1995年10月にスタートしたフジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)が、18日の放送で1,000回を迎える。これを記念して、11日・18日の2週にわたって、番組の歴史を振り返りながら、「『ザ・ノンフィクション』は何を描いてきたのか?」を検証する「放送1000回SP」が放送される。ナレーションは、歴代最多の36回目となる女優の宮崎あおいだ。
そこで、2003年から12年にわたり4代目チーフプロデューサーを務めた味谷和哉氏と、19年からチーフプロデューサーを務めている6代目の西村陽次郎氏が対談。今回は、一般人を取材対象とすることの難しさ、SNS時代の環境変化、そして今後の展望・期待などについて語ってもらった――。
■カッコつける部分を取り払って本音まで
――有名人やその道のプロに密着する他のドキュメンタリー番組と違い、『ザ・ノンフィクション』は、“カッコいい”ところだけでなく、“カッコ悪い”とか“恥ずかしい”部分も映し出していきますよね。しかもそれを一般の方相手に求めなくてはいけない。ここは、番組制作として非常に難しいところではないかと思います。
味谷:まさにそうですね。表面に出てくるところだけでなく、カッコつけていた部分を取り払って本音の部分まで迫ろうというのが基本にあるので、それを1つの“ドキュメンタリー魂”と言うのであれば、プロデューサーがそれぞれの形でやっていますが、連綿と続いてきてると思います。
――味谷さんが以前「フジテレビで『めざましテレビ』は“明”、『とくダネ!』は“解”、『ザ・ノンフィクション』は“魂”あるいは“業”」とおっしゃっていたのが、印象に残っています。
味谷:人間の本質に迫っていく側に気持ちがないと、結局ドキュメンタリーは成立しないと思うんですよ。“きれいきれい”に見せるんじゃなくて、そこに迫ることこそが愛情であって、作り手の“魂”なんだということ。それと、取材対象者の“人間の業”を映すということで、“魂”と“業”という言葉で表現しましたね。
■「カッコ悪いほうがカッコいいんです」
――近年は、視聴者がSNSで気軽に感想を発信できるようになりましたが、番組制作をめぐる環境を大きく変えている部分もあるのではないでしょうか。
西村:かつては、『ザ・ノンフィクション』を見て、「この主人公の生き方はないだろう」とか「なんでこんな親がいるんだ」とかいう気持ちを発信する手段はなくて、本当に言いたい人はテレビ局に電話していました。それは決して大きな声ではなかったのですが、今は毎週のようにTwitterで「#ザ・ノンフィクション」がトレンド入りして、ネガティブな意見、さらには中傷するようなコメントが投稿されることもあるんです。これを、取材を受けてくれた人が、僕らを介在しないで目にしてしまうというのが避けられない時代なので、毎週心配している部分ではあります。でも、SNSがあっても変わらないのは、取材対象者と制作者の間には、時間をかけた信頼関係があるということ。ネットで叩かれていても、担当ディレクターと取材対象者の方、その家族ときちんとコミュニケーションが取れている関係性があるから、「映してほしくない部分もあるかもしれないですが、これがあなたですよ」と伝えて放送するという、こちらもある種の覚悟を持っています。
味谷:一般の方を撮るときに大事なのは、「テレビで見るほうからすると、カッコつけてるのは逆にカッコ悪い。カッコ悪いほうがカッコいいんです」と言うことですね。それを伝えて信頼関係をつないで取材者が当たり前のようにいると、その人の本質が出てくるというものなんですよ。
西村:また面白いことに、カメラがあることで人生が動くという瞬間もあるんです。ドキュメンタリーの取材が入ったから人生が動くことって、『ザ・ノンフィクション』ではたくさんあると思います。
味谷:ありますね。僕がやった『花嫁のれん物語』というシリーズでも、「取材がなかったら、私は親父と分かり合えませんでした」と言われたことがありましたから。親子のコミュニケーションがうまくいっていなかったところに、取材するディレクターが媒介することによって、「親父の言ってることがよく分かりました」と、すごく理解し合って良い関係になって感謝されたのを覚えています(笑)
西村:そういうことが起きるのを見ていると、やっぱり人間って面白いなと思いますね。