人間だから哀しみは深い。しかも長七郎も亡くなっていた(あの夢は夢枕に長七郎が立ったというような意味なのかもしれない)。千代を抱きしめる篤太夫。いわゆるバックハグだがロマンティックなそれではなくやりきれない千代の哀しみを篤太夫が抱えるような、すべて自分の責任として背負う覚悟をしたような表情は深く胸を打った。
尾高家で生き残ったのは尾高惇忠(田辺誠一)と現在、函館で闘っている成一郎(高良健吾)。惇忠に「パリまで行ってようやくわかったんだ。銃や剣を手に戦をするんじゃねぇ。畑を耕し藍を売り唄を歌い、皆で働いて励むことこそが俺の戦い方だったんだ」「この恥を胸に刻んで今一度前に進みたい。生きている限り」と篤太夫は涙ながらに語る。第26回のキーワードは「励む」である。そこで思い出すのは夢で会った長七郎の言葉だ。「前を向け栄一」「(世を)崩しっぱなしでどうする。この先こそがおまえの励み時だろう」と長七郎は励ますのだった。その言葉を篤太夫は心に刻んだのであろう。
さて、吉沢亮の語りが生きる場面がもうひとつあった。駿府城での慶喜との再会である。ドラマ開始38分頃~40分頃まで2分ほど吉沢は語る。またまた洋行の話だが、今度は慶喜の大事な弟・民部公子(板垣李光人)の活躍を慶喜に語り聞かせる。止まらない篤太夫の語りを聞いているうちに、それまでしょんぼり元気のなかった慶喜が楽しそうに笑顔になっていく。我が弟がいかに外国で励んでいたか聞いて励まされていく慶喜の表情の変化に惹きつけられる。将軍ではなくなってどこか張り詰めたものがなくなった顔に光が差すのだ。
話を聞き終わると礼を言って去っていく慶喜。「どんなにご無念だったことでございましょう」と篤太夫が言っても黙ったまま去っていく。篤太夫の感じたように無念なのだろうがたとえ信頼している篤太夫であっても言わない。そこに将軍だっただけある人物にしかわからない底深い闇があるように感じる。それでもわずか数分間だけでも篤太夫は慶喜に希望の光を注ぐことができたのだ。
(C)NHK