ぶっ続け30時間! 驚きのパラパラマンガ制作事情

――実際、鉄拳さんは教科書にパラパラマンガを描いたりしてましたか?

鉄拳:描いていましたけど、棒人間でした。この本の最初に出てくるような。ちゃんとしたキャラクターは描いてなかったです。

  • テレビの企画がパラパラマンガを描き始めたきっかけだったそう

――テレビの企画で描いたのがほぼ初めてだったということでしょうか。

鉄拳:そうです。僕のパラパラマンガはクルクル回るやつとか、いろんなアングルのやつが結構出てくるんですけど、それは僕がパラパラマンガじゃないネタを描くときにアングルをどうしようかって迷うときがあるんですよ。「ルパン三世」のネタがあって、五右衛門が斬鉄剣を持って歩いているときにフェンスに斬鉄剣を当てて、ジ~カンカンカンってついやっちゃうっていうのがあるんですよ。あれは、正面から描いた方が面白いのか、真後ろから描いた方が面白いのか、ちょっと斜め後ろから描いた方が面白いのかって、頭の中で考えていて。最終的にちょっと斜め後ろから五右衛門の表情も少しわかる感じで描いたら、すごくウケたんですよ。角度によって、ウケ方の違いってあるんですよね。そういうことを考えて描いているうちに、いろんな角度が描けるようになって、人間を360度、頭からでも下からでも自然に描けるようになったんです。今はどんなものでもいろんな角度で描くことができます。

――有名な「振り子」も、あらゆる角度から描けたから出来上がったんですか。

鉄拳:そうですね。物語の展開はいろんなアニメやマンガ、映画とかを見ていて、「こういうシーンの後は絶対こういうシーンがくるな」っていう展開もだいたいわかってきたので、そういう感じにしています。

――「情熱大陸」で鉄拳さんの密着映像が放送されたとき(2012年12月23日)、パラパラマンガを長時間部屋に籠って描いているのを見てビックリした記憶があります。しかも鳥が飛んできて邪魔をされても描き続けているっていう。

鉄拳:当時、インコを飼っていたんです。描いていると飛んできてうん〇をして邪魔するんですよ。

――あの状況でも描き続けられる根気ってどこからくるのでしょうか?

鉄拳:どこからくるんでしょうね(笑)。まあ僕は、気分を良くしてから描くので。好きな音楽をかけたり、好きなコーヒーを飲んだり。「できあがったらこれを食べよう」というご褒美を用意しておいたり。自分で気分を乗せておいてやるんです。

――とはいえ、集中力が途切れたりもしますよね。

鉄拳:もちろんします。最初の6時間だけは集中して描かないとその後は集中力が切れてダメですね。

――集中していられる時間が我々の想像とは違いすぎました(笑)。6時間ずっと集中しているわけですか!?

鉄拳:集中できます。僕はだいたい朝9時ぐらいに描き始めて、15時ぐらいまではほとんど何も食べずに集中できるんですよ。15時ぐらいに奥さんとごはんを食べるんですけど、その後はもうボロボロです。集中できなくて進まなくて。だから、そこが勝負なんですよね。

――最長でどれぐらい描き続けたことがあるんですか?

鉄拳:最長で30時間ぐらいです。寝ないで30時間。

――ええ~!?

鉄拳:1週間に睡眠が6回だけでしたから。1週間で普通7回寝るじゃないですか?それが30時間描いて、寝て、30時間描いて、寝てって繰り返していたら6回しか寝ていないっていうことが、最初の「あまちゃん」(オープニングと劇中のアニメを担当)の頃はよくありました。2013年ですね。

――「振り子」がイギリスのロックバンドMUSEの曲「エクソジェネシス(脱出創世記):交響曲第3部(あがない)」のMVに採用されたことで大ブレイクした翌年ですね。

鉄拳:そうです。その頃って、立場的にも弱かったので締め切りを必ず守っていたので。とにかくもう、がんばるしかないんです。今は、「締め切りです」って言われて「こんなの無理ですよ!」って言うんですけど、昔は言えなかったので、がんばって描いていたんですよ。相当なストレスだったんでしょうね、本当は。

――ストレスを抱えつつ、締め切りに間に合わせるために30時間描き続けていたんですね。

鉄拳:「パラパラマンガーズ・ハイ」って僕は思ってます。もう、24時間越えたあたりから覚醒してくるんですよ(笑)。逆に良いアイディアがどんどん浮かんできて。でも、めっちゃ体に悪いんですよね。音楽をガンガン聴いて、ハイテンションになって、コーヒー飲んで「描くぞ!」って、どんどん描き進めていくんですけど、終わった後はもうボロボロですよ。

  • 多忙時は寝ないで描き続けることも多かったとのこと

――それでどれぐらい寝るんですか?

鉄拳:今は8時間寝てますけど、「あまちゃん」をやった後の2015年ぐらいのときは、3時間、3時間、3時間で9時間寝てました。

――えっどういうことですか?

鉄拳:3時間寝ると目が覚めちゃうんですよ。頭の中でずっと「これを描かなきゃいけないな」とか「次はこう描こう」とか考えていると、夢の中でもずっと描いているんですよね。もう疲れちゃって目が覚めて、こんなんだったら描いた方がいいなって起きるっていう、ちょっと精神を病んだような感じでした。たまに、虫が動いているから触ってみたら、自分が描いた点だったりするんですよ。

――ヤバいですね(笑)。

鉄拳:そうなんですよ、ヤバイですよ。そういうときに良いアイディアが浮かんだりするんですよね。最近はもう、「パラパラマンガーズ・ハイ」になってないですから大丈夫ですけど。

――体を壊したりしなかったですか?

鉄拳:壊しました。ヘルニアになったし、動かないからよく便秘になるし、痔にもなったし。去年は虚血性大腸炎にもなりました。あと、腱鞘炎はいまだに治らないですけど、右手の指先から左足の先まで、あらゆるところが痛いです。全部繋がっているらしくて。

――慢性的にずっと痛いんですか?

鉄拳:慢性的に痛いですね。もう、治らないんでしょうね。だから、絵を描いているときの方が逆に集中できていて痛くないんです。絵を描くのを止めると、ビビビって痺れてくるんですよ。あと、ペンを握ってると痺れない。

――そんな満身創痍な状態でずっとパラパラマンガを描き続けてきたとは驚きです。

鉄拳:指も曲がってますからね(右手の中指が親指側に曲がった状態)。マンガ家の先生を見ると、ペンを普通に握らずにペンに丸いものをつけてそこを握って描いている方が多くて。僕も今の状態で描けなくなったらそうしようと思ってます。

――最近は、1日どれぐらい描いているんですか。

鉄拳:今は8時間ぐらいですね。時間は決めてないですけど、枚数のノルマを30枚って決めていて、それが終わらないときは夕食後も描きます。そういう生活が何年も続いていて、ずっとパラパラマンガばっかり描いてますね。2013年の頃は1日100枚のノルマだったんですけど、2015年頃からちょっと落としていって1日50枚にして、最近はもう締め切りをちょっと広めに作ってもらって、3分のものだったら2か月くださいって言ってゆっくり1日30枚描くようにしています。