YouTube・サブスク動画配信サービスの台頭、視聴率指標の多様化、見逃し配信の定着、同時配信の開始、コロナ禍での制作体制――テレビを取り巻く環境が大きく変化する中、最前線にいる業界の“中の人”たちは、どのような意識で番組制作に臨んでいるのか。連載【令和テレビ談義】では、『新しいカギ』『痛快TV スカッとジャパン』『今夜はナゾトレ』などを手がけるフジテレビの木月洋介氏をモデレーターに迎え、テレビの今を捉えながら、その未来を考えていく。
第1弾は、『有吉の壁』『有吉ゼミ』『マツコ会議』などのヒット番組を担当する日本テレビの橋本和明氏、『プレバト!!』『初耳学』『教えてもらう前と後』という現在放送中のMBS制作GP帯全国ネット全レギュラー番組を立ち上げた水野雅之氏が登場。木月氏を含め、各局エースのバラエティディレクターによるテレビ談義を、3回シリーズでお届けする。
まずは、互いの番組の印象をきっかけに、テレビ制作者が伝承していくべきノウハウなどについて、語り合ってもらった――。
■バラエティの演出は「みんな孤独なんです(笑)」
――早速ですが、皆さんのご関係から伺えればと思います。
木月:もともと橋本さんと南原(清隆)さんと3人でご飯に行ったんですよね。
橋本:僕は当時『ヒルナンデス!』をやってて、木月さんは『ネタパレ』やってて、南原さんとのお仕事が長いので、「会いましょう」ってなって。
木月:橋本さんが大学の先輩なもんですから、その話をしたんですよね。
橋本:いやねぇ、木月さん結構怖い人なんですよ(笑)。僕は東大の落研で漫才をやっていて、2年生のときに新入生を勧誘するためのライブをやるんですけど、そのときに配ってたパンフレットを南原さんとの会のときに持ってきてたんです。「橋本さん落研ですよね」って言いながらそのパンフを取り出したときの恐怖たるや(笑)。「なんでそれ持ってるんですか!?」って聞いたら、「こういう物を持ってたら、いつか会って仕事することもあるかと思って」って言って。大学1年生のときにもらったものを取っておいて、お互い40歳を過ぎた頃に出してくるって、狂気だなと思って(笑)
木月:結局こうして役に立ったんですよ(笑)。持ってて良かったなと思いましたね。
橋本:南原さんの前で「めちゃくちゃ怖いですね」って言いましたから(笑)
――おふたりは『有吉ゼミ』と『スカッとジャパン』で、放送が表裏になることもありますよね。
橋本:でも、表か裏かの対抗心より、「あ、演出やってる人に会えた」っていう喜びが大きかったんです。「番組大変ですよね」っていうシンパシーのほうが強い。演出をやってる人ってみんな孤独なんですよ(笑)
――そこに水野さんも加わって。
水野:僕は放送作家の中野俊成さんがよくテレ朝の芦田(太郎)さんの話をしていて、「一席設けるよ」と言ってたんです。そしたらコロナ禍になって全然行く機会もなくなって、一番“Clubhouse狂騒曲”だったときに、芦田さんが木月さん、橋本さんとお知り合いだったから、Clubhouseで初めて話したという感じです。
橋本:水野さんもいっぱい番組やっててすごいなと思ってたんだけど、なかなか会う機会もないじゃないですか。でも、そうやって会うことができたのは、Clubhouseの良かったところですよね。「孤独な演出が集まってお互いの苦しさを語る」っていうのが、Clubhouseの本来の使い方ですよね。
■終わりのない闘いを続ける苦しさ
――苦しさというのは、どんな点ですか?
木月:日々苦しいですよ(笑)。レギュラー番組を運営していくっていうのは苦しいですよね。
橋本:バラエティのレギュラーって本当に終わりがない闘いだから、マラソンより過酷ですよね(笑)。僕はたまに深夜ドラマをやると、「なんて清々しいんだ」と思いますもん。
木月:本当ですか? やっぱり清々しいですか。
橋本:3カ月撮り終わって、花束渡して「みんないい作品だったね! ありがとう!」って別れるっていうのは、清々しいですよ。だから、1年中休まずにやっていくことのしんどさは、木月さんと水野さんと共通するところで。しかも、何本も掛け持ちしてるから。
水野:実は、今もう1本準備してます。
木月:えーっ!?
橋本:またやるんですか!? ちょっと、そんなにいっぱいやらないほうがいいですよ。
水野:一番やってるの橋本さんじゃないですか?
橋本:みんなMなのかな(笑)。なんでこんなにやるんだろう。昔よりみんな掛け持ちしてますよね。
木月:絶対そうですよね、昔は1人1本でしたよね。でも、ドラマやれるのっていいですね。
橋本:今バラエティは『有吉ゼミ』と『有吉の壁』と『マツコ会議』やってますけど、深夜ドラマとか、有岡(大貴)くんの舞台(『アシタを忘れないで』)をやるとかって普段と違うから、「バラエティで行き詰まった! 気分転換にドラマの脚本直そう!」みたいな感覚でやってるんです。
木月:バラエティ部門からドラマの企画書出して、日テレさんでは結構通るものなんですか?
橋本:深夜ドラマだと結構やらせてくれるのと、IP(知的財産)ビジネスとしてお金を稼いでくるフレームのドラマも結構やってるので。木月さんがやってる『久保みねヒャダ』(※1)と同じですよ。
(※1)…2017年9月に地上波レギュラー放送の『久保みねヒャダこじらせナイト』が終了後、月1回の有料トークイベント『久保みねヒャダこじらせライブ』(現在は『久保みねヒャダこじらせオンラインライブ』)として継続中。
木月:日本テレビはHuluも活用してそういう仕組でやってるのが素晴らしいなと思いますね。
橋本:Huluがあることでやれてる部分もありますね。
水野:それにしてもバラエティやってて、疲れたからドラマのことを考えるって、完全にワーカホリックですね(笑)。僕の場合は、パソコンで言うとずっとスリープ状態みたいな感じ。オフのときも、気になるものが目に入ってきたらあっという間に仕事モードになっちゃうので周囲に嫌がられます。
橋本:みなさんそうじゃないですか? 夏休みでコロナになる前だったら旅行に行くじゃないですか。「夏休みだからのんびりしよう!」と思って午前中は海で泳ぐんだけど、昼くらいになると何かソワソワしてきて、「こういうバラエティできるんじゃないか?」ってスマホにメモを取り始め、午後になると結局、ゆっくりした静かな田舎の環境で企画を考えてるだけになっちゃうんですよ(笑)
水野:まぁそうなりますよね。
木月:分かります。僕、インドに行ってもガンジス川の船の上でテロップ直しましたから。
(一同笑い)