■“小栗旬”から脱却できたヒッチハイク

――前原さんご自身についても聞かせてください。高校を卒業後、すぐに養成所に入ったそうですが、そこから2015年の事務所所属までに期間があります。

僕、すごく怠け者なんです(苦笑)。養成所に籍を置いているということで、とりあえず安心してしまっていたというか。それこそアルバイトがあれば生きてはいけますし、きっと何とかなるだろうみたいな感じだったんです。あと、養成所に入った瞬間から、僕は小栗旬さんのようになれると思ってたんです(笑)。でも、仲間たちとレッスンを受けていくうちに、「違うな」と感じるようになっていって、頭では分かっていたんですけど、気持ちとしてはやっぱり小栗さんみたいになりたくて。そうした時期に、自分自身を見つめ直そうと思ってヒッチハイクをしたんです。それが僕を変えてくれました。

「西へ」と書いた紙を掲げて。2週間かけて結局、鹿児島まで行きました。会う人、会う人、みんな優しくていい人で。車中で2人きりになるんですが、話しているうちに、みなさん「誰にも話していないんだけど」みたいな話をされるんです。たぶん、「初めまして」だからこそ話せたのだと思いますが、最終的に「話せてすっきりした。乗せてよかった」と言ってもらって。乗せてもらったのは僕のほうなのに。そうした優しさに触れているうちに、自分がこだわっている薄っぺらいプライドがしょうもないことに思えてきて。小栗さんになれないなら、なれなくていいじゃないか。別の道を探せばいいじゃないかと。自分を認められるようになっていったんです。

――大きな変化があったんですね。

そこから養成所でも三枚目のお芝居とか、人を笑わせるためにここをやってみようといった意識が増えて、そこが評価されるようになって事務所所属に繋がっていきました。あのときヒッチハイクをしていなかったら、いまだにアルバイトをしながら養成所に通っていたかもしれません。

――自分らしさを受け入れたことが今に繋がったんですね。

そこからはあまり迷っていないです。だから今回のように主演となると逆に緊張しますが、そこは自分なりの主演という形をこれから見つけていけたらと思っています。

■前原滉といえばこれ、という部分も作っていきたい

――前原さんには不思議な空気感があります。『直ちゃんは小学三年生』(テレビ東京系)での小学生役も違和感がありませんでしたし、『俺の家の話』では、すごくほんわかしているのに、でも親権を争うんだ!?という役もハマっています。

「エモい」っていう理由だけでね(苦笑)。Twitterでエゴサーチしたら、「エモいという理由だけで選ぶな」みたいにちょっと怒られてました。

――エゴサーチはするのですか?

最近はあまりしなくなりました。『あなたの番です』のときはすごくしてましたね。話題にもなっていたので、つい調べてしまって。でも以前までは役名とか自分の名前で調べていたのが、最近では作品自体の感想を見るようになりました。

――ご自身の強みはどこだと感じていますか?

おっしゃっていただいたように、なにかの役をやったら、それっぽくなるという幅が広いことかなと思います。変に陽気な奴をやっても、暗い奴をやっても、小学生をやっても成立するという。そういう見た目は強みかなと思います。

――ハマるからこそ、いっときはそれこそ「塩軍団」(『まんぷく』)のように呼ばれた時期もあったかと。

そうですね。そのあとは「管理人さん」(『あなたの番です』)と言われてました(笑)。それはそれで嬉しいですよ。その人たちのなかに残っているんだなと思いますから。でも常に塗り替えてもいきたいですね。この先5年経っても「管理人さん」と呼ばれていたらヤバイし。それに、前原滉といえばこれ、という部分も作っていきたいです。時間がかかると思うので、いま作りたいというより、これから作っていけたらなと。

――まさに今回の作品を支えているベテランの方々は、なんにでもハマれるし、なおかつそれぞれの俳優さんとしての個性もある方々ですね。改めて、初主演作、最初に名前が出てくることに感慨はありましたか?

そこにこだわっていた時期もありました。何番目にクレジットされてるといったことが、自分の評価だと思っていたというか。でも実際に主演を務めさせていただいたことで、一番目に“載せていただいた”という気持ちを感じたというか。それこそ作品作りはチームプレーなんだと身に沁みました。もちろん、最初に名前があるのは嬉しいし、ありがたいですけどね。

■プロフィール
前原滉
1992年11月20日生まれ、宮城県出身。数多くの作品に出演する若手バイプレイヤーとして活躍中。映画『あゝ、荒野』(17)で注目を集め、連続テレビ小説『まんぷく』(18)では通称“塩軍団”の小松原として人気に。翌年には『あなたの番です』でマンション管理人役を演じて印象を残す。今年は年明けからスペシャルドラマ『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類! 新春スペシャル!!』、ギャラクシー賞2月度月間賞を受賞した『直ちゃんは小学三年生』、『俺の家の話』に出演。映画『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』が初主演作となる。またMOOSIC LAB[JOINT]2020-2021にて上映中の『彼女来来』でも主演を務めている。