――お互いが手がけている番組は、どのようにご覧になってますか?
橋本:もう視聴者としては見てないですからね。料理人はレストランで食べても「おいしい」とかではなくて「この素材にこれを合わせたのか」とか考えますよね。それと同じ感覚だから、純粋にテレビを楽しんではないですよね。『新しいカギ』を見ても「この放送尺でこんなセット作って予算どうしてるんだろう」とか「チョコプラの稽古日とか大丈夫だったのかな」みたいな情報が入りながら見てるから、「いやぁ、何もかも忘れて笑いました」みたいな精神状態には、ディレクターはなれないんじゃないかな。でも「ここは見事だな」とか思うし、『新しいカギ』だったらCXの美術のうまさだったり、コントのゴージャス感というか、テレビでしか出せない感じがいいなあとか、そういう見方ですよね。
――水野さんの番組はどうですか?
橋本:その点、『プレバト!!』は結構気を抜いて見て、本当に何も考えずに楽しんでるかもしれないですね。うちの親とかもみんな大好きだから。ちょっと木月さんのほうが、ジャンルが近いのかもしれないですね。なんかいつも近いところに興味を持ってるなと思って。松丸(亮吾)くんやお笑いとか、「自分だったらこう料理するな」とか「なるほどこういうやり方か」と思って見ちゃうのがあるかもしれないです。『プレバト!!』は19時というところであんなに見事に勝ち続けるというのが刺激を受けますよね。
――水野さんはおふたりの番組、いかがですか?
水野:これだけヒット番組を手掛けてる2人なので、今この時代のテレビでやるべきものをちゃんとやってるなと思います。現在のテレビの置かれてる状況で、視野がどんどん狭くなってる演出家が多い中で、「テレビと視聴者の今の距離ってここだよね」ってちゃんと分かって作っている感じがあるんです、この2人は特に。『新しいカギ』はテレビが今コントをやらなきゃいけないという意義が分かるし、『有吉の壁』も今、地上波を視聴者に楽しんでもらうためのお手本のような番組。例えばYouTubeでネタを見るだけだったら1個1個のネタでいいんだけど、有吉さんがいて、佐藤栞里さんが笑って、みんなが楽しそうというあのグルーヴ感というのは地上波でやらないと意味がないということじゃないですか。ゼクシィのキャッチコピーで「結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです。」というのがめちゃくちゃバズったんですよ。今、僕が会議とかで言ってるのは「地上波なんか見なくても楽しいこの時代に、それでも僕らはテレビを見てほしい」という気持ちで作ろうと。そこで、テレビって今何が大事なんだっけ?と思ったときに、そのヒントがおふたりの番組にはありますよね。
橋本:水野さんは例えるのがめちゃくちゃ上手いなっていつも思いますね。たしかに今、裏を見て作ってる番組、つまり他局がああやってるからこのネタをやろうとか、あのネタをもう1回擦ろうとか思ってる番組って絶対ダメじゃないですか。ネットを含めた他のメディアを見てテレビでやるべきことを考えてるのかって、結構大切な気がします。
水野:あと、新しい番組を作るときに「こんな演出かけたいな」って正解を突き詰めていくと、おふたりが既にやってる手法に行き着くことが多いんです。「再現ドラマにこんなタッチをつけたいな」って思うと『スカッとジャパン』とか『キスマイBUSAIKU』がよぎるし、「この企画を楽しんでほしい人は佐藤栞里さんだな」と思ったときに『有吉の壁』のイメージが出てきて「やばい、差別化しないと」と思って。それだけ、企画のディテールやキャスティングの意味がちゃんと立っているおふたりだと思います。あと橋本さんのキャスティングを見てると、絶対に人と違う当たり線を持ってますよね。いろんな作家さんに「なんで橋本さんはああいうキャスティングをするんですか?」ってよく聞いてますから(笑)
橋本:皆さんそうだと思うんですけど、誰かの番組で当たってる人でずらっと並べるのが嫌とか、恥ずかしいというのがたぶんあるんでしょうね。
■「埋蔵量」のある鉱脈に気づく感性
――木月さんは、橋本さんと水野さんの番組、いかがですか?
木月:やっぱりレギュラーをずっと運営して勝っていくというところにおいての料理の仕方、やり方がすごく優れてらっしゃるなと思って。橋本さんが南原さんとの会で言ってたので印象的だったのが、「永遠にネタが出てくる番組にしないと」ということだったんですよ。
橋本:それは僕が吉川(圭三)(※2)班にいた頃、『笑ってコラえて!』で培った意識ですね。「ダーツの旅」って、ダーツが刺さった場所に無限に行けるじゃないですか。「企画として無限に走れるものが一番優れた企画」というのはすごい言われたんですよね。吉川さんは『世界まる見え』も作ってるんですけど、「日本のテレビが紹介するものより世界で映像が生まれるペースのほうが圧倒的に早いんだから、永遠に番組ができる」と言ってたんです。
(※2)…日本テレビで『世界まる見え!テレビ特捜部』『恋のから騒ぎ』『1億人の大質問!?笑ってコラえて!』『特命リサーチ200X』などを手がけたプロデューサー。現在はKADOKAWA、dwangoのプロデューサーとして活動する。
木月・水野:なるほど~
木月:でも、それが理想だと分かっていながら、なかなか考えつくものではないじゃないですか。その点『プレバト!!』は俳句というのが発明ですよね。
水野:そうですね。「埋蔵量」という意味では、おかげさまでそんなに気にならない番組ですね。出演者の皆さんが大変で申し訳ないんですけど(笑)
木月:それって立ち上げた瞬間に見えてました?
水野:いえいえ。やりながらみんなで悩んで見えてきたっていう感じですね。あと、番組ってきっとマラソンなんだけど、100m走だと思って走らないと、まず当たらないじゃないですか。
木月・橋本:はいはい。
水野:だから、「才能ランキング」を立ち上げたときに、まず埋蔵量よりもコンセプトを強く打ち出して、芸能人の出演が一周したら違うジャンルをやっていかなきゃいけないだろうなと思ってたんですけど、1回収録してみたら、「才能の査定」以外にも夏井(いつき)先生の「添削」が鉱脈だって分かったんです。夏井先生からは最初に打ち合わせしたときも「俳句なんてゴールデンタイムで見るわけないんだから、どうせ1回だけでしょ?」って言われたんですけど、収録してみたらビフォーとアフターが面白いなと思ったんですね。その収録が終わった後に、先生に「才能ランキングをやりながら、先生の添削が絶対面白いと思うので、全部の俳句を手直ししてください」ってお願いしたら、「俳句の世界では、番組で言う『凡人』『才能ナシ』の句は添削しないで捨てるだけなんです。良い句をもっと良い句にする文芸なのに、もともと発想が陳腐なものを良くしろとは何事だ!」ってめちゃくちゃ怒られて(笑)。そう言いながらも、結局は夏井先生が添削してくれたおかげで、出演者の皆さんの俳句が上達して埋蔵量が気にならなくなりました。だから、やっていく中で見えてきたって感じなんですよね。
橋本:そうですよね。最初に短距離走だと思って始めて、どこかでマラソンより長いということに気づくじゃないですか。そのときに自分の予想を超えるものを見つけて、それにどんどんベットしていくしかないと思うんです。そこにちゃんとたどり着く感性があるかどうかが、すごく大事なんじゃないかな。何かが生まれていても、それが“生きる”と思わないかもしれない。
木月:そうですよね。そこを広げられるかどうかですよね。
橋本:例えば、俳句の毎分視聴率があまり上がらなかったとして、「もう少しドラスティックに数字が上がる企画やろうよ」って言ってたら、夏井先生はスターになっていなかったわけじゃないですか。そこって(視聴率の)グラフも関係なくて、感性としてこれが面白くなると気づくしかない。そこに賭ける度胸が大事なのかなという気がします。
木月:それで言うと、松丸くんも初めて会ったときにこれが面白くなりそうだと感じたことがあって。彼の名刺の裏に、謎解きの問題が書いてあるんですけど、それが昔の『マジカル頭脳パワー!!』とは違った新しさがあったんですよね。「これ、そのままやろうか」ってなったんです。
■視聴者を甘く見ていたら、番組は絶対当たらない
橋本:『プレバト!!』がもう1つすごいなと思うのは、人間の想像力に目をつけたところですよね。人間の想像力は無限だし、その可能性をうまく利用してると思うんですよ。それは見てる人の想像力も含めて。やっぱり視聴者の方を甘く見てたら、番組は絶対当たらないと思っていて、見てる人が俳句の言葉だけでも想像を膨らませて十分楽しめるんだってことにちゃんとベットしたことがすごいなと思って。やっぱり、テレビって全部を分かりやすくしちゃうじゃないですか。
水野:そうなんですよね。だから最初に俳句をやろうとなったときに、五・七・五の最後の五音だけ考えてもらうというアイデアもあったんです。『ペケ×ポン』の川柳に近い形でも才能って分かるんじゃないかって1回会議で話し合ったんですが、視聴者からしたら難しく感じるかもしれないけど、やっぱり全部やってもらわなきゃダメだと。当時、『VS嵐』(フジ)と『いきなり!黄金伝説。』(テレ朝)が裏ですごく強くて、全然相手にならないし、「他と違うことやってダメだったらまた違うことを考えればいいんじゃない」というくらいの思い切った発言をする作家さんもいたので、そこは大きかったですね。今、橋本さんが言ってくださったこと、すごくうれしいです。こんな皆さんに褒められるのはうれしいですね(笑)
橋本:普段、孤独で誰からも褒められないからですよ(笑)