――武道を追求しつつ、読書家でもある藤岡さんは、まさに文武両道を実践されているんですね。
武道家である父から言われたことなのですが、力をつけるためにはあらゆるものに目を向けておけと。その言葉を守り、実行していくうちに、活字中毒になってしまったのでしょう(笑)。やっぱり知識というのは、決意、決断、覚悟、信念など、人間に必要な行動を支えるための、大きな力になるんです。いろんなことを見て、知って、判断する。広く情報を得たら、こんどは実践し、さまざまな場所で起こっている出来事を実際に感じてみる。情報から得た知識に、体験がはまったとき、感動がわいてくるんです。「ああ、こういうことだったのか!」と、感覚がスパークする。物事の裏側や闇の部分まで気づかせてくれるんです。
――藤岡さんが『仮面ライダー』の後に演じられる、歴史上の人物――坂本龍馬、織田信長、本多忠勝なども、まず書物から入って人物像にアプローチされているのでしょうか。
歴史は小さなころから大好きで、日本史、世界史……昔から本を読み漁っていろいろな英雄、豪傑たちの物語に親しんできましたね。でも、時に“勝者の歴史”は後世に向けて事実を改ざんしていることもあるんです。さまざまな書籍、文献、資料に目を通して、自分の中で検証し、見極めることも大事。そういう意味でも、あらゆる書物から得られるものはとても多いといえるでしょう。
――仮面ライダー50年、スーパー戦隊45作品を記念した映画『セイバー+ゼンカイジャースーパーヒーロー戦記』への出演依頼が来たとき、最初はどんな思いを抱かれましたか?
仮面ライダーがこの世に現れてから50年。ただ本郷猛がゲストで出るだけではいけないだろう。どういう風に描かれるのか、という部分が重要だと思いましたね。50年もの間、仮面ライダーという存在が人々の記憶に残っている中で、いったい私はどういう役割を果たせばいいんだろうかと……。最初はちょっと、想像がつきませんでしたね。
――台本を読まれたときのご感想はいかがでしたか。
50年の間に生まれたヒーローたちがとにかくたくさん出てくるでしょう。読んでいても、ちょっとわからなくなってきますね。私(本郷猛)はこの中のどこにいるんだろうかと(笑)。
――劇中で、本郷猛が創造主である石ノ森章太郎先生への熱き思いを言葉にするシーンがありましたが、あそこでの藤岡さんの演技は先生への敬愛の情がひしひしと感じられ、観る者の胸を打ちました。
あのシーンを撮影する直前、『仮面ライダー』の放送開始日である4月3日に向けて、記念のメッセージを東映さんから依頼されました。どんなメッセージにしようか、いろいろ書いてみたけれど、なかなかいい言葉が見つからなくて、その日はもう寝てしまったんです。そうしたら、真夜中に石ノ森先生が枕元に立たれていた。
「先生!」と私が声をかけると、とてもうれしそうにされていて、昔のままの先生でした。何かおっしゃりたいのかな、と耳をすませても、何も話してくれず、近寄ると遠ざかっていく。先生は私に何を伝えたかったのだろう……。先生は私に無言のメッセージをくださったんだと思い、先生との思い出を軸にして、記念メッセージの原稿を書き上げることができました。
映画の撮影においても、先生の思い出が胸に湧き上がってきて、感極まる状態になったんです。あのシーンは演技ではなく、あの瞬間の私の気持ちをそのままカメラで撮ってもらった、という心境です。演じるのではなく、気持ちをそのまま込めたら映画になった、という感覚でいます。
――フィクションの中で活躍する本郷猛が実在の人物・石ノ森先生への思いを口にされるというのは、ある意味ファンタジックなのですが、だからこそ素敵だと思います。
石ノ森先生を筆頭に、あのとき『仮面ライダー』を作っていた人たち、そして仮面ライダーシリーズを今日までずっと作り続けてきた人たち、すべてがすごいと思っています。50年間、子どもたちに夢を与え、今や世界にまで影響を与える、日本発信のヒーロー。
私は、NHKの『プロジェクトX~挑戦者たち~』という番組が好きでした。困難を乗り越えて夢を果たすべく一生懸命になる者たちの熱い物語。ぜひとも「仮面ライダーを作った人たち」をテーマに作ってほしかったと、今でも思っているんですよ。周りに何もない生田スタジオで、スタッフのみなさんが汗をかきながら「子どもたちに夢を与える最高のアクションドラマを作ろう!」と頑張って、何もかも手探りでやってきた。そういう光景に、中島みゆきさんの歌う「地上の星」(プロジェクトX主題歌)がピタリとはまるんじゃないかって思いますね。私はあの歌が大好きで、聴いていると涙が浮かんでくるんです。
――映画に登場したのは、藤岡さんがマスクやスーツを着けてアクションをされていたころの「旧1号」と呼ばれる初期エピソード(第1~13話)の仮面ライダーでした。50年前のマスク&スーツを徹底的に見つめ、細部までも再現した旧1号をご覧になって、あの当時を思い出したりされましたか。
初めて私が仮面ライダーのスーツを着てアクションをしたときの記憶がよみがえりました。仮面を被ったら息苦しくてね。前がちゃんと見えないとか、スーツが身体にぴったりへばりついていて、窮屈なまま立ち回りをするのか……とか。鮮烈な思い出でしたからね。映画には、サイクロン号も出てきます。これに乗ったときも、懐かしい気持ちになりました。あの当時のサイクロンは乗りにくいバイクでね。中心がズレていて、乗っていると怖いところがありました。新しく作り直したサイクロンは、すごくよく出来ていましたね。