YouTube・サブスク動画配信サービスの台頭、視聴率指標の多様化、見逃し配信の定着、同時配信の開始、コロナ禍での制作体制――テレビを取り巻く環境が大きく変化する中、最前線にいる業界の“中の人”が語り合う連載【令和テレビ談義】。
第2弾は、テレビ朝日『家事ヤロウ!!!』の米田裕一氏、中京テレビ『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』の加藤優一氏が登場。『今夜はナゾトレ』を手がけるモデレーターのフジテレビ・木月洋介氏を含め、4月に3番組が改編となった激戦区「火曜7時バラエティ」演出による裏番組同士の禁断のテレビ談義を、4回シリーズでお届けする。
最終回は、各局に受け継がれるノウハウを公開。さらに、それぞれが最近注目した番組をきっかけに見えてきた名企画に共通する要素、そしてライバル番組への本音を語ってもらった――。
■ナスDからの一子相伝的文化
――米田さんは今、担当のレギュラー番組何本ですか?
米田:レギュラーだと4本です。10月からは全番組が木月さんの裏になるんですよね(笑)
木月:そうなんです(笑)。米田さんに完全に包囲されています(笑) (※1)
(※1)月曜19~20時台…テレ朝『帰れマンデー見っけ隊!!』『10万円でできるかな』、フジ『痛快TV スカッとジャパン』/火曜19時台…テレ朝『家事ヤロウ!!!』、フジ『今夜はナゾトレ』/土曜19~20時台…テレ朝『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』、フジ『新しいカギ』
米田:それもあるので、今日は初めて顔を通せると思って、「あんまり厳しくしないでくださいね」って言おうと思って来ました(笑)
加藤:4本ってすごいですね…。どうやってやられてるんですか?
米田:2番組まではオフライン(※2)も尺出しまで直接全部やってたんですけど、3番組目からはできなくなってきて、今はVTR見ながらタイムコードと直す場所を指示するメモをひたすら書いてます。「それ時間かかるよ」とも言われるんですけど、僕はそれがやりやすいし丁寧に作れるので、「ここはルーズの画に変える」とかのカット割りからナレーションまで、全部の指示入りの原稿を1日中書いてる感じです。
(※2)…PC上での仮編集
加藤:すごい! うちはもう1人竹内(翔)と僕の2人で演出なので。ましてや『オモウマい店』しかやってないので、皆さんおひとりで何番組も掛け持たれているのは、どういう世界なんだろうと思って。
木月:僕は各番組に信頼する相棒の演出家の方々がいて、その方々と二人三脚でやってるというスタイルですね。『スカッと』は大橋圭史D(イースト・ファクトリー)、『新しいカギ』は中嶋亮介D(アール)、特に今回のテーマの『ナゾトレ』は渡辺修D(VIVIA・テレビ朝日映像)と一緒にやっていますが、VIVIAチームはフジテレビに来ると開拓精神がかきたてられるのか、ディレクターさん・ADさん一人一人に至るまで、非常に前のめりな姿勢でやっていただいてます。
米田:僕も相棒的なところもあるかもしれません。自分と同じ『黄金伝説』出身で、ロケや編集のクセというか文法みたいなところでの共通言語が多いディレクターたちが各番組にいますね。『家事ヤロウ!!!』も『黄金伝説』で一緒にやっていたディレクターがチーフにいます。『黄金伝説』は、友寄(隆英=ナスD)さんがトップにいて、当時は家に帰らないで編集所でずっと横についてもらって教えてもらう一子相伝的な文化の時代だったので、ロケや編集で大切にすることがみんな統一されてくるんです。編集所の壁に、「(1)画、(2)音、(3)ナレーション」って書いてあって、編集を覚えたての頃はこの優先順位は絶対間違うなと教わりました。画が一番大切で、ナレーションなんて最初は考えなくていいよと。カメラがブレてたっていいから、編集は一番強い画や一番見たい画を並べていくことだと教わりました。
■『ナゾトレ』は『いいとも』
木月:“友寄塾”があったんですね。テレ朝さんにしかない独特のノウハウが『黄金伝説』で米田さんに受け継がれて、今4番組を担当されて、そこからまた増えていく…これは恐ろしいことになりますよ。中京テレビさんのそういうノウハウは何ですか?
加藤:ローカル局なので、キー局ほどバラエティ番組がないんですよ。だから、僕たちはバラエティ番組へのあこがれが強くあって、情報番組に配属されたとしたら、そこで「少しでも面白いVTRを作ろう」となるんです。料理のインサートに関しても、店主さんが働く画にしても、お客さんへのインタビューにしても、ただ撮るのではなく、他の番組や他のディレクターと一緒にならないよう工夫したり。中京テレビにはそういう先輩方が多くいて、その姿を見て僕たちも育って、いま『オモウマい店』があるという感じですね。
木月:制作に配属されると大体ここの担当になって学ぶみたいな番組ってあるんですか?
加藤:それがまさに『PS』(※3)ですね。地元の情報バラエティなのですが、タレントさんのロケがあったり、『オモウマい店』みたいな店主の生き様に迫るVTRもあったり、いろんな要素が詰まっています。友寄さんのお話のように、取材や編集のノウハウを、僕も先輩の横にずっとついて見ながら学びました。まずは会社で寝ることから教わり、ディレクターのキラキラしてる世間的なイメージは良い意味で裏切られ、何が何でも良い作品を作るんだ!っていうディレクターの背中を見て育ちます。『PS』を経験したディレクターは、泥臭く仕事してる印象です。
(※3)…94年にスタートした『P.S.愛してる!』から続く中京テレビのローカルバラエティ番組シリーズ。
木月:中京さんはそこなんですね。日テレさんは『笑ってコラえて!』、MBSさんは『ちちんぷいぷい』という話が前回あったんですけど、フジテレビだといくつかある中で、僕の場合は『笑っていいとも!』なんですよ。いくらでも形を変えていける何でもできるという番組なので、僕の中で『ナゾトレ』は『いいとも』なんですよ。
米田:『いいとも』だと思うと裏番組としては嫌だなあ(笑)。でも、番組内で採用してるネタのスピード感とかを見てると、本当に『いいとも』ですよね。
木月:数字(視聴率)が出た次の日が収録日なんですけど、その結果を受けてやることを変えられるように、企画をダブルスタンバイしてるんです。
米田・加藤:すごいな…。
■ソフトクリームを食べる画をもくもくと撮り続けるAD
米田:『オモウマい店』のW演出の制度もいいですね。
加藤:1人でやるのって憧れますし、カッコいいなと思うんですけど、2人だからこその良さってあると思います。VTRチェックにしても、2人分の引き出しがあるから、想像が膨らんでいきます。
米田:なるほど。まさに演出のおふたりで作っていくという感じなんですか?
加藤:いや、現場で撮ってきてくれるディレクターやADが全てです。名古屋から何日もかけ取材に行き、戻って来てすぐに編集し、その間ほとんど家にも帰れない。そんなスケジュールの中で、店主さんを思うあまり、お店で何日も働いちゃうディレクターがいたり、お店で放送を一緒に見るディレクターがいたり、暑い中、お客さんがソフトクリーム食べてる画をもくもくと撮り続けるADがいたり。それらを現場スタッフが自発的にやっていて、本当に頭が下がります。
木月:“オモウマい店”は、まだまだたくさんありそうですか?
加藤:結構自転車操業なんですけど(笑)、大丈夫です。
米田:ご飯の量が多いとかだけじゃなくて、いろんな視点がありますもんね。
加藤:そうですね。でも、来週半ばに収録で、本当は7軒くらい入れなきゃいけないんですけど、まだ2軒しか決まってなくて、あと5軒これからどうしようという(笑)。そんな状況も多々ありながらという感じですね。