電波状況を監視し、バックホールや無線LAN端末の接続先を自動選択
というわけで、筆者の自宅でWSR-1800AX4を2台利用してメッシュネットワークを構築して試してみた。
筆者宅は鉄筋コンクリートのマンションで、間取りは70平方メートルほどの2LDK。メッシュネットワークが必要になるほどの広さがあるわけではないが、コントローラに設定したWSR-1800AX4をいちばん奥の部屋、エージェントに設定したWSR-1800AX4を入り口付近にそれぞれ設置。この状態では、コントローラとエージェントの間は1つの部屋で隔てられている。間に2枚の壁が存在する形だ。そのうえでまずは、無線LANをバックホール(ルータ間の通信)として試した。
バッファローのWi-Fi EasyMeshでは、無線LANをバックホールとして利用する場合、特定の帯域をバックホールとして固定利用するのではなく、利用環境に応じて5GHz帯域と2.4GHz帯域の最適なほうを自動選択して利用するようになっている(将来的に固定できるようになる可能性はある)。壁を2枚挟んだ状況でどの帯域がバックホールとなっているかチェックしたところ、電源投入直後は2.4GHz帯域に接続するが、その後自動的に5GHz帯域へと切り替わることを確認した。
通常、壁を2枚挟む状況では5GHz帯域の電波は大きく減衰する。それが筆者宅のように鉄筋コンクリートの建物ではより顕著。とはいえ筆者宅では、周辺からかなり多くの無線LAN電波が届いており、特に2.4GHz帯域は電波強度が高くてもまったく速度が出ないという状態だ。そのため、当初は電波強度の強い2.4GHz帯域で接続されたのち、電波の減衰が多少大きくても速度の出る5GHz帯域へと自動的に切り替わったのだろう。これは、きちんと電波強度や通信速度の状況が判断されていることの証しでもあり、この点はなかなかいい感じだ。
では、場所による端末の接続先の切り替わりはどうか。
今回はWi-Fi 6対応スマホ「Galaxy Note 20 Ultra」を使って、自宅内を移動しながら接続先の切り替わりをチェックしてみた。ただ今回試した限りでは、自宅内を移動しても接続先の切り替わりは発生しなかった。
Galaxy Note 20 Ultraの無線LANをコントローラのある部屋でオンにすると、接続先はコントローラが選択される。そのままエージェントの横まで移動してみても、接続先はコントローラのまま。同様にエージェントの目の前でGalaxy Note 20 Ultraの無線LANをオフにし、再度オンにしてみると、その場合はコントローラではなくエージェントに接続することを確認。そして、Galaxy Note 20 Ultraを持ってコントローラのある部屋に移動しても、エージェント側への接続が維持されたままだった。
自宅がそれほど広くなく、最も離れる場所であっても5GHz帯域の無線LANで必要十分な通信速度が得られるためと考えられる。コントローラやエージェントの目の前まで移動しても接続先が切り替わらないのは、Wi-Fi EasyMeshの仕様やチューニングとして、現在の接続先で通信速度が十分と判断した状態では、無闇に接続先を切り替えないような動作となっているためではないだろうか。
バッファローのWi-Fi EasyMeshは、高速ローミングが行える「802.11k/v/r」に対応しており、Galaxy Note 20 Ultraなどの802.11k/v/r対応スマホでは接続先の切り替え時でもネットワーク切断がごくわずかですむ。そのため、本来であれば少しでも電波状況のいい接続先へ積極的に切り替えてもいいように思う。
今回、筆者宅で接続先の切り替えが発生しなかったのは、現在の接続で問題ない速度が発揮されていると判断した場合には、現在の接続を極力維持しようとするからだろう。もちろん、こういった状況だったのは、筆者宅がそれほど広くないためだ。より広い家や、2階建て、3階建ての家では、場所に合わせて接続先が切り替わるはずで、この点を心配する必要はないだろう。
速度を優先したいなら有線LANバックホールでの運用も
では、接続先によって速度がどの程度変わるのかをチェック。Galaxy Note 20 Ultraを利用して、速度計測アプリ「Speedtest.net」を利用した。
Galaxy Note 20 Ultraをコントローラに接続した場合には、自宅内のどの場所でも下りが400Mbps前後、上りが300Mbps前後だった。しかし、Galaxy Note 20 Ultraをエージェントに接続した場合には、下りが250Mbps前後、上りが140Mbps前後にまで低下。このスピードでも十分に速いと言えなくもないが、本来の速度が発揮できないのは気になる人もいるだろう。
この原因は、メッシュネットワークのバックホールと、Galaxy Note 20 Ultraの無線LAN接続がどちらも5GHz帯域となっているためだ。
無線LANの帯域幅は有限で、同じ帯域に複数の機器が接続されている場合はその帯域幅を接続機器で分けて利用することになる。機器ごとの帯域幅は必然的に狭くなり、速度が落ちる要因となる。
各社のメッシュネットワーク対応ルータの上位機種では、5GHz帯域を2バンド用意し、一方をメッシュネットワークのバックホールとして占有させることで、PCやスマホのWi-Fi通信速度の低下を抑制している。WSR-1800AX4は5GHz帯域が1バンドのみのため、どうしてもこういった問題が発生してしまうわけだ。
とはいえ、WSR-1800AX4は実売価格が1万円を大きく下回るエントリークラスの製品であり、この問題を欠点とするのは酷だろう。しかもWSR-1800AX4には、この問題を解消する手段が用意されている。それはメッシュネットワークのバックホールとして有線LANを利用することだ。有線LANをバックホールに利用すれば、無線LANの帯域をPCやスマホといった端末だけで使えるようになる。5GHz帯域をバックホールと端末機器で共有することを原因とした速度の低下は、発生しなくなるわけだ。
実際に、コントローラとエージェントの設置場所を変えずに長いLANケーブルで接続して同様のテストを行ってみたが、Galaxy Note 20 Ultraをエージェントに接続しても下りが400Mbps前後、上りが300Mbps前後と、コントローラに接続した場合と同等の速度が発揮された。
この結果から、WSR-1800AX4でメッシュネットワークを構築する場合に最大限の速度を引き出したいなら、有線LANをバックホールとして利用するべきだろう。近年では、すべての部屋のコンセントに有線LANポートを用意し、壁の中にあらかじめLANケーブルを敷設している家が多くなっており、このような運用も難しくないはずだ。そして、各部屋に有線LANが敷設されていない住宅でメッシュネットワークのWi-Fi速度を優先したいなら、少々高コストになっても5GHz帯域を2バンド備える上位製品の購入がベストだろう。
コストをかけず手軽にメッシュネットワークを構築できるのは画期的
今回、筆者の自宅で試してみた限りでは、自宅の狭さなどもあって、メッシュネットワークの有効性を最大限確認できなかった。試用したWSR-1800AX4がデュアルバンド仕様のエントリーモデルということもあって、無線のみでのメッシュネットワーク構築にはあまり向いていない部分もある。
ただしそういった中でも、メッシュネットワークのシステム自体は問題なく動作していることを確認できた。有線LANをバックホールとして利用すれば、速度の点でも問題が解消され、安定したメッシュネットワークを構築できる。WSR-1800AX4自体がメッシュネットワーク構築に向いていないということでもない。
そしてなにより、ファームウェアアップデートのみでメッシュネットワークに対応、それも高価格帯の上位モデルだけでなく、低価格なエントリーモデルも含めたWi-Fi 6対応のルータと中継機の全製品が対応という点は、非常に画期的だ。これまでメッシュネットワーク対応ルータといえば、それなりに高価な製品が中心だったことを考えても、ユーザーにとって大きなメリットがある。そういった意味で、バッファロー製のWi-Fi 6ルータは、魅力が大きく高まったと言っていいだろう。