●平凡は奇跡
──夢の力と出会いの後押しで歌手活動を続けてきた森口さん。2021年8月にこれまでの軌跡や想いが詰まったアルバム『蒼い生命』がリリースされます。
『蒼い生命』というタイトルは、リリース決定前から決めていました。地球って、海の「青」もあれば、草木など緑の「蒼」もあるじゃないですか。だから、この「蒼」は地球の色のひとつだと思ったんです。いま地球規模全体で問題が起きていますが、地球というひとつの生命がつながれば、この問題を乗り越えていける。そんな想いや祈りをタイトルに込めました。
──「蒼い生命」はアルバムに収録される表題曲でもありますね。
表題曲は、人とのつながりや絆をテーマに制作しました。緊急事態宣言が発令されている昨今、人と人とがふれ合うことが出来ないことが、こんなに閉塞的で苦しかったんだと実感しました。だからこそ、心と心で繋がることが生命線だと。この曲の詞は、シンガーソングライターQoonieさんとの共作ですけど、「平凡は奇跡」という歌詞は、私が常日頃思っていた言葉でもあります。これは、厄年のときに体調を壊したり人間関係がうまくいかなくなったりして四面楚歌になったときに痛感した言葉。また、世界中の人たちが見えない何かと戦っている閉塞的な現状を振り返って出てきた言葉でもあります。
──平凡ではない日常が続いているからこそ、平凡な日が大切だと思った。
大切で、愛おしかったですね。曲を聴いてくれたファンの方からは「大切な人に会いたくなった」「背筋を正して生きようと思いました」「心が浄化されました」という感想をもらいましたが、その言葉の重みがいつもとはちょっと違いましたね。
──今の状況と相まって、より響いたのかもしれません。
歌でメッセージが伝わるってこういうことなんだと思いました。反響が届くと私もより気持ちが入ります。この歌詞のような世界になることを祈りながらレコーディングもしました。絆が輝く、命が輝く、美しい地球になることを今まで以上に望んでいます。
──本アルバムの初回限定盤には「蒼い生命」のMVが収録されたBlu-rayが同梱されます。こちらはどのような仕上がりですか?
MV収録前に、「曲やタイトル通りの壮大な世界を表現するために、絶対に青空は撮りたいよね」と、監督・ディレクター・スタッフの方々に相談していました。そんな想いに反して、天気予報はずっと雨。MV収録が梅雨時だったので、外での撮影は諦めムードが漂っていました。でも、MV収録の日だけ、光が差し込んできたんです。ずっと雨の日が続いていたので、奇跡だと思いました。私たちの「穏やかで平和な日々が来れば」という一筋の祈りのようでした。おかげさまで、神秘的で壮大な映像が誕生しました。
●事実を元に書かれた「陽だまりのある場所」
──本アルバムには、神前暁さんが作曲を担当された「陽だまりのある場所」も収録されています。
神前さんとは、BS11で放送されている『Anison Days』で出会いました。番組内で私は神前さんの楽曲をカバーしたのですが、胸が締め付けられるような切なさに感動して、涙が出てきたんです。その時、「いつか曲を書いていただきたい」と思い、今回ラブコールさせていただきました。実は、神前さんもその番組の時に、私に曲を書きたいとおっしゃってくれて……感激です!!
──どのような楽曲に仕上がっていますか?
温かくて美しくて切なさの極みです。神前さんには最初の打ち合わせで「切ない陽だまりがイメージです」とお伝えしました。20代の頃は熱く燃えるような夢への想いがあると思います。でも、年齢を重ねたとしても陽だまりのような、途絶えない夢への気持ちがありますよね。私は2019年にカバーアルバム『GUNDAM SONG COVERS』をリリースしてオリコンウィークリーで3位にランクインし、日本レコード大賞で企画賞を受賞できました。そして昨年、続編『「GUNDAM SONG COVERS 2』もオリコン/Billboard JAPANともに週間アルバムランキング2位にランクインして幸せでした。歌手として再評価してもらって、夢には締め切りがないなって思ったんです。
──作詞はご自身で担当されていますね。
神前さんの曲が細胞レベルで好きすぎるゆえか、身構えてしまって、なかなか詞が書けませんでした。想いがあるものの、どうまとめればいいのか迷ってしまいました。結局、歌詞が完成しないままオケ録り(伴奏録音)の日を迎えてしまい……。ただ、ストリングスの音を聞いたときに、メロディに導かれるように詞が思い浮かんだんです。
──具体的にはどのようなイメージが浮かびましたか?
先ほどお伝えした夢、そして、故郷について浮かびました。先日、子供の頃から慣れ親しんでいた福岡の遊園地「かしいかえん」が閉園となることが発表されました。「かしいかえん」は福岡の人に何世代にも渡って愛されている遊園地で閉園するなんて信じられなかったです。恐らく、こういう状況下でなかったらずっと続いていた遊園地です。そのニュースが悲しくて仕方ありませんでした。ただ、こういう体験や想いをしている方って、きっと私だけじゃないと思うんです。日常の光景が減っていく、大切な場所の景色が変わってしまった人も少なくないと思います。そんな状況でどうやって夢と向き合って生きていくのか、ということを詞に込めました。
──そのお話を聞いてから歌詞を見ると、かなり写実的な印象を受けました。
事実を元にドラマチックにしているという訳ではなく、Aメロから最後の一言までぜんぶが事実です。プリプロ(仮のレコーディング)では神前さんの曲の素晴らしさと、ふるさとの思いとで、号泣して歌えませんでした。本番は冷静に頑張りました!