音を聴いてみる
いよいよTrueControl ANCのサウンドを聴いてみる。Xperia 10 IIをプレーヤーにして、ボリュームを真ん中あたりに設定し、音楽ストリーミングサービス「mora qualitas」からさまざまなジャンルの楽曲を流してみた。
定番のイーグルス「Hotel California」ではベースの低域が張り出し、低音の出方がわずかに強く感じるが決してブーミーではない。中高域にかけてはクリアで、パーカッションなど中低音には勢いやキレがある。全体の傾向としては、ニュートラルなバランスの良さが耳に心地よく感じた。
ダフト・パンク「Doin' It Right (featuring Panda Bear)」はヘビーな低域に特徴がある曲だが、完全ワイヤレスなのにかなり重い低音を鳴らせるので驚いた。かといって、ボーカルやシンセの音が重低音にかき消されるようなことはなく、曲としてのバランスを保ちながら上手に鳴らしてくれる。
打って変わってクラシックでは、小澤征爾の指揮とマルタ・アルゲリッチのピアノ演奏による、ベートーベン「ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調 作品19:第1楽章」を再生してみた。楽器ごとの音をていねいに描き分け、上品な鳴り方をするので、目を閉じてじっくり聴いていたくなる。すごく音場が広いというわけではないが、適度な距離感で音が鳴っている感じが好印象だ。
サラ・オレイン「Beyond the Sky」は繊細さと力強さを湛えた歌声をオーケストラサウンドが後ろから支える広がり感のある楽曲だが、こちらの鳴り方もほぼ不満はなし。あいみょん「マリーゴールド」、坂本真綾「お望み通り」、宇多田ヒカル「One Last Kiss」など、女性ボーカル楽曲も気持ちよく聴いていられた。とにかくクセのないイイ音なので、色々聞いてみたくなる。
完全ワイヤレスイヤホンとしてはプレミアム価格帯の製品であるだけに、音がキッチリ作り込まれていて不満はない。NCやアンビエントモードをオン/オフしても、音質が明確に変化するようなことがなく、安心してNCを併用できるのもありがたい。「NC常時ONでも⾃然なHi-Fiサウンド」というアピールポイントそのままの体験ができた。
もっとも、動画視聴でもこのイヤホンを使いたい向きには少々オススメしづらい。というのも対応コーデックがaptXまでで、実測で100msを超える遅延が発生し、場合によっては映像と音のズレが無視できないレベルで目立つからだ。ただし、YouTubeやABEMAなど一部のアプリはある程度、音と映像のズレを調整して合わせているようで、違和感を強く感じるようなズレは起きない。特に、ド派手なアクションシーンがあるコンテンツなどでは、ズズンと胸に迫るような低音が響いて楽しい。
耳にフィットする作りが特徴のTrueControl ANCだが、人の耳はサイズや形が千差万別なので、たとえば標準で付いているイヤーピースが耳に合わないこともあるだろう。パッケージの中には豊富なサイズのイヤーピースが取り付けられた小さな金属板があり、ここから自分の耳に合ったイヤーピースを選んで付け替えられるので安心だ。シリコンのものがS/L各2ペア、M 3ペアと、ComplyのフォームタイプのものがS/M/L 各1ペア付属する。
高価な買い物に“安心感”をプラス
細かく見ていけば気になるポイントはいくつかあるものの、TrueControl ANCにはさまざまな魅力があるので、使ってみての満足度はかなり高い。ひとつ気をつける点をあげるならば、「日々の手入れを欠かさないこと」。イヤホン、ケース共にマットな表面仕上げを採用しているため、汗や指紋が付きやすく、放っておくと触れた跡がグレーがかった本体に浮き上がって目立ってしまう。マット仕上げの経年劣化も気になるので、素早く乾くメガネ用ウェットティッシュなどでまめに手入れをしておくとよさそうだ。IPX4防水の性能を備えているとはいえ、濡れたままでの放置は避けたい。
最後に、TrueControl ANCには3年の製品保証が付くことにも触れておきたい。「高価な完全ワイヤレスイヤホンを買うのは心配」と考える向きもあるだろうが、RHAのイヤホンには従来から長期保証がついていて安心感を与えてくれる。国内ではナイコムがRHAの正規代理店になっており、必要であれば日本語でのサポートも受けられる。
一度手にした製品を長く愛用するタイプの人には、TrueControl ANCはうってつけの選択肢といえる。3万円台半ばのイヤホンは決して安い買い物ではないが、しっかりしたスペックを備えていてサポート体制も問題なければ、購入に踏み切る心理的なハードルも下がるというもの。まだまだ気軽に外出できる状況とはいえないが、店頭で実機を試せるチャンスがあればぜひ体験してみてほしい。