3つめのポイントは、電子シャッターの進化です。一般的に電子シャッターといえば、無音、無振動で撮影できることや、超高速シャッター、超高速連写が選べることなどがメリットとして挙げられます。その一方で、動体ゆがみが生じやすい、ストロボが使えない、フリッカーレス撮影ができないといった制約もあるため、これまでは利点と欠点を天秤にかけて使用するか否かを判断する必要がありました。

そんなデメリットのほとんどを高いレベルで解消したのがα1の電子シャッターです。動体ゆがみを抑えるアンチディストーションシャッターがα9 IIからさらに強化されたほか、電子シャッターでのストロボ撮影や、電子シャッターでのフリッカーレス撮影に新たに対応しています。「今まで撮れなかったものが撮れる」というのは言いすぎですが、「撮りにくかったものが撮りやすくなる」ことは間違いありません。

  • α1の電子シャッターを利用し、ストロボ発光+高速連写で撮影した中から選んだ1枚。水風船を割った瞬間です

  • 同じく電子シャッターによるストロボ発光+高速連写撮影。「鬼滅ごっこ」でジャンプした瞬間を捉えています

  • 電子シャッターとメカシャッターのどちらでも、フリッカーレス撮影や高分解シャッター(高周波フリッカーレス機能)が利用できます

  • ストロボの同調速度は、電子シャッターの場合、フルサイズで1/200秒、APS-Cで1/250秒に対応。メカシャッターの場合は「同調速度優先」を選ぶことで、フルサイズで1/400秒、APS-Cで1/500秒という高速を利用可能。被写体と背景の光量バランスの自由度が広がります

細かい部分にも使い勝手を高めるさまざまな改良が

4つめのポイントは操作性の向上です。AFをはじめとする操作レスポンス全般がいっそうスムーズになったほか、タッチパネルの反応が改善されたこと、メニューUIのリニューアル、フルサイズのHDMI端子の採用など、各部にさまざまな改良が施され、これまでのどのαよりも気持ちよく、ストレスなく扱えるようになっています。

  • α7S IIIと同じくタイプAのHDMI端子を搭載。外れやすく断線しやすいタイプDよりも安心感があります

  • タッチトラッキングやタッチフォーカスに加え、メニュー画面のタッチ操作に対応。各機能のオンオフやタッチ感度の設定もできます

  • 「2度押しで削除」を有効にすると、削除ボタンを続けて2度押すことで画像を素早く削除できます

  • α9 IIと同じく、電源を切ったときにシャッターを閉じる機能を搭載。レンズ交換時のゴミ侵入などを低減できます。なお、シャッター幕の表面には、新開発したカーボンファイバー製のシャッターカーテンならではのテクスチャが見られます。シミや汚れではありません

  • 左がα1で、右がα9 II。フォーカスモードダイヤルのロック機構の位置が変わり、より操作しやすくなっています

  • 左がα1で、右がα9 II。モードダイヤルの項目の順番が変更。動画モードと静止画マニュアルモードが並びとなり、両者を素早く切り替えられるのが便利です

  • 画面右下の長方形は、APS-C/Super 35mmサイズが選択されていることを示すアイコン。戻し忘れて、意図せず小さいサイズで撮ってしまう失敗を防げます

  • 電子ビューファインダーには、約944万ドットのOLEDを採用。ファインダー倍率は0.9倍と大きく、240fpsの高速リフレッシュレートを選んだり、明るさや色温度、倍率のカスタマイズもできます

  • ネットワーク関連では、本体内蔵のWi-FiがIEEE802.11ac 2×2 MIMOに対応し、スマホやPCとの連携がいっそうスムーズになっています

高価だからこそ撮影意欲がいっそう高まる

α1を日々使えば使うほど、カメラとしての使い勝手のよさを実感できるようになってきました。まだ試していない機能もあるので、今後さらに新発見もありそうです。

ただ、100%満足ではありません。今のところ、私の採点は「90点」。特に気になるマイナスポイントは、高解像である反面、被写体によってはモアレや偽色が生じやすいことです。α1以前にメイン機として使っていたα7R IVは、生地の目が細かいスーツなどの一部の衣類を撮るとその表面に稀にモアレが生じ、ビジネスシーンの撮影が多い私の仕事用途ではずっと悩ましい問題になっていましたが、その悪癖はα1でも見られます。ちなみに、α9 IIではモアレはあまり目立ちません。

また、液晶モニターのサイズが他社の上位機に比べて小さいことや、液晶モニタが左右方向に可動しない点も不自由です。それらが必要なときは、外部のHDMIモニターやスマホにつなぐべきなのかもしれません。

トータルで見れば、写真を撮るためのハードウエアとして(マイナス10点はあるものの)ほぼ快適に使える、非常に自由度の高いカメラといっていいでしょう。88万円という価格については、プロ/アマチュアを問わず、どんなときでも失敗をせずに狙った被写体を確実に捉えられる道具だと思えば惜しくないはず。筆者のような「少しでも元を取ろう」と考える貧乏性カメラマンの場合、高ければ高いカメラであるほど撮影意欲がいっそうわき、結果として仕事が捗る、という効果もあります。

  • α9 II(左)とα7R IV(後ろ)の2台を掛け合わせたものがα1(右)。1台2役と考えれば88万円も高くないかも!?