「稼ぐ・節約する」を軽視したFIREはリスクが大きい

――では実際に、経済的自立を果たしたうえでの早期リタイアを目指すためには、何から始めたらいいでしょうか?

まず、全く家計管理について意識したことがないという方は、家計簿アプリのインストールから始めましょう。銀行やクレジットカード、電子マネー、ECサイトなどさまざまなアカウントを紐づけて支出管理できるものがおすすめです。そうすると、自動的に何にお金を払ったのかが見える化され、無駄な出費がわかります。

コンビニのダラダラ買いをやめよう、加入する動画配信サービスは一つに絞ろう、といった具合に出費を削り、浮いたお金を積み立てNISAに回してみましょう。それを続けて10万円くらいお金が貯まると自分に自信がついてくると思います。

――いきなり投資、ではなく、節約から入るんですね。

FIREというと投資だけでなんとかしようとする人が多いのですが、「しっかり稼ぐ」「無理のない支出生活をして節約を極大化する」「それを入金して投資を効率化する」この3つがセットなんだってことは伝えたいですね。

投資は投資で大事な要素なのですが、例えば年収400万円の人がどれだけ積み立て投資をがんばっても毎年200万円が限界だと考えると、年収を600万円とか800万円に上げて積み立てられる額を増やした方がいいわけです。

  • もっと稼ぐ! すくなく使う(もっと節約する!) もっと貯める(投資で増やす)のステップでFIREを目指そう

「稼ぐ・節約」を抜きにしてFIREを目指すとなると「毎年15~20%を投資で稼ごう」となり、リスクの高い投資商品に手を出してしまいがちです。

高い利率で稼ぎたかったら、高いリスクを取らないといけません。FIREというと不動産投資や個別株投資、FXなどをする必要があると考える方もいるかもしれませんが、これらは集中投資です。もし失敗したら取り返しのつかないことになります。

普通の人が少しでも早いリタイアを目指したいと思ったら、必ずしもリスクを極大化した集中投資にこだわらなくてよくて、私は長期積み立て分散投資をおすすめしています。

長期積み立て分散投資をすすめる理由

――長期積み立て分散投資をおすすめされる理由は?

まず、誰でもできます。世界中の株式に時価評価額に応じて投資する投資信託というのがあるのですが、数千円からでも積立ができます。毎月積み立てていけば簡単に、GAFAやMicrosoftなど世界有数の企業の小口株主になるのと同様の運用ができるのです。当然それぞれの企業が成長すれば、見返りもあります。

そして効率的です。例えば個別株投資はどこが有望なのか、今安値なのか、売り時なのかという判断をする必要があり、それはけっこう難しい。でも、グローバルのインデックスであれば、世界中の株をまんべんなく勝手に投資してもらえるので、笑っちゃうほど簡単です。「未来のApple」にも知らずに投資しているかもしれません。

さらに低コストです。2000年の頃だと投資信託の手数料は年に2%以上とっても全くおかしくなかったのですが、今は安いものだと年0.2%にまで下がっています。世界中へ投資する1万円の運用を年20円でファンドマネージャーにお任せできるってすごいことですよね。

最後に収益に関してもわりとポジティブに期待ができます。金融庁のつみたてNISAに関する資料によれば、20年の積立投資をした人が平均して年5%ほどの収益を出せています。投資を始めたらバブルが崩壊した、運用の最後にリーマンショックが起こった……いろんなパターンのモデルを含んで検証しても、基本的には100%儲かった、ということがわかっているんです。

投資によって仕事やプライベートの時間が奪われることもなく、簡単であり収益率は悪くない。大きく負ける心配もなく、効率的であるということを考えたら、長期積み立て分散投資には一定の分があると思います。

ですから、仕事中に個別株投資やFXに熱中するくらいなら、しっかり仕事をして給料を上げて、長期積み立て分散投資をやったほうがいいと私は思っています。

FIRE・早期リタイアを成功させる、たった一つの方法

――最後に、FIRE・早期リタイアを成功させるために最も大切なポイントを教えてください

まじめな人であれば基本的には誰であっても、自分なりの経済的安定を得ることができるはずだと私は考えています。40代でのリタイアは難しいとしても、5年、10年早いリタイアであれば、その分の生活費を確保することは不可能ではありません。そのことに早く気づいて行動できた人ほど、ゴールにたどり着ける可能性が高くなってきます。

例えば僕のセミナーに参加して、その帰り道にiDeCoやNISAの口座を作り、投資信託を購入できた人は、その後、お金を増やせています。しかし、「勉強になったね」と言って何も行動を起こさなければ、1円も増えません。

ちょっとした行動、最初の一歩を踏み出すだけで、周りの人と差をつけられるし、ゴールにもたどり着くことができます。ですからぜひ、小さくてもいいのでFIREに向けたアクションを起こしてみてください。

山崎俊輔(やまさき しゅんすけ)

1972年生まれ。フィナンシャル・ウィズダム代表。ファイナンシャルプランナー、消費生活アドバイザー。確定拠出年金を中心とした企業年金制度と投資教育が専門。わかりやすく読みやすいお金のコラムが人気で、Yahoo!ニュース、日本経済新聞電子版、マネー現代、プレジデントオンラインなど、月20本以上の連載を抱える人気FPのひとり。著書『読んだら必ず「もっと早く教えてくれよ」と叫ぶお金の増やし方』(日経BP)、『共働き夫婦 お金の教科書』(プレジデント社)、『マネーハック大全』(フォレスト出版)など多数。

『普通の会社員でもできる日本版FIRE超入門』(山崎俊輔 著/ディスカヴァー・トゥエンティワン 刊)

「FIRE=早期リタイア」のテクニックを紹介した1冊。FIRE(ファイア:Financial Independence, Retire Early)とは、経済的独立の獲得による早期リタイアを目指すムーブメントのこと。十分なお金を貯金して、それを投資などで運用することによって収入を得て、「早期リタイア」を目指すのが一般的です。アメリカで流行しており、今そのトレンドが日本にも上陸しようとしています。本書の特徴は、日本のファイナンシャルプランナーが、普通の会社員でも実行可能な、日本の社会と制度に基づくFIREのテクニックを紹介している点です。現在FIREについての書籍は翻訳書が多いですが、本書は日本のFPが書いたものなので、日本の社会と制度に基づいています。また、投資や株に偏った、普通の会社員などが実践するのは難しいテクニックではなく、転職や副業、節約など堅実なテクニックとともに、誰もが実行可能な投資方法を紹介しています。