きな臭い雰囲気が漂っていることも実感せずのんきな彼らに比べて、血洗島では、長七郎(満島真之介)の様子がおかしかった。心配した尾高惇忠(田辺誠一)は長七郎を栄一たちの元に旅立たせる。その途中、亡くなった河野顕三(福山翔大)の墓に参る。長七郎の同志であり、坂下門外の変で命を落とした。罪人扱いなのか。ちっちゃな石の墓が寂しすぎる。
河野の死によって長七郎は命を無駄にしてはいけないと思うようになる。河野の残した文章を栄一にも協力を仰いで一冊の本にすることも行うほど河野を大事にしていた。墓参りを終えて旅を続ける途中、長七郎は狐の嫁入りの幻を見て、すれちがった通行人を斬って捕まってしまう。この場面は急に怪談テイストなのだが、その前に、第5回で渋沢の姉の狐憑きのエピソードがあったので唐突感はない。それと、眼帯をしていた河野は夷狄の妖術によって眼病になったと思っていたそうなのだ。河野を演じた福山翔大に取材したとき、台本にはこういうセリフがあったと聞いた。
『青天に衝く』では近代化以前、人が迷信的なものに影響されることを繰り返し書いている。開国反対を唱え外国から新しい知識が入ってくることを拒む攘夷の若者たちが迷信に惑わされることも自然なことかもしれない。いい国作ろうと志高く、情熱を燃やしているにもかかわらず、妖術だとか幻に振り回されることは惜しい。だからこそ世界を知り学ばなくてはならない。このドラマを通してこれからの若者たちに伝えたいことのひとつではないだろうか。
長七郎が起こした事件によって、栄一たちが書いた文がお上に渡ってしまった。その手紙には「横濱焼き討ち」「眠る志士たちの目を覚ます」など威勢のいいことを書いていたので栄一たちは大慌て。捕まる前に逃げようとあたふたしていると、そこに、川村恵十郎(波岡一喜)が現れる。この人物は以前から栄一たちを探って円四郎に報告していることも描かれていて、その後もずっと監視していたに違いない。円四郎もただの気のいいおじさんではないのである。でも円四郎でなかったら、栄一たちの未来はなかったかもしれない。攘夷派でありながら幕府側の平岡の家来となる、どっちつかずの栄一たちがどちらを選び取るか。京都編の今後が楽しみ。徳川家康にもまた出てきてほしい。
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