猫と暮らす生活は楽しいもの。でも、地震や台風、豪雨災害など、自宅を離れて避難をしなければならなくなったら?

「もしも」に備えて、猫のために知っておきたいことや揃えておきたいものを、Twitterで愛猫家に支持され、書籍『獣医にゃんとすの猫をもっと幸せにする「げぼく」の教科書』(二見書房)を執筆した獣医にゃんとす先生に伺いました。

▼お話を聞いた方
獣医にゃんとす(@nyantostos)先生
某国立大学獣医学科を卒業後、臨床経験を重ねつつ、獣医学博士を取得。現在は某研究所の研究員として、難治性疾患の基礎研究に従事。
ツイッターやブログで猫の飼い主に向け、科学的根拠に基づいた情報発信行っている。愛猫・にゃんちゃんと暮らす「げぼく」。
2021年3月には書籍『猫をもっと幸せにする「げぼく」の教科書』を出版している。
ブログ:げぼくの教科書

  • にゃんとす先生と暮らす"にゃんちゃん"と、『獣医にゃんとすの猫をもっと幸せにする「げぼく」の教科書』

猫の避難用品、準備しておきたいもの

――地震も怖いですが、最近は台風や豪雨で避難勧告が出ることも増えています。私も猫と暮らしているので猫用の防災グッズを準備していますが、にゃんとす先生のお家ではどんなアイテムを準備されていますか?

いつどこで災害に巻き込まれてしまうかわからないですよね。我が家で準備している防災グッズをご紹介します。

  • フードと水を5日分
  • 避難用のキャリーバック
  • 避難所でのポータブルケージ
  • 折りたたみトイレと猫砂
  • ハーネス・リード
  • 洗濯ネット
  • 食器・水飲み
  • 療法食・薬
  • 臭いをとる袋(糞尿対策)
  • ガムテープ・マジック
  • バスタオル
  • 愛猫の写真・記録(ワクチン接種歴、既往歴、かかりつけの病院など)

――フードと水は、5日分も必要なんですね。

東日本大震災での時は、ペットの救援物資を運ぶ車両が緊急車両として認められず、ペットフードが飼い主の手に届くまでにかなりの時間がかかったと言われています。そのため、キャットフードや水は5日分くらい用意しておきましょう。

またストレスで猫ちゃんが水を飲んでくれないことがあるので、ウェットフードを用意しておくと安心です。

――キャリーバッグはどんなタイプが良いですか?

避難用のキャリーバックは、徒歩での避難を考えている場合は両手のあくリュックタイプがおすすめです。飼育頭数が多い場合は、ペットカートなどを用意しておくのも良いでしょう。

――猫砂や食器、薬など、日常的に使うものも忘れず入れておきたいですね。こうして見ると、意外とかさばったり重くなりそうです。

猫砂は猫の好みを考えると鉱物系のものがベストですが、持ち運びや処理のしやすさを考慮し、我が家では紙系の猫砂をジップロックに入れて用意しています。食器や水飲みは、使い捨てできる100均のペーパーボウルもおすすめです。また、持病がある猫ちゃんは療法食や薬の用意を忘れずにしましょう。

――「避難所でのポータブルケージ」はあまり馴染みのないものです。

避難所に行っても、狭いキャリーケージにずっと閉じ込めておく可能性があります。自治体に聞いてみると避難した飼い猫用のケージの備蓄をしていないところも多いため、持ち運び可能なポータブルケージの用意をしておく必要があるでしょう。

  • ※画像はイメージです

あなたはわかる? 「同行避難」「同伴避難」の違い

――東日本大震災の時、ペットが家に置き去りにされたというニュースを見たのですが、もしもの時は避難所に一緒に連れていきたいと考えています。

過去の災害ではペットを自宅に置いて避難した結果、多くのペットが命を落としたり、野生化してしまったりと大きな問題となりました。

そのため国や自治体ではペットを避難所に連れて行く「同行避難」を推奨しています。しかしながら、避難所の整備が行き届いているとは言い難い状況です。

――「同行避難」とはどういう意味でしょうか?

ペットとの避難を考える上で、「同行避難」と「同伴避難」という言葉を理解しておく必要があります。

  • 同行避難:ペットを連れて避難所に行くこと
  • 同伴避難:避難所でペットと同室で過ごすこと

「ペットと避難する」と聞くと避難所でペットと一緒に過ごす「同伴避難」をイメージする方が多いかもしれませんが、ほとんどの避難所が人とペットの居住スペースは別々に管理することになるようです。

――えっ、避難所に行っても別の場所で過ごすことになるんですか?

いくつかの自治体に問い合わせてみたところ、以下のように回答する自治体がほとんどでした。

○基本的にはペットと一緒に同行避難することを勧めている
○しかし、厳密には避難所が受け入れ可能かどうかは各避難所の管理者次第なので災害の規模等により受け入れられない避難所もある
○同行避難を受け入れたとしても同伴避難はできないことが多い
○ペットは人間の居住スペースで一緒に過ごすことはできず、ペット専用の屋内スペースや屋外のテント下、もしくは渡り廊下のような場所でキャリーやケージに入れた状態で過ごす

実際に2016年の熊本地震では、避難したペットのうち屋内へ避難できたのはたったの3割で、残りの7割は屋外もしくは車中泊だったようです。

――避難所に連れて行ったあとにどんな生活になるのか、事前にしっかり考えておいた方がよさそうですね。

そうですね。また台風19号の際には、ペットと同行避難する方とペットが苦手な方の双方の意見があり対応に苦慮したという自治体が多く、実際にペットとの受け入れを拒否されたケースもあったそうです。

さらに昨年以降は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、避難所においても感染対策が求められているようになり、ペットと過ごすスペースの確保はますます難しくなってきているようです。

――自治体によって対応も異なりそうですね。自分の住む地域の対応を確認することはできますか?。

お住まいの自治体の避難所がペットとの同行避難が可能かどうか、避難所ではペットはどのような場所で過ごすことになるのか、ケージの備蓄はあるかなど電話で確認しておくと安心ですね。

猫との避難所生活、注意点は?

――もしもの時の避難所生活について、注意したい点を教えてください。

普段はおとなしくても、環境の変化により興奮状態になってしまう猫ちゃんもいます。脱走の危険や飼い主さんが怪我をしてしまう可能性があるので、洗濯ネットに入れた状態でキャリーバックに入れると良いでしょう。

――避難所で鳴いたり暴れりした時、落ち着かせるためにどう対処すればよいでしょうか?

ケージやキャリーケースにバスタオルなどをかけてあげると良いでしょう。落ち着くまで静かな場所へ移動するのもひとつの方法です。またケージの中に身を隠せる段ボール箱があると、環境の変化(動物病院やシェルター)によるストレスを軽減できるという研究結果もあるので、覚えておくと良いかもしれませんね。

――ご飯や水を摂らない・トイレをしないなど、体調面の不安が起きた時が心配です。

災害の規模や種類にもよりますが、可能であればもちろん獣医師の診察を受けることがベストです。獣医師の巡回や動物救護センターの開設を決めている自治体もあるようなので、負傷動物に対する自治体の対応を電話で確認しておくと良いかもしれません。

日頃からできる備えとしては、フードはいくつか種類を揃えておき、大好きなおやつも一緒に用意しておくとよいですね。またウェットフードを用意しておくと、食事から効率よく水分摂取ができるのでおすすめです。トイレが心配な場合はいつもと同じ猫砂を用意してあげましょう。

――迷子札やマイクロチップはつけたほうが良いですか?

マイクロチップは可能であれば入れましょう。リーダーで読み取ると番号がわかり、その番号から飼い主の名前、住所、電話番号がわかるので、脱走してもまた会える確率が大きく上がるでしょう。

首輪(迷子札)は嫌がらないようであればつけておいたほうが良いと思います。仮に脱走しても飼い猫だということがひと目でわかるためです。安全面を考慮してセーフティバックルのものが安心ですね。