――それぞれ多くの作品をご担当されていますが、特に印象に残っているものを挙げるとすると何でしょうか。全部違うテーマで難しいとは思いますが…。
味谷:僕は何百回もやらせてもらってるんですけど……1本を挙げるというのはできない(笑)。1本1本精魂込めてやったつもりで、みんなかわいい子供みたいなものなんですよ。だから、その中で1本選ぶというのは難しいんです。
西村:たしかに難しいですね。なので、価値の高い1つの映像記録として挙げると、大阪で居酒屋を営む大家族(『お父さんと13人の子ども』(20年7月12・19日放送)ですね。お父さんがコロナにかかるのですが、エクモ(体外式膜型人工肺)から生還した人の映像を、おそらく世界で初めて出したと思うんです。非常に貴重な映像であるのと、あの家族のことも含めて印象に残っています。
――たしかに、あれは衝撃的な映像でした。
西村:自分の担当外で言うと、自給自足の生活を送る大家族に密着した『われら百姓家族』(00~17年)ですね。自分の知らない世界や価値観を知ることができるのがテレビやドキュメンタリーの好きなところなんですが、当時、テレビの世界に入ったばかりの頃で、同世代にあんな子供たちや家族がいるんだと思って、すごく記憶に残ってますね。
■“人生の優先順位”にみんなが悩む時代に
――今回の「放送1000回SP」で『ザ・ノンフィクション』を“検証”された上で、今後の番組の展望を伺わせてください。
西村:今、世界中の人に関わっているコロナという問題があるので、近年言われている「多様性」とか「自分らしく生きる」という考えが、より進んでいくのではないかと思うんです。“人生の優先順位”にみんな悩んでいるので、それがおそらくドキュメンタリーの題材になるんじゃないかなと思います。そこに見てくれる人の需要がすごくあると思うのでそういったテーマは必然として増えていくのではないでしょうか。視聴者も制作者もこんなに世界中で共通して影響を受けているものって、実は今までないんです。今、暮らしが変わってない人は世界中にいませんよね。だから、すべての取材対象者に影響があるという、これまでのテレビ史にないことなので、我々が時代を映す鏡であるならば、これを記録していくということが当面の役割になるんじゃないかなと思います。
――味谷さんはOBとして期待のほど、いかがでしょうか。
味谷:ドラマとかバラエティといったフィクションも生きていくには大事なことでしょうけど、それと合わせ鏡のようにやっぱり“ノンフィクション”というものにも、多くの人が意識を持ってもらいたいと思いますね。まだまだ裾野を広げることはできると思うので、若い人たちの力で「ドキュメンタリーも面白いね」ともっと言えるようになってほしい。一番分かりやすいのは、電車に乗ってたら隣から「昨日、あのドキュメンタリー面白かったね」って聞こえてくることなんだけど、その経験がないんですよ。
西村:僕、家族で食事をしていたら、隣の席の家族のお父さんが「今日、上京して料理人目指してる人のドキュメンタリー見てさ…」って話をしてましたよ。うれしいですよね。
味谷:うれしいよねぇ。この前、自分の講演に行ったら、相手の3人中2人が『ザ・ノンフィクション』ファンで、うれしかったよ! 僕の最後のほうは数字が取れなかったけど、その後の張江(泰之)くんが盛り上げて、今の西村くんも世の中をうまくすくい取っている。予算も僕の頃からは下がってるのに、また数字がちゃんと取れてきているから本当によくやってくれてると思うし、こうして続いていることがありがたいですね。これからもすごく期待しています。
●味谷和哉
1957年、大阪府生まれ。読売新聞大阪本社社会部記者を経て、92年にフジテレビジョン入社。以来ドキュメンタリー畑一筋で、ディレクター・プロデューサーとして制作に携った作品は450本超。03~15年に『ザ・ノンフィクション』のチーフプロデューサーを務め、17年からフジキャリアデザイン執行役員営業企画部長。
●西村陽次郎
1974年生まれ。青山学院大学卒業後、富士銀行を経て、99年にフジテレビジョン入社。ドキュメンタリー、情報番組などを担当し、19年より『ザ・ノンフィクション』チーフプロデューサー。現在はほかに、『逮捕の瞬間!警察24時』『目撃!超逆転スクープ』や、『ワイドナショー』『まつもtoなかい』といったバラエティ番組も手がける。