普段からできる防災対策は?
――いつ起こるかわからない災害ですが、日頃からどんな準備をしておけばよいでしょうか?
災害時に必ずしもお家で猫ちゃんと一緒にいるとは限りません。東日本大震災の発生は平日の昼間。当日中に帰宅できなかった人は首都圏だけで515万人、地震発生時に外出中だった人の約3割の人が帰宅難民になったそうです。また残念なことにそのまま亡くなってしまった方も多くいらっしゃいました。
そんな時、ひとりお家に取り残された愛猫はどうなるのでしょうか。また、取り残された愛猫のことを心配して無理に自宅に帰ろうとすると今度は飼い主さんの命も危険に晒されます。そのため、日頃からお家の防災対策もしっかりしておく必要があります。
――具体的にはどういった対策でしょうか?
家具が倒れないような対策をしておきましょう。実際に家屋の倒壊や倒れた家具によりペットが下敷きになり死亡したケースもあるようです。また割れた窓から脱走してしまうケースもかなり多いです。窓ガラスフィルムなどを使って対策をしておきましょう。
――「家に帰れない」場合、猫の食事も心配です。
お腹がすいてかわいそうというだけでなく、猫ちゃんの場合は絶食時間が長いと肝リピドーシスという命に関わる病気を引き起こすことがあります。
このような事態を防ぐために、普段の食事の1食だけでも自動給餌器から与えるようにすれば、数日間何も口にできない状況だけは避けられます。また日頃から外出前にお水はたっぷりはいっているか、トイレはきれいかどうか、よくチェックするようにしましょう。
――被災した際、自宅の環境がどうなるかをイメージしておきたいですね。他にもやっておきたい準備はありますか?
防災グッズやお家の準備だけでなく、猫ちゃん自身の心の準備も進めておくべきです。
まずはケージやハーネスに慣れさせておきましょう。ハーネスを嫌がる場合は、紐やベストのようなタイプなどいろいろな種類があるので試しつつ、おやつでごほうびをあげながら根気よく練習して慣れさせるとよいでしょう。
また普段から、ワクチン接種やノミ・ダニ・フィラリア予防をしっかりしておくことも大切です。慣れない環境下ではストレスや栄養状態の悪化、他の動物との接触機会の増加から、感染症のリスクが高いからです。避妊・去勢手術も適切な時期に済ませておきましょう。
――災害に備えて、飼い主の心構えを教えてください。
防災グッズを揃えることももちろん大事ですが、実際に災害が起きた際のシミュレーションもしっかり考えておきたいところです。
猫ちゃんは環境の変化が大きなストレスになりやすい動物です。また多頭飼いのお家も多いでしょう。どの避難所にどんなルートで避難するかの確認はもちろん、そもそも避難所に猫を連れて避難することがベストな選択なのか、改めて考える必要があります。
避難所以外にも以下のような選択肢が挙げられます。堅牢なマンションなどで安全が確保できる場合は在宅避難を推奨する自治体もありますね。
- 在宅避難
- ペットホテルや知人の家に預ける
- 車中泊やテントをつかった避難
台風や水害といった事前の避難が可能な災害時は、安全な知人宅やペットホテルに預かってもらったり、自宅の2階以上で過ごすといった対策もとれるでしょう。
自宅の耐震強度や地域のハザードマップなどをよく確認し、愛猫の性格や飼育頭数などを考慮した上で、地震・台風・洪水・津波など災害ごとにどのように対処するかを決めておくことが大切です。
愛猫ともっと幸せに暮らして欲しい 『「げぼく」の教科書』
――この春出版された『獣医にゃんとすの猫をもっと幸せにする「げぼく」の教科書』(二見書房)は、どのような方に読んでもらいたい書籍でしょうか?
愛猫をもっと幸せにしたい方、猫に関する正しい情報を学びたい方に読んでもらいたいですね。
――書籍を作られる中で、「ここはこだわった」というポイントをお教えください。
単なる獣医師のハウツー本ではなくみなさんと同じ猫を愛する飼い主(げぼく)として、「にゃんとす家ではこうしているよ」とか、普段から気をつけていることなどをまとめました。ごはんやトイレ、爪とぎ、日々の健康管理などなど、飼い主さんのお悩みポイントを、実際に我が家で使っている商品名なども出しながら解説しています。
また70本以上の科学論文を引用しながらまとめた本になっているので、最新かつ正しい情報が得られると思います。
――最後に、猫を飼っている方に向けて、一言メッセージをお願いします。
ペットと快適に暮らせる避難所の整備が進んでくれることが1番ですが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、難航しているようです。いざという時に猫ちゃんの命を守れるのは飼い主さんだけなので、日頃から準備を進めておきましょう。ぜひ一度環境省のホームページなども確認してみてください。
今、ネット上では様々な情報が簡単に手に入る時代です。そんな中で飼い主さんに求められるのは、「正しい情報の取捨選択」です。私は飼い主さんたちが誤った情報にまどわされることなく、自信をもって猫ちゃんを愛することができるように、SNSや書籍を通じて正しい情報を発信しています。今回の防災対策も含めて、なにか愛猫を幸せにできる一助となれば嬉しいですね。