■オーディションから芝居の世界へ

――藤間さんは7歳で歌舞伎座に立たれていますが、日本舞踊ではなく、いわゆる女優としてのスタートは決して早くありませんね。

10代から始めている方も多いですから、そう考えると確かに遅いほうですね。私は23~24歳くらいからなので。

――映像では連続テレビ小説『ひよっこ』でデビューされていますが、舞台は野田秀樹さん脚本の『半身』の主演でのデビューでした。

舞台もオーディションからです。『半身』のオーディションではなかったのですが、オーディションからつながりました。

――長塚圭史さん率いる劇団「阿佐ヶ谷スパイダース」にも所属したのはどうしてですか?

女優というお仕事をするにあたって、まず舞台に立ってみたいという思いがありました。でもマニュアルがないですし、何から始めたらいいのか分からず、とにかくオーディションを見つけて受けまくりました。そのときに阿佐ヶ谷スパイダースの募集も見つけたんです。劇団というと、縛られて大変なイメージがありましたが、阿佐ヶ谷スパイダースは、やりたい者同士が個々にプロとして集まっている劇団だと書かれていて、興味を持ちました。

■女優だけやっていたら今の私はなかった

――最初に女優に憧れを持ったのはいつですか?

女優にというか、お芝居が楽しいと思ったのは小学生の頃の学芸会ですね。率先して手を挙げて主役をやりたがるタイプでした。普段の授業では目立つことをしていたわけじゃないんですけど、学芸会においてはすごく積極的でした。そのときに周りの子が「爽子ってお芝居うまいよね」みたいなことを言ってくれて。子どもの頃に褒めてもらうことって、今でも強く残っているんですよね。そこから始まったのかなと思います。

――すべてを踊りで、「日本舞踊だけを極める!」とはならなかったのでしょうか。

外の世界を見てみたいというか、どうしても家のことがありますから、自分ひとりで挑戦したいという思いもあったと思います。藤間紫を知らない若い人はたくさんいますから、女優業をやったときに、私をどう見てくれるのかが当時はすごく気になっていました。

――藤間の家の名前を知らないところに出ていくことに、どこか心地よさを感じる部分もあったのでしょうか。

すごく心地よかったです。オーディションを受けまくっていたときも、特技を日本舞踊とはせずに「ボーリング」とか書いたりして(笑)。知らない人は全く知りませんが、たまに「藤間って、あの日本舞踊の?」と言われたりすると「あ、日本舞踊もやってます」くらいの感じで。家ではない、何もない今の私を見てもらって、自分で何かをつかみ取りたかったんです。祖母が亡くなって、環境が変化していくなかで、自分の環境を変えたいという思いもあって、ちょっと遅いけれど挑戦しました。

――子供のころからやりたかったことでもあるし、爽子さん個人として立ちたかった。

でも結局このお仕事ができているのも、自分の力だけではない、日本舞踊があっての私なんだなと感じています。

――日本舞踊の素養が活きているということですか?

いえ、ただ女優だけやっていたら、今の私はやはりなかったと思うんです。まずは女優としての私をと思っていたけれど、日本舞踊もやめて女優1本だけでやっていたら、今こうして『ボイス2』のようなドラマにも出れていないのかなと。結局、日本舞踊をやっていた藤間爽子だから、ここまでたどり着けたのかなという気が最近はします。

■ゆくゆくは、藤間爽子と藤間紫を溶け合わせたい

――ここまでたどり着いて、ここから先は自分自身で。

そうですね。でも日本舞踊が私の武器になっているのも間違いないので。襲名もしましたし、どちらかだけがいいというのはダメだなと、どちらもしっかりとできて、やっと認められるのかなと。

――現在、三代目藤間紫と藤間爽子の両方の名前で活動されています。そうすることで切り替えをしたいとお話しされていたのと同時に、将来的には藤間紫の名前でお芝居をしたいともコメントされています。

今はまだ紫という名前だと、祖母のことを思って、名前を汚さないようにというか、ちょっと保守的になってしまう部分があります。藤間爽子だと、素の自分が出せて挑戦できる。もちろん紫としても挑戦はしていかなければなりませんが、今はまだ自分の中での切り替えが必要なときかなと。でも結局、別々じゃないんですけどね。

――藤間爽子として立てている自信が持てたとき、紫として立っても揺るがずにいられるというか、融合できるのでしょうか。

そうですね。ゆくゆくは、うまく溶け合うことができたらと思います。

――これからどんなことに挑戦していきたいですか?

襲名をしてから、自分のためだけじゃなくて、何か人の役に立つようなお仕事を選んでいきたいと思うようになりました。舞踊でもお芝居でも。今までは自分がやりたいという気持ちだけでやっていた気がするので、もうすぐ27歳ですし、そうしたことも考えていきたいです。

――日本舞踊家として舞台に立たれてからのキャリアは長いですが、この数年での経験もかなり濃いものだと言えそうですね。

確かに! 初舞台が24歳ですから、まだ数年ですね。あっという間でしたが、ぶわ! っとすごく濃い経験をさせてもらっています。そう考えると、私が女優なんてまだまだ。『ボイス2』のような人気ドラマに出演させていただけているのは本当に光栄です。

――3話に続けて4話でもフィーチャーされますし、ぜひ知里に注目ですね。

そうですね。よろしくお願いします。そして5話からは、最初は警察官としてちょっと力が入っていたのが、一皮むけて成長した知里を見せられたらいいなと思っています。

■プロフィール
藤間爽子
1994年8月3日生まれ、東京都出身。祖母は日本舞踊の紫派藤間流・初世家元で女優の藤間紫。幼少より祖母に師事し、7歳で歌舞伎座の舞踊会で初舞台を踏む。藤間紫の死後は二代目を襲名した二代目市川猿翁に師事してきたが、2018年に三代目襲名が決まり、2021年2月28日に東京の日枝神社で三代目藤間紫を襲名した。女優としては2017年にNHK連続テレビ小説『ひよっこ』でデビュー。翌年には野田秀樹脚本、中屋敷法仁演出の舞台『半身』で桜井玲香とW主演を務めた。また劇団「阿佐ヶ谷スパイダース」に所属しており、2021年11月に吉祥寺シアターにて新作公演『老いと建築』に出演することが決定している。『ボイスII 110緊急指令室』で民放連続ドラマ初出演。