――「語り」に、プロのナレーターやアナウンサーではなく、ナレーション経験の少ない女優や俳優を起用するというのも、『ザ・ノンフィクション』の特色ですよね。
味谷:たぶん、僕が宮崎あおいさんを起用したときからだと思います。それまでも、名前の通った女優さんに読んでもらうことはあったんですが、視聴者目線で読むことで一緒に考えてもらうというのが良いだろうと思って、『ピュアにダンス 僕たちのステージ』(04年5月9日放送)で宮崎さんにお願いしたんです。現場としては別のベテラン女優さんで決まっていたんですが、私がとても信頼していた当時の宮崎さんのマネージャーに、「君が今、若い女優で一番これから来ると思ってる、しかも伝える力があるのは誰になる?」と聞いたら、「宮崎あおいです」と18歳の彼女を連れてきて。当時は全然売れてなくて、周りのスタッフは「なんでこんな女の子に読ませるんですか?」と言ってたんですけど、いざ読み始めたらみんなシーンとしたんですよ。
―― 一気に引き込まれてしまったんですね。
味谷:もうみんな納得して「いけるね!」と。そこから若い女優さんにもどんどん読んでもらうようになりましたよね。そうすると、今まで読んでいたアナウンサーたちも刺激を受けて、いわゆるアナウンサー読みじゃなくて、時に寄り添い、時に突き放すというようなドキュメンタリーの読み方をしてくれるようになったんです。高島彩、藤村さおり、佐々木恭子、梅津弥英子、武田祐子とか、優秀でみんなうまいんですよ。良い相乗効果が出て、今やNHKでも若い女優さんに読ませるようになりましたもんね。これも、『ザ・ノンフィクション』で確立したという感じがしますし、宮崎あおいさんの功績だと思います。
■1,000回の歴史を解釈して番組を検証
――今回の「放送1000回SP」は、どのように制作していったのですか?
西村:3カ月前から今回のチームを立ち上げて、いろいろ企画を考えていたんですが、ただの振り返りダイジェスト番組では面白くないし、視聴者も関心が持てないだろうから、「『ザ・ノンフィクション』という番組を検証するドキュメンタリー番組を作ろう」というのをまず考えたんです。つまり、これも1つのドキュメンタリー番組にするということ。それによって、1,000回という歴史を解釈していく中で、この時代はこういう傾向だったとか、あの時はああいうことが起きたからこんなジャンルが多いんだとか、そういう流れから話題作や名作と言われるもの、時代を象徴しているものをピックアップしていきました。
――それを1,000回から選ぶのは大変ですよね。
西村:そうなると、味谷さんのやった『花嫁のれん物語』とか『平成の金の卵たち』とか、入れたくても入れられなかったものがたくさんあるんです。その上で、今回は物語ではないので、一番担当回数の多い宮崎あおいさんのナレーションと僕らの構成・編集でつないでいくという作業ですね。視聴者の皆さんがどうリアクションしてくださるか分かりませんが、僕らにとってもここで改めて整理しておくべきだという考えで作っています。
味谷:うまくまとめてくれたと思います。改めて、社会をすごく反映している番組だなと感じますね。
●味谷和哉
1957年、大阪府生まれ。読売新聞大阪本社社会部記者を経て、92年にフジテレビジョン入社。以来ドキュメンタリー畑一筋で、ディレクター・プロデューサーとして制作に携った作品は450本超。03~15年に『ザ・ノンフィクション』のチーフプロデューサーを務め、17年からフジキャリアデザイン執行役員営業企画部長。
●西村陽次郎
1974年生まれ。青山学院大学卒業後、富士銀行を経て、99年にフジテレビジョン入社。ドキュメンタリー、情報番組などを担当し、19年より『ザ・ノンフィクション』チーフプロデューサー。現在はほかに、『逮捕の瞬間!警察24時』『目撃!超逆転スクープ』や、『ワイドナショー』『まつもtoなかい』といったバラエティ番組も手がける。