――吉田監督は、3年ぶりにタッグ組んで錦戸さんの魅力をどのように感じましたか?

吉田監督:演技そのものに楽しみがあるわけではなく、仕上がりを基準にしている感覚が、僕にとってはありがたい。現場では監督の僕を100%信頼して委ねてくれているということだから。また、音楽制作のやりとりを通じて思ったのですが、すごくプロデュース目線がある。自分のやりたいことはいったん脇に置いて、僕が求めているものにまず応えたうえで、あらためて自分の表現として探っていく。僕も、自分から人に持ち掛ける企画と、人から誘われる企画と両方あって、それぞれに力の出しようがありますし。彼とそういう機会を共有できて、一つそういう楽しみ方を見つけてもらえたのであればうれしいです。

――プロデュース目線は、独立されてソロで活動されている中で培われてきたのかなと思ったのですが、ご自身の中ではどのように培われてきたと思いますか?

錦戸:僕自身は、プロデュースしているという意識は全くないですが、結局作っていたらプロデュースになっているのかなと。でもそれは、1人になってからというわけでもなく、遊びだってプロデュースの一環だと思うんです。サーフィン始めてみようとか、全部自分で選んでいく。自分のやりたいことが形になった時に、プロデュースと言われることがあり、好きなことを追い求めていったらそういう風になっただけだと思う。ただ、どうやったら成立させられるかというのは考えます。今の僕にできる最大限、こちらが提示できるものという意味での自分の見極めはしています。

――それはここ数年ではなく?

錦戸:昔からです。

――監督は、『羊の木』の頃から錦戸さんのプロデューサー目線を感じていましたか?

吉田監督:映画が求めることを的確につかんで、その場で自分ができる最大のパフォーマンスにたどり着くのがすごく早い。もちろん信頼感がベースになるとは思いますが、見極めの早さはきっと彼のキャリアの早い時期から、いろいろな習慣や訓練の中で身についたものなのかなと想像しています。この何年かで責任が増した分、よりシリアスになったとは思いますが。

――錦戸さんにとって吉田監督はどういう存在ですか?

錦戸:『羊の木』の撮影をしていたのが2016年。ご飯を食べに行ったり、曲ができたら送ってみたり、「こういう曲どう?」と教えてくれるときもあったり。でも、一緒に仕事をして出来上がりを見て、それがすべてではないかなと。普段どうであろうが、そこで大丈夫って信用しきっているので、今回またご一緒できたのはほんまにうれしかったです。

――今回の撮影で印象的だったシーンと、実際に出来上がって好きなシーンを教えてください。

錦戸:両方まとめて1つになりますが、画面を通して初めて見たときに「え! 何これ」と思ったのが、喫茶店で「続けて、歌」と言われたシーン。大八さんが言ってるみたいと思って、「うわ~」と思いました。書いているのは大八さんやから(笑)

吉田監督:歌は続けるに決まってるんですけどね(笑)。彼の音楽活動をこの何年か追っかけていたから、そういう言葉が自然と出ちゃったのかもしれないです。

――松浦祐也さんをはじめとする共演者の方たちとのエピソードを教えてください。

吉田監督:松浦さんとは以前から仕事するチャンスを狙っていて、やっと実現しました。頭をいきなりガラスにぶつけたのは、僕の指示じゃありませんが、やっぱりかましてくるなと(笑)。びっくりしたでしょ?

錦戸:びっくりしました(笑)

吉田監督:ああいう瞬間がこの仕事の醍醐味の一つ。映画を壊さないギリギリで何か仕掛けてくる俳優と、錦戸くんがどう向き合うのか。あそこの錦戸くんの表情も好きですね。

――錦戸さんは共演者のみなさんといかがでしたか?

錦戸:みなさん初めてでしたが、優しかったです。でも、いざ本番となれば怖いところもあって、大八さん好きそうだなと思いました(笑)。植田紗々さんや樋井明日香さんは撮影が押してとても待たせてしまいましたが、すごく優しくて、ほんまに優しい人たちやなって。

吉田監督:優しくされると弱いんだね(笑)

錦戸:グッときません?(笑)

――今回、「現代ユースの視点」がテーマとなってしますが、若者に戻れるとしたらいつ頃に戻ってどんなことをしたいですか?

吉田監督:もうあんな面倒くさいところへ戻りたくないなと。10年くらい前だったら、もう1回あの頃を経験してみたいという気力があったかもしれません。やっとここまで来たのに、戻りたくないです (笑)。

錦戸:僕もないですね。今、僕は36歳ですが、36歳の今の考え方を持ったまま16歳とかに戻れるとなっても、それって面白いのかわからないし、16歳の頃の考え方に戻ったところで、きっと同じことを繰り返すだろうし、戻りたいと思ったことは1回もないです。

――今、生きている瞬間が一番だと。

錦戸:そう言っておきたいですね(笑)。戻りたいとは言いたくないです。

ショートフィルム『No Return』は、Amazon MusicとAmazon Prime Video、Amazon Music公式YouTubeアカウントで、7月14日より配信。