大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)第5回「栄一、揺れる」(脚本:大森美香 演出:村橋直樹)では、栄一(吉沢亮)の心の揺れと、1855年に起こった安政の大地震の揺れと、武士の時代の揺らぎが描かれた。
岡部の代官(酒向芳)の理不尽な応対に「承服できん」と栄一は心の中で暴れるものに耐えられなくなっていく。「承服できん承服できん」と繰り返すことで栄一の激しい苛立ちが伝わってきた。それを「悲憤慷慨」と表する尾高惇忠(田辺誠一)。「今この世には、おまえのように悲憤慷慨するものが多く生まれている」。惇忠もまた、このままでは日本は外国人に踏みにじられると心配していた。
と、ここで、おなじみの徳川家康(北大路欣也)の登場だ。いまの世(武士が上に立っている)を作った張本人は家康。群雄割拠で戦に次ぐ戦の世の中を終わらせるために、徳川がこの世を支配したことで100年間は戦がなく済んだものの、徳川家のちからが強くなり過ぎて下の者たちが苦しむ状態になっている。家康の背景は階段になっているのも人々の格差を表しているように見えて効果的だ。
だが、いまの世の中を疑う者たちが武士以外の者(士農工商の農工商)から現れ始めた。そのひとりが渋沢栄一である。彼は知恵と勇気で世の中を切り開いていく。
第5話も栄一の知性が冴え渡った。これまで、栄一は、「みんながうれしいこと」を目標に藍の買い付けを行ったり、村の人たちに(いい意味の)競争をさせたりしてきた。今回は、村の迷信を暴く。
姉・なか(村川絵梨)に縁談が持ち上がったものの、相手の家が憑き物筋であることから心配される。おりしも、なかの様子がおかしくなる。憑き物がついたに違いないと村中に噂が広がり、ついに破談になってしまう。
「あんなに明るい子が」「生気のない顔して」と村の人たちから言われてしまうなかだったが、千代(橋本愛)だけはなかが恋をしてきれいになったと感じていた。「憑き物」という先入観で見るとぼんやりして見えて、へんな先入観を抜きにして見ると、しとやかになって見える。その人の経験や知識や感性によって見えるものが違ってくる。
栄一は、姉にキツネが憑いたとは思ってないとはいえ、彼女の変化の理由がわからず心配する。そんな彼に千代は「強く見えるものほど弱きものです。弱きものとて強きところはある。ひとは一面ではございません」と語る。
千代の言葉も参考になったのか、栄一はやって来た祈祷師のインチキを見事に見破る。吉沢亮演じる聡明な少年・栄一はものすごく説得力がある。「ヒトの弱みにつけこむ神様なんかこれっぽちもこわくねえ」千代の言葉を聞いて、栄一は人間の弱い部分に思いをいたすことができたのだろう。すっかり元気になったなかに「キツネより姉さまのほうがおっかねえ」と言う栄一。こういう展開は朝ドラにありそうと感じた締めだった。