■映画舞台挨拶で登壇者が突然アドリブを…
――なるほど。「コミュ力」というのは、相手への気遣いを意識する事でも養われるものなのですね。そうした気づきを得て、青木さんの中で「これは上手くやれた!」という、手応えがあった現場はありますか?
ある映画の舞台挨拶の時ですかね。映画の舞台挨拶は1日に複数回行う事があるのですが、お客さんは入れ替わるので、進行台本は基本的に同じ質問になっています。すると、舞台挨拶に登壇されていた俳優さんが、同じ事ばかりに答える事に飽きてしまったからと、「違う話をしよう!」と言って、途中で全然違う話を始めた時があって。その時、その俳優さんのアドリブに乗っかって、会場を上手く盛り上げられた時は良かったなと思いました。
――それはかなりドキッとする状況です……。
そうですよね。若い頃だったら、全然対応できなかったと思います。でも、それも結局、双方向のコミュニケーションで、その俳優さんが「違う話をしよう」と言葉にしてくれていて、みんながストレスなく状況を共有できている状態だったので、私も思いっきり乗っかっていく事ができたんです。
――それは青木さんがアナウンサーとして何年目の時だったんですか?
10年目くらいだったと思います。やはりアドリブに対応する力は、場数を踏まないとなかなか難しいと思います。もちろん天才的にできる人もたくさんいるんですけど、僕の場合は時間がかかりました。
■加藤浩次からもらった金言
――天才的な対応力で言いますと、テレビで活躍しているタレントさんはやはり、すごい方が多いですよね。著書の中でも何人かのお名前が挙がっていましたが、青木さんが特に「この人のコミュ力はすごい!」と思った人を教えていただきたいです。
加藤浩次さんです。加藤さんがまず一つすごいのは、情報のインプットをずっと続けている事。『スッキリ』という番組で、事件事故のみならず、政治経済など、あらゆるジャンルの情報を扱いますが、それらに関する幅広い知識のインプットをずっと続けているのは、すごいと思います。あの膨大な情報量のインプットから、どんな分野のゲストがきても笑いで盛り上げたり、問題の核心を突く質問をしたりといったアウトプットが生まれているんだなと。
お話を伺うと、加藤さんは37才の時に『スッキリ』を始められたのですが、それまでは時事問題などは全く知らなくて、政治家の顔と名前も一致しなかったところから勉強を始めたそうで、そこから今に至るわけですから。
――話す力に聞く力と、加藤さんはコミュニケーションの総合力が高い?
そうですね。サッカーに例えると、バラエティ番組に出たら、ゴールをガンガン決める事もできるし、『スッキリ』では司令塔をはじめ色々なポジションをこなせる。加藤さんは本当に最強だと思います。
――今のお話を聞いて、今回の著書の内容を振り返ると、青木さんが加藤さんから受けた影響はかなり大きいのかなと思いました。
若い頃に一度、加藤さんに「自分がおいしくなるのではなくて、共演者が輝くようなコメントを考えなさい」と怒られた事があって。スポーツ実況で名言を残すアナウンサーもいるじゃないですか? その印象もあって若い頃は、自分が印象的な一言を言いたい、そうあるべきだ、と思っていた時期がありました。でも、加藤さんから注意を受けて、それが間違った欲求だと気づきました。それからは、加藤さんに言っていただいた事をアナウンサーとしての大切な指針にしています。映画の舞台挨拶であれば映画がより良く見えるように、新商品発表会であれば新商品の良さがより伝わるようにというコメントに徹する事ができているのは、加藤さんの言葉のおかげです。
青木源太
1983年5月7日生まれ。愛知県出身。慶應義塾大学卒業後、2006年に日本テレビに入社。『スッキリ!!』、『PON!』、『バゲット』、『火曜サプライズ』などを担当。2020年からはフリーアナウンサーとして活動し、テレビ出演のほか、数々のイベントで司会を務めている。2021年8月に初の著書『口ベタな人ほどうまくいく たった1日で会話が弾む! 話し方のコツ大全』(宝島社)を発売。