AMD FSRの実性能を試してみる
さて、では実際にFSRの効果を試してみたいと思う。今回は評価機材として
- Radeon RX 6800 Reference
- Ryzen Pro 7 4750G 内蔵GPU
- MSI GeForce GTX 1660 Aero ITX 6G OC(GeForce GTX 1660)
の3枚を用意した。GeForce GTX 1660は、以前こちらの記事の時に購入したものだ。ハイエンド機材で更に性能を持ち上げるよりも、手持ちの少し低めの性能の機材がどこまでFSRで性能が引きあがるかを確認する方が現実的だろう、と判断しての事だ。また試すゲームであるが、今回はまだ正式リリース前ということで製品版ではなくβ版のものを利用した。今回AMDからは
- Anno 1800
- GodFall
- Kingshunt
- Terminarot Resistance
- The RiftBreaker
の5つについて試用版の提供を受けた(ちなみに22 Racing SeriesとEvil Genius 2は無し:Evil Genius 2なんて製品版まで買ったのに(泣))。ただKingshuntとTerminarot ResistanceはIn-Game Benchmarkの機能が無いので、ちょっと今回時間が掛かり過ぎて間に合わないという理由でテストから外させていただき、Anno 1800/GodFall/The RiftBreakerの3つについて確認してみた。なお、Anno 1800/GodFallは、現時点で発売されている製品版では当然FAS未対応である。これは22日以降にUpdateが掛かると思うのだが。
テスト環境は表1の通りだ。Radeon RX 6800とGeForce RTX 1660についてはRyzen 7 5800Xでテストを行っている。基本的には先日のGeForce RTX 3070 Tiの比較の際の環境そのままだが、Windows 10のBuildがやや上がっている。またAMDのRadeon SoftwareはFSR対応を謳ったβ版(当然WHQL未対応)である。
■表1 | ||
---|---|---|
CPU | ・Ryzen 7 5800X ・Ryzen Pro 7 4750G |
|
M/B | ASRock X570 Pro4 | |
BIOS | P4.00 | |
Memory | Micron 16ATF2G64AZ-3G2E1(DDR4-3200 16GB CL22)×2 | |
Video | ・MSI GeForce GTX 1660 Aero ITX 6G OC | ・AMD Radeon RX 6800 Reference ・Ryzen Pro 7 4750G内蔵 |
Driver | GeForce Driver 466.27 DCH WHQL | Radeon Software Adrenalin 21.6.1 Jun15 |
Storage | ・Seagate FireCuda 520 512GB(M.2/PCIe 4.0 x4) (Boot) ・WD WD20EARS 2TB(SATA 3.0)(Data) |
|
OS | Windows 10 Pro 日本語版 21H1 Build 19043.985 |
グラフ及び本文中の表記だが、MSI GeForce GTX 1660 Aero ITX 6G OCはGeForce GTX 1660とさせていただいた。また解像度表記は
1K :1280×720pixel
1.5K:1600×900pixel
2K :1920×1080pixel
2.5K:2560×1440pixel
3K :3200×1800pixel
4K :3840×2160pixel
とさせていただいた。
◆Anno 1800(グラフ1~3)
Anno 1800
UBISOFT
https://ubisoft.co.jp/anno1800/
2019年4月に発表のゲームであるが、これが意外に負荷が高い。さてベンチマーク手順だが、ちょっと面倒である。まずゲームを立ち上げ、オプションを選ぶ(Photo20)。次いでグラフィック設定画面で解像度とグラフィック品質、FSRの設定を行う(Photo21)。ここで設定を保存したら、一旦ゲームを終了するのである。次いで、ゲームにコマンドラインオプションをつけて立ち上げると、勝手にベンチマークを行い、その結果は自動的にログファイルを生成して格納してくれるというものだ。
この際のコマンドラインオプションだが、事前の説明では
"Anno1800 /benchmark"
として起動することで実行できるという話だった(Anno1800.exeは、Ubisoftのインストールディレクトリの下に格納されている)。ただ実際には
ショートカット名 | URL |
---|---|
Anno1800 | uplay://launch/4553/0 |
Anno1800 Benchmark(DX11) | uplay://launch/4553/1 |
Anno1800 Benchmark(DX12) | uplay://launch/4553/2 |
の3つのショートカットがデスクトップに生成されたので、この"Anno1800 Benchmark(DX12)"を起動した。
ベンチマークが起動すると、Sequence 12/13/14という3種類のシーケンスがそれぞれ3回づつ合計9回実施される。その際のフレームレートは全部CSVの形で保存され、更にシーケンス毎の平均フレームレートと全体での平均フレームレートが示されるという、ある意味大変親切な設計である。今回は3種類のシーケンスのうち、一番負荷が高い(=一番平均フレームレートが低い)シーケンス14の平均フレームレートのみを採用した(フレームレート変動を全部グラフに示してもいいが、GPUあたり15~20パターンあるフレームレート変動を並べるのは筆者も厳しいし読者も厳しいと思うので、割愛した)。
ちなみにテスト環境だが、まず解像度はRadeon RX 6800/GeForce GTX 1660は2K/2.5K/3K/4K、Ryzen Pro 7 4750Gは1K/1.5K/2Kとしている。いくらFSRを使ってもRyzen Pro 7 4750Gで4Kは無理だろう、という判断であるが、結果から言えばそう間違っていないと思う。またグラフィック品質であるが
- Radeon RX 6800 :グラフィック品質 最高
- Ryzen Pro 7 4750G:グラフィック品質 低 FSAA 無し
- GeForce GTX 1660 :グラフィック品質 中 FSAA 4x
としている。FSAAは、グラフィック品質を下げると2xとか無しに出来るのだが、4x未満の設定にするとFASを有効にする際にFSAAを4x以上にすることを強く推奨されるためだ(Photo22)。Ryzen Pro 7 4750Gは性能優先でこれを無視したが、GeForce GTX 1660では素直にFSAA 4xとしている。
またVSYNCは全ての場合で無効にしているが、これをするとグラフィック品質がカスタムと表示されるのに注意されたい(別に実害はないが)。
ということでグラフ1~3がAnno 1800での結果である。今回は解像度毎に折れ線を分け、横軸はFASのQuality Settingとしているので注意されたい。まずRadeon RX 6800(グラフ1)。2Kなら元々120fps以上のフレームレートがあるから、FASを使うニーズがあるか? と言われると微妙なところだが、4Kだと46.5fps程度がUltra Qualityですら60fps超え、Qualityだと76.5fpsと十分に高くなっており、性能優先のPerformanceにすると2倍を超えて100fps近くまで性能が向上しており、そのメリットは十分に感じられると思う。
微妙なのがRyzen Pro 7 4750G(グラフ2)。Ultra Qualityで性能がむしろ落ちるというのは、FASをパイプラインに加えたことに拠るオーバーヘッドが、解像度3割減のメリットを上回ったという話で、微妙なところ。ただ2Kでもなんとか60fps超えは実現できているので、まぁ使わないという選択肢はありえる。ただそこからより設定を速度寄りにしてゆくと、Balancedでほぼ100fps、Performanceで110fps近くまで上がる。1Kだと最大で144fpsまで達するが、流石にこれは画質的に厳しかった。まぁ2KでもFASの設定次第で十分遊べる範疇になる、という点は評価に値すると思う。性能比で言えば最大60%ほどの向上が見られた格好で、悪くない数字だと思う。
GeForce GTX 1660(グラフ3)は、Ryzen Pro 7 4750Gよりは伸び率は大きいが、Radeon RX 6800ほどではない。最大で68%ほどの伸びとなっている。2Kに関して言えばFASなしで144fpsを達成しているから、ここでFASを利用するメリットは余りない。ただ4KはFASなしだと50fpsそこそこでかなり厳しいのが、Qualityだと60fps超え、Balancedだと70fps超えとなり、このあたりが丁度使い勝手が良い設定ではないかと思う。
ちなみにこのGeForce GTX 1660でも、Qualityのフレームレートが殆どOffの場合と変わらないあたり、やはりFASをパイプラインに組み込むオーバーヘッドがかなり大きく、30%の解像度削減によるフレームレート向上分とほぼ相殺しあっている感じだ。
ただこれは他のゲームでは見られない傾向であり、むしろインプリメントというかAnno 1800というゲームの特徴と言うべきなのだろう。
◆Godfall(グラフ4~6)
Godfall
Counterplay Games Inc.
https://www.godfall.com/jp/
ベンチマークの手順そのものは以前こちらのGodfallの項で説明した通り。ちなみにビデオ設定にはFASの設定が追加されている(Photo23)が、違いはここだけである。テスト環境であるが、Anno 1800と同じく
- Radeon RX 6800 :解像度 2K/2.5K/3K/4K デフォルト画質 最高 DXRT オン
- Ryzen Pro 7 4750G:解像度 1K/1.5K/2K デフォルト画質 低 DXRT オフ
- GeForce GTX 1660 :解像度 2K/2.5K/3K/4K デフォルト画質 中 DXRT オフ
としている。
という事で結果を。まずRadeon RX 6800(グラフ4)。こちらに関しては2Kと2.5KのPerformanceがほぼ同じ150fpということで、ここらへんでCPUネックの傾向が見える。2.5KのPerformanceということは、入力解像度は1Kになる訳で、まぁそれはCPUネックでも仕方ないだろう。2KもQuality(入力解像度はやはり1K)でほぼ頭打ちになっており、この辺がRyzen 7 5800Xの性能の限界ということになる。2Kでは最大26%アップとかの数字になるのは仕方がない。ただ2.5Kは同じく頭打ちと言いつつ最大で60%以上アップだし、4Kに至っては54fps→116fpsで倍以上の性能向上になっている事を考えれば、単に低い解像度でFASは効果的でないというだけの話で、FASそのものの有用性が否定された訳ではないだろう。実際4KだとUltraQualityで普通にプレイするのに支障はなくなるし、Qualityまで上げれば余程負荷が掛かる場合でもスムーズだろう。
Ryzen Pro 7 4750G(グラフ5)ではそこまで大きくは性能が向上しない。なにせFASなしだと1Kでも40fps、2Kでは30fpsを切るほどだから、2KでFASをPerformanceにしても1KのFASなしと大差ない訳で、実際そういう性能になっている。1KでPerformanceということは、入力解像度は640×360pixelという、かつてのVGA並みのサイズである。これですら50fpsそこそこというのは、もうRyzen Pro 7 4750Gの内蔵GPUでGodFallをやるのは無理だ、という神のお告げと思った方が良い。性能改善率では最大47%(2Kの場合)ではあるが、元が低すぎるとFASでもカバーできない、という事例と言える。
これに比べるとGeForce GTX 1660(グラフ6)は大分Radeon RX 6800に近い。4Kの場合、Permanceでギリギリ60fps超えを達成したが、平均で60fpsだから実際は多少上下がある事を考えると、4Kでのプレイはお勧めできない。低品質まで下げれば可能性はあるが、多分画質的には2.5Kで中品質のまま、FASをQualityで使うあたりが一番妥当なところだろう。それでもFASなしだと2.5Kすら辛く、2Kが現実的だったことを考えれば、かなり性能が向上した、として良い気はするのだが。
◆The RiftBreaker(グラフ7~9)
The RiftBreaker
EXOR Studios
https://www.riftbreaker.com
この原稿執筆時点では、Steamのページのリリース予定日が"Fall 2021"になっていて、本当に6月22日に公開されるのか非常に「?」ではあるのだが、それはともかく。3月にEXOR Studiosがトレイラーを上げているので、どんなゲームか、はこちらをご覧いただく方が早い。
さてベンチマーク手順である。SteamからThe RiftBreakerを起動するとこのPopup(Photo24)が出てくる。ここでConfiguration Tool(Photo25)を立ち上げる事で、必要な全項目の設定が可能である。設定が終わったら右下の"設定を保存する"を押した後でPopupを消し、再びSteamからThe RiftBreakerを起動してPhoto24に戻り、今度は"Play GPU Benchmark"を選ぶと自動的にベンチマークがスタート、最後に結果を表示する(Photo26)という仕組みだ。
テスト環境であるが、
Radeon RX 6800 | 解像度 2K/2.5K/3K/4K Raytraced soft shadows:オン Ray traced shadow quality:ウルトラ Raytraced ambient occlusion:オン ダイナミックべジテーション:フル |
---|---|
Ryzen Pro 7 4750G | 解像度 1K/1.5K/2K Raytraced soft shadows:オフ Raytraced ambient occlusion:オフ 影のクオリティ:低 ソフトシャドー:いいえ アンビエント オクルージョン:オフ ダイナミックべジテーション:オフ |
GeForce GTX 1660 | 解像度 2K/2.5K/3K/4K Raytraced soft shadows:オフ Raytraced ambient occlusion:オフ 影のクオリティ:中 ソフトシャドー:はい アンビエント オクルージョン:オン ダイナミックべジテーション:風のみ |
としている。設定項目が違うのは、DXRTのOn/Offで設定項目が変化するためである。ちなみにいずれもレンダラーはDirectX12、垂直同期はオフとしている。
ということで結果を。まずRadeon RX 6800(グラフ7)の場合、そもそも4KでFASを使わなくても75.4fpsが出ており、FASを使うと最大200fps近くで実に2.6倍もの性能改善である。2Kだと1.8倍程度であるが、Performanceだと433fpsに達しており、これに追従できるモニターは存在しない。まぁ4KでUltra Qualityにするだけで平均100fps超えだから、そもそもFASが要らないという感じになっている。
Ryzen Pro 7 4750G(グラフ8)の場合、2KでFASがないと45.0fpsなのが、Qualityにすると71.7fpsと「現実的にプレイできる性能」になるのは大きい。Performanceだと98.7fpsに達するが、流石にここまでの性能は要らないだろう。1K/1.5K/2Kとも、最大で2倍近くまでフレームレートを向上できる辺りはFASの効果がちゃんとある、というところだろうか。ちなみにテストはしていないが、2.5KをBalanced Modeで使った場合、入力画像は1506×847pixelで、ほぼ1.5Kに近いので、恐らく60fps前後の平均フレームレートになると思われる。これは何とかプレイできる範囲であるわけで、2Kですらまともにプレイ出来なかった事を考えるとちょっと驚きである。
最後がGeForce GTX 1660(グラフ9)であるが、とりあえず2K~2.5Kに関して言えばFASの必要が薄い(2Kは全く無い)。4Kは流石にFASなしだと厳しいが、Ultra Qualityでそこそこプレイできるようになるし、Qualityにすれば十分だろう。性能向上率という意味では、2Kだと2倍程度だが、4Kだと最大で2.6倍に達しており、FASの効果を十分に享受できることになる。もう少し画質を引き上げる方向に振っても良いかもしれない。
◆画質比較
FSRの性能はそんな訳で確認できたが、では画質はどうだろうか? という事で、GodFallを利用してちょっと確認を行ってみた。
Photo27は、起動直後の画面のキャプチャだ。緑色の枠の付近を切り出し、縦横2倍に拡大(Photoshopで「ディテールを保持:ノイズリダクションなし」でサイズ変更)したものである。主に兵士の足元の茶色(ゴールド?)の周辺の模様を比較して頂きたいが、やっぱり相応に画質が落ちているのは実感できる。とはいえ、元の画質が良いためか、ぱっと見Qualityあたりまではそれほどディテールが落ちている気がしない。Balanced/Performanceはそれなりに劣化しているが、周辺の模様はともかく中央の花(?)の造形はちゃんと描画されているからだ。
では、元の画質が悪かったら? ということで、今度は同じシーンを真上から見下ろしてみた(Photo28)。兵士の髪の描画が、Ultra Qualityはまぁ真っ当だが、Qualityになるとちょっとぼけ始め、Balancedだとかなり荒れる。Performanceだと立体感がかなり失われている感じで、やはり2倍拡大はちょっと厳しい感じである。
もっともこれ、当たり前と言えば当たり前の話で、出力2KでFSRがPerformanceの場合、入力は960×540pixelになる。ここまで解像度を落とすとそもそも描画が荒れるのは当たり前で、画質補正にも限界がある。今回のベンチマークはそれに相当するものは無かったが、FPS系の場合細かな文字とか数字(例えばスコープを覗いたときに敵までの距離とか)が出てくるものは、やはり入力の解像度を余り落とし過ぎるとプレイに支障が出る。その意味では2Kとは言わないまでも、せめて1.5Kでまともなフレームレートが出ないとFSRでフレームレートだけ持ち上げてもプレイには支障がありそうだ。その意味では、やはり内蔵GPUタイプに関しては「軽いゲームに限る」という条件に変わりはなく、ただし軽いゲームについてはより軽快に動くという感じだろうか。
考察
ということでFSRの効果を試してみた。正直言えば、追加コストなしでこれだけ性能があがるのはやはり驚異であるし、DLSSと十分勝負できるというか、DLSSより使い勝手が良い。以前も書いたがDLSSだと対応する解像度が限られるし(※)、設定はOnかOffだけである。それに比べるとこちらの方がずっと柔軟性に富んでいるし、性能の上がり方もリーズナブルである。おまけにNVIDIAのGeForce GTXシリーズユーザーにもメリットがあるとなると、これは高く評価せざるをえない。
※ 2021年6月23日 訂正
「DLSS 2.0」以降では、使用できる解像度の制限がなくなり、画質モードを「Quality」、「Balanced」、「Performance」、タイトルによってはさらに「Ultra Performance」の中から選択できるようになっています。
勿論万能ではなく、Ryzen 7 4750Gでもこの程度の性能しか出ない訳だから、それ以前のRyzen 2000G/3000Gシリーズでは更に厳しいだろう。内蔵GPUでも性能が上がるには上がるが、元が低いから1.5倍になってもまだ実用の範囲内に入ったとは言いにくい。勿論ゲームを選べばプレイ可能ではあるのだが。もっとも今年Ryzen 5000Gシリーズのデスクトッププロセッサが投入されると、もう少しマシになりそうな気はする。
Intel系は今のところサポートリストに含まれていないが、仮に含まれてもRocket LakeとかComet Lakeでは(Ryzen Pro 7 4750Gより更に性能が低いから)期待できない。ただモバイル向けのTiger Lakeとか今年投入予定のAlder Lakeでは、ひょっとすると実用的かもしれない訳で、このあたりは今後のサポートに期待したいところだ。
あとは対応ゲームがどれだけ増えるか、という事になる。DLSSとFSRの両対応を望むのは(技術的には不可能ではないと思うが、手間とコストを考えると)望み薄であり、なので今DLSSに対応していないゲームが今後どれだけFSRをサポートしてくれるか、というあたりであり、これはAMDの働きかけ方次第ということになる。そんな訳で引き続きSasa(Sasa Marinkovic:Global Gaming Marketing Director)に頑張って頂きたいと思う。