花と散った渋沢平九郎(岡田健史)……第25回で最も印象的だったのが平九郎であろう。渋沢家の婿養子として「花と散らん」とまさに花が散るように短い命を散らしていった。成一郎や兄・尾高惇忠(田辺誠一)について彰義隊(振武軍)に参加するも敵に襲われ重傷を負う。成一郎たちとはぐれ彷徨う中、てい(藤野涼子)からもらったお守りを取り出し握りしめているところに敵が現れ最後まで戦い自ら死んでいく。たったひとりの若者を大人数で寄ってたかって攻撃することもないだろうと良識を疑うが良識があったらこんな悲劇は生まれていないのか。その首は犬がくわえていったと聞いたと伝聞される。あまりにも酷い平九郎の死は武士として闘うことを選んだ悲劇であるが、途中、やられた仲間を気にかけること、一橋家の領地の者(農民)に世話になったとき彼らが飼っている蚕を見て故郷を思うこと、助けてくれた農民に迷惑がかからないように去っていくことなど、武士として徳川家のためのみに生きるのではなく、最後には個人の人間性に立ち戻ったかのようで、平九郎の行動に様々な意味を見出すことが可能であろう。

みんなのために。渋沢篤太夫……民部公子こと松平昭徳(板垣李光人)と共に外国から戻ってきて、手紙で報告を受けていた大政奉還や鳥羽伏見の戦いなどを日本に残っていた田辺太一(山中聡)、福地源一郎(犬飼貴丈)、須永虎之助(萩原護)と川村恵十郎(波岡一喜)から聞く。平九郎の顛末には鋭い三白眼になり、やがて大粒の涙を浮かべ彼を養子にしたことを激しく後悔する。平九郎は、かつての篤太夫のあり得たかもしれない姿だと考えることができる。血気盛んに尊皇攘夷を企てていた時、篤太夫がこうなっていたかもしれないからだ。それを円四郎が止めて違う道を示してくれて今がある。ところが篤太夫は平九郎の可能性を摘んでしまった。そんな状況でもなお成一郎は戦い続けることを知り、別れを覚悟した手紙を送る。かつては共に尊皇攘夷で徳川幕府に戦いを挑もうとし、その後、慶喜に仕え幕府のために働くようになった者同士、いつも一緒にいたが、海外で学んだ考えがますます柔軟になった篤太夫と、日本に残って武士とは命を捨てることと見つけたり的な考え方のままの成一郎には大きな隔たりができている。篤太夫がますます人の命を奪う刀から人を豊かにする経済の時代に向かっていくのは平九郎の死の影響も大きかっただろう。

兄と分かれた民部公子……慶喜(草なぎ剛)の弟。兄を慕うが、水戸を継いだため朝敵となった慶喜には会えない。さらに天子から公儀の忠臣たちが主に行っている函館の戦いを処理するように命じられる。なかなか悩ましい立場に立たされ、篤太夫を頼っている。

商人の時代。三野村利左衛門(イッセー尾形)……三井の番頭。篤太夫の前に現れ「わしら商人の戦いは」とまるでアニメや漫画の第二部につづく的なセリフを吐く。

江戸編でさようならの人、明治時代にも引き続き登場する人、新たな登場人物。懸命に生きる姿が濃密だった。みんなの幸福のために渋沢栄一に頑張ってほしい。そんな中、徳川家康(北大路欣也)は今後もまだ出るようだ。『青天を衝け』、まことの戦はこれからざんすよ。

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