危機管理能力が抜群、リスクはきちんと伝えて
――Z世代が社会進出をしてきたこのタイミングで、やはりジェネレーションギャップに戸惑う上の世代も多いと思います。うまく付き合っていくコツや、押さえておくべきポイントはありますか?
まず、やはり超コスパ志向なところは仕事においても同じで、Z世代は「結果」からまず逆算して考える人たちなんですね。これは草食系世代ぐらいから顕著なのですが、とにかく先々を読んで行動する傾向にあります。
というのも、もっと上の世代、今の50〜40代半ばのバブル世代や団塊ジュニア世代の入社時点までは、「汗水流して頑張る」という概念が美徳とされ、何より終身雇用制がまだ残っていたので、ある程度安定した会社に入れば一生安泰、あるいはもし失敗しても国や会社がおそらく守ってくれるんだろうな、という空気感がありました。
ところが、2000年代に入って終身雇用は崩れ、草食系世代の青春時代には「自己責任」論が取り沙汰されました。もし失敗すれば会社は「君の責任だ」と自分を切り捨てるかもしれない、いつリストラされるかわからないという時代になりました。そうすると、自分が守備範囲を超えた業務にまで出しゃばって失敗したらリスクにつながるわけですから、「失敗しないようにしよう」「危ないことはやらないようにしよう」となるのは当然ですよね。
それが、ゆとり世代から少し変わってきて、コスパを考えて消費活動をするのと同じように、仕事においても「こっちは今、若干リスクがありそうだけど、結果的に自分の能力アップや会社の利益につながるかも」と、多少大変でも自分や会社のためになりそうなことはやってもいい、という感覚になっていきます。
Z世代になると、今度は「人のため」というところまですごく考える。もちろん自分のスキルになるかどうかも大切なんですけれど、それが社会のためにどうなるのかも重視します。
例えば、昨今よく「SDGs(持続可能な開発目標)」の重要性が言われますが、それを会社のプロジェクトとしてやろうとしたときに、「大変そうだし、上司たちはよくわかってないし、失敗するかもしれないな」と思っても、「社会全体を良くする活動なんだから、多少リスクが伴ってもこれは会社としてはやるべきことなんだ」とか、あるいは「これをやっておくことで将来、社会のSDGsへの理解が深まるから、意義のあることなんだ」とわかれば、嬉々としてやる人たちなんですね。
ここで接し方のポイントとしては、自分だけでなく周りや社会のためにどれだけ役立つ活動なのかということに加え、失敗のリスクを会社が多少覚悟していることも、きちんと伝えてあげることです。そうすれば、彼らはリスクヘッジを前提に考える世代なので、なるべくリスクを負わないようにとか、リスクを負ったときにどうすればいいかを事前に考えます。失敗のリスクがあるなら、「いい活動だ」とか「とにかくがんばってやってみろ」と言ってごまかすのではなく、リスクの可能性もきちんと誠意をもって伝えることが大事です。
ウィークポイントは、弱みを見せて歩み寄ることでカバー
――お話を聞いていると、Z世代はとても優秀なんだなという印象です。
そうですよね。学生時代からPowerPointを使ったプレゼンにも慣れている人が多いのでデジタルにはもちろん強いですし、理論的に物事を説明する能力もすでに身に付けている人が目立ちます。ただ弱い部分としては、経験よりやたらと知識や理論が先行するので、言うことが屁理屈に聞こえやすいことです。彼らが「僕の考えでは……」と力説することの中には、本やインターネット、SNSで聞きかじった「受け売り」が結構入っていたりするんですよね。
こういう部下の前では、上司として「格好つけねば」と力が入りがちですが、実は自分の弱みを見せることが大事。「僕もそう思うし、君が言ってることはよくわかるんだけど、現場にはこういう事情があって、今は難しいんだよね」とか、「実現したくても、僕は〇〇の分野に弱くて一人の力では無理だから、君にぜひ補ってほしいんだ」という伝え方をすれば、雰囲気もすごく良くなると思います。上司も人間ですから得意なことと不得意なことがあって当たり前なので、むしろそうやって素直に弱みを見せてしまった方が、後々仕事がやりやすくなったり「信頼できる人だ」と感じてもらえたりするでしょう。
特にZ世代の場合、その「弱みを見せる」という自虐行為は自分たちも普段からやっている処世術なんですよ。例えば、自分のすっぴんを見せるメイクもそうですよね。最初からキレイでどこにも隙がない状態ではなくて、わざとすっぴんから変わっていく過程を見せることで「こんなに変われるんだ、この人すごい」って思わせた方が受けがいい。
私も、インターンの大学生の前ではついカッコつけてしまいがちなんですけれど、上司もむしろイケてないところを見せてしまった方がずっと楽になれるし、彼らの感覚にも近づけます。もちろん、全部が全部ダメなんだってことになると、最初からリスペクトされなくなってしまいますが(笑)。
――弱みを見せるのに抵抗のある大人も少なからずいると思いますが、そこは思い切っちゃった方がいいということですね。
そうですね。バブル世代は「男が弱みを見せるなんて……」とか「いつもカッコよくいなきゃいけない」といった時代でしたが、今の若者に対してはその方が距離が近くなりますし、人間味があって信頼できると思われがちなので、そこは意識的にやっていただくのがいいと思います。子育てと同じで、「親に教わる」より「親に教える」ことで、子どもは成長します。「ここ、よく分からないから教えてくれるかな」と聞いた方が部下も成長するし、自信を持てたりもしますから。まずはぜひ、そういう関係性を作ってほしいですね。
"仕事とプライベートの区別はきっちり"が大前提
――仕事以外のシーン、例えば雑談をするときなどに気をつけた方がいいことはありますか?
今はコンプライアンスが厳しくて、「こんなことまでハラスメントなのか」とビックリするような時代ですよね。そんななかで、ポイントは2つです。まず1つは、会社の規定をきちんと確認しておくこと。大企業ではハラスメント研修を行っているところも多いので、そういう機会があるようでしたらちゃんと受けておきましょう。
もう1つは、仕事とプライベートをはっきりさせること。もちろん色恋の話などはすべきではないんですが、例えば見た目について「痩せたんじゃない?」と聞くとしても、「もしかして仕事で何か悩みがあるのかな」と、仕事関連で心配して聞くのだとしたら、意味のある質問ですよね。Z世代は特に、仕事とプライベートの仕分けがきっちりしていますから、同じことを聞くにしても「なぜ気にするのか」を併せて伝えるべきです。
これは飲み会に誘うときも同じです。誘った際、「それって仕事ですか? プライベートですか?」と聞く若者が少なからずいて、上の世代は「いちいち無粋なんだよね」と嘆いてもいますが、昔のように会社に24時間尽くせば、会社も一生守ってくれるという時代ではないので、仕事とプライベートの線引きはしっかりしています。彼らは貴重な時間を消費することに敏感なので、飲み会に行くことでメリットがあることを感じさせてあげる必要もあります。
――上司が部下たちと飲みに行くのは、難しい時代なんでしょうか?
おじさんたちは飲みに誘って断られると「若い子はやっぱり誘えないんだ……」ってなるんですが、1回や2回断られたぐらいでそんなにヘコむ必要はありません。飲み会自体をすごく嫌がっているわけではなく、「その日にたまたま、仲間とオンラインゲームで一緒に戦う約束をしている」とか「職場で済む話なら、飲みに行く必要ないですよね」などというだけのことです。
むしろZ世代は好奇心旺盛で、会社の中で仕事を円滑に進めるうえで役立つ情報は積極的に入手したいと思っている人も多いので、「飲み会は僕の主義に反するので!」と確固たる理由で断るケースは少ないと思います。ただし、働くことも「楽しい」がモチベーションにつながる世代なので、楽しい話ならどんどん聞いてみたいと前向きになれるのですが、説教がましい言い方は絶対NG。そこは意識した方がいいですね。
また、仕事かプライベートかを気にすることの理由の1つには、お金の問題があることも知っておいたほうがいい。単に「仕事なら、会社が出してくれて当たり前」という視点だけではなく、「プライベートなら、会社が支払うのはおかしい」という逆の視点も、Z世代の多くは持ち合わせています。
例えば、上司が「今日はプライベートだけど、予約した店へはタクシーで行って、領収書を切ろう」なんて姿を見せちゃうと、「この人って、こうやって公私混同してるんだ…」と思われてしまいます。彼らはそういうズルを目の当たりにすると、結局自分もどこかで誤魔化されているんじゃないかとか、回り回ってお客様に損させているかもしれないとか、そういうことまでちゃんと考える人たちなので、注意が必要です。
今の時代を生きるために、Z世代をお手本にして
――今、上の世代が下の世代から学ぶべきことはありますか?
Z世代は、弱者を救うことやみんなで助け合って社会を作っていくということを、環境教育やボランティア教育で学んできている世代。幼少期から、多様性や社会貢献に敏感な人たちです。今はSDGsやカーボンニュートラル(脱炭素社会の実現)、今年に入って「フェムテック」(Female<女性>とTechnology<テクノロジー>をかけあわせた造語)という言葉も話題になっていますが、自社の利益だけでなく他者への配慮なしには企業活動ができない時代です。今後、自分たちがやろうとしている事業が消費者にどう見えるか、Z世代の目線はすごく参考になると思います。
同時に、ワークライフバランスの考え方です。昔は"ワークよりライフだ"といった二者の比較が強かったように思いますが、今は特にコロナ禍ということもあって自宅でのテレワークが増えてきていますし、男性も育児をするのが当たり前と言われる時代になったので、仕事とプライベートの境目がすごく曖昧になって、二者択一より「バランス」重視になってきているんですよね。
今の子たちは、これはワークなのかライフなのかということをきちんと意識しながらも、バランスよく時間配分をしたり、ライフで得たことがワークにどう役立つかといった「一石二鳥」の合理的な思考をしたりする傾向も強い。彼らの考え方を参考に、「こういうやり方をすれば、もっと効率よくできるんだ」とか、タムパ的な思考も含めて、新時代の仕事の進め方やスタンスを模索してほしいと思います。
牛窪恵/ マーケティングライター。世代・トレンド評論家。修士(MBA)。立教大学大学院・客員教授。「おひとりさま(マーケット)」「草食系(男子)」など、多数の著書を通じて流行語を世に広めた。現在『所さん! 大変ですよ』『ホンマでっか!? TV』など多くのテレビ番組に出演中。