『罪の声』などでも知られる作家の塩田武士氏が、主人公を大泉洋に当て書きするという企画発表の時点から大きな注目を集め、ベストセラーを記録した小説が、大泉洋主演作『騙し絵の牙』として映画化された。

映画版は、廃刊の危機に陥った雑誌の編集長・速水(大泉)が、存続をかけて策を仕掛ける、騙し合いムービーとして、小説とはまた違った展開を見せる。

『桐島、部活やめるってよ』などの吉田大八監督のもと、当て書き小説の映画化のはずなのに、「今のはちょっと大泉さんぽかった」と何度もNGをもらったと苦笑いする大泉が、結果「僕に寄せなくて良かった」という映画の魅力について、さらに「ネガティブとポジティブが共存している」という自身の性格を語った。

  • 俳優の大泉洋

    俳優の大泉洋 スタイリスト:勝見宜人(Koa Hole inc.) ヘアメイク:西岡達也(ラインヴァント / Leinwand)

■今まで演じた中で一番難しい役になった

――映画になった速水を演じてみていかがでしたか?

小説が基本、僕に当て書きされたものですから、冗談で、「映像化するならこれほど役作りのいらない役はないはずだ」と言ってたんですよ。それが結果、今まで演じた中で一番難しい役になったというね(笑)。吉田監督からはよく、「今のはちょっと大泉さんぽかった」と言って何回もNGをもらいました。それの何がいけないんだっていう設定なんですけど(笑)。

――確かに(笑)。

でも監督は「これは大泉さんではない。速水という人間だ」と。そこに大泉洋の素の感じが出てくるのは良しとしなかったので、そういったところは全部キレイにNGになりました。どうしても自分のクセといったものが出てしまうものだから、そういうところを吉田監督は、今回、全部削っていかれて。なので、映画を観たときには、本当にいい意味で、自分を感じずに観られました。

  • (C)2021「騙し絵の牙」製作委員会

■原作小説も、三谷幸喜の当て書きでも2面性あり

――映画版の速水の魅力はどこだと?

今回の映画は原作とはちょっと違っていて、アナザーストーリーのように、小説を読んでいる方も新たに楽しんでいただけると思う。だけど、すごく仕事ができるというのは小説も映画も同じで、そこがとても魅力的な人だなと。そこにプラス、映画版の速水は、自分のやりたいことに対して非常に正直で貪欲な男で、ある意味そのためには手段を選ばない感じなんです。そうした力強さというか、目的のためなら多少ダーティな手もいとわないっていう感じなのが、面白いと思います。

――そうした魅力をどう出していこうと?

とにかく監督から、「飄々としていて、なんともつかみどころのない人」「何を考えているのか分からない人」というのをずっと言われていました。なので、感情を抑えて抑えてというお芝居だったと思います。そしてそのほうが良かったと思いますね。映画版の速水は本当に何を考えているのか分からなくて、どんどん人を騙していく。原作よりも騙し合いのバトルが濃くなっているので、そうなってくるとそもそも僕っぽいわけでもないから。僕に寄せなくてよかったと今は思いますね(笑)。

――速水には2面性がありますが、大泉さんは?

小説が僕への当て書きという触れ込みですから、僕がそうした人間なんだと勘違いされる方も多いかもしれないんですけどね(笑)。それによく当て書きされる三谷幸喜さんの作品でも、僕は必ず2面性があるんです。裏でとんでもない悪いことをしてたり。でも決して僕自身はそういう人間ではない! 物語を書くにあたっては、主人公は2面性があると面白くなるんですかね。

  • (C)2021「騙し絵の牙」製作委員会

■最大の挫折が、今の自分に繋がっている

――あえて、大泉さんのちょっとした、牙、闇、裏の顔を探すなら?

牙とか闇っていうほどかっこいいものではなくて、単純に暗いです、僕は。ネガティブというか。たとえば昨年末に紅白歌合戦の白組司会をやらせていただきましたが、決まったときにも「すげー!」となるんじゃなくて、まずは「マジか! 俺みたいなやつが白組の司会とかしたら、白組の人が嫌がるんじゃない?」みたいに湿っぽく考えてしまう。「俺の年の司会なんて、大泉洋だぜ」とか言われたらヤだなとか(笑)。1回落ち込むんです。そこから、「でも頑張ろう」となる。