4月18日よりWOWOWプライム、WOWOW4K、WOWOWオンデマンドにて放送・配信がスタートする山崎豊子原作の小説をドラマ化した『連続ドラマW 華麗なる一族』(毎週日曜 22:00~ 全12話 ※1話のみ無料放送)で、主人公・万俵大介(中井貴一)の愛人・高須相子(あいこ)を演じた内田有紀にインタビュー。表向きは住み込みの家庭教師だが、抜群の美貌と恐ろしいまでの政治力を武器に、「万俵家」を牛耳る稀代の悪女・相子を演じるにあたっての覚悟や、中井貴一の存在、女優としての転機について聞いた。
全身全霊で向き合わなければ太刀打ちできるような作品ではなかった
――ドラマ『最後から二番目の恋』では兄妹役だった中井貴一さんと、「15年来の愛人役」として再び共演されていかがでしたか?
「冷徹で親子の絆さえも簡単に切ってしまえる暴君である大介」には「信頼できる人の良いお兄ちゃん(長倉和平)」の片鱗が全くないですよね(笑)。貴一さんは「兄妹から愛人にステップアップしてるって面白いよね」とお話しされていましたが、貴一さんの「大介への豹変ぶり」は本当に見ものです。見たことのないまた新しい中井貴一さんを目の当たりにしました。大介として現場にいらっしゃる時は、私も戦闘モードで行かないと負けてしまうんです。相子として向き合うと、いつも品定めされているような気持ちになるし、いつ崖の下に突き落とされるのだろうかと、常に崖っぷちにいるような感覚で……。関西の「万俵家」を離れて、東京で大介さんと二人きりで過ごす甘い夜だけが、相子として唯一安心できた時間でした。
――過去に、相子役は京マチ子さんや鈴木京香さんなど、錚々たる方が演じられています。圧倒的な美貌を持つ悪女である相子を演じるにあたり、プレッシャーもありましたか?
京マチ子さんはそれこそ「銀幕のスター」でいらっしゃるし、鈴木京香さんは哀愁のある相子を演じていらっしゃって、それぞれに魅力的ですよね。私自身、最初は「なぜ私に相子役をオファーしてくださったのだろう?」と不思議だったんです。妖艶さが足りないんじゃないかと(笑)。でも戸惑いながら演じるのは失礼だし、相子役を演じるという使命を授かったからには、紆余曲折ある45年間を生き抜いてきた一人の女性として、身も心も魂もすべて差し出さそうと。それくらい全身全霊で向き合わなければ太刀打ちできるような作品ではなかったですし、カメラマンの柳田さんや照明の宮尾さんを始めとする素晴らしい職人さんたちの技術のもと、私の実力以上に底上げしていただいて……。とはいえ、相子を演じ切る上では自分自身が誰よりも彼女の理解者であるように努めたので、皆さんと一緒に自分なりの新たな高須相子像を作り上げられたのではないか、という自負もありますね。かつて自分が感じたことのないような葛藤や苛立ちを胸に抱え、本妻に対する嫉妬に狂いながらも、カリスマ性のある大介に愛されたいという一心で生きた相子を演じることで、これまでとは違う顔を見つけられたのではないかと。「人の不幸は蜜の味」という言葉があるように、栄光から転落していく人間の背後には、嫉妬や欲、業といったあらゆる感情が複雑に入り乱れている。綺麗ごとではなく、それこそが真の人間の姿を描いているとも言えますよね。
――相子を演じるにあたり、具体的にどのような役作りをされたのでしょうか?
地を這うような低い声のトーンに変えたり、切れ長に見えるアイメイクにして、蛇が蛙をにらむように相手を絡め取るような、いやらしい目線や仕草にしたり……。相子の内面とリンクするように、監督やスタッフの方々と相談しながら細かく作っていきました。最初は苦労したものの、いざ現場で大介役の貴一さんや本妻・寧子役の麻生祐未さんと対峙すると、「本妻より必要とされたい」という強い意志を持つ相子が自然と降りてきて、割とすんなりと役に入ることができました。演じるうちに"相子=悪女"という意識も徐々に薄れて、私のなかでは愛しい女性に思えてきたんです。相子は、閨閥(けいばつ)結婚の推進に全力を尽くすことでしか、「万俵家」の中に自分の居場所が作れない。一人の女性として存在するだけでは愛されない、哀しみや寂しさを抱えた切ない人なんだ、と私も思っていたんです。でも裏を返せばあの時代に、相子には自分の力を試せる舞台があった。いびつな形ではあるけれど、こと「万俵家のブランド力を強靭なものにする」という点においては、相子は有能なビジネスウーマンだったんじゃないかとも思うんですよね。
――以前、内田さんは「女優の仕事はMじゃないとできない」とお話しされていましたが、これまで演じてきた役柄と比較しての"追い込まれ度"で言ったら、相子は何番目ですか?
ダントツ1位です(笑)。今までは『最後から二番目の恋』で演じた貴一さんの妹の長倉万理子役だったんですが、今回相子がその記録を塗り替えました。まさに、ワン・ツーですね。
――なるほど……。そのどちらにも、中井貴一さんがいらっしゃるわけですね。
はい。私の女優としてのターニングポイントとなる作品の真ん中には、必ず貴一さんがいらっしゃる。ということはつまり、貴一さんが主演を務められる作品は、決して妥協できない、自分の身を削らなければできないような作品である、ということなんだと思います。