代官・利根が民を見下すいやな人物に描かれているので、武士は皆、民を思わない悪者かと思うと、そうではない。徳川慶喜(草なぎ剛)は食事をするとき、農人形に米粒を備え、米をつくった民を忘れないことを習慣づけていた。それは父・斉昭(竹中直人)の教えと言うから、斉昭はただの野心家ではなく民思いであることがわかる。

慶喜は、小姓となった平岡円四郎(堤真一)を、諍臣(主君の非行を諌める役割)になってほしいと頼み、上に立つことで気がつかなくなりがちなことに警戒心をもっている。

それにしても、ご飯をよそうこともできない円四郎と、きちんとよそうことのできる慶喜の差。増長しないように身の回りのことができるように教育されている慶喜は好ましい。庶民的な円四郎が慶喜の視野を広げるのかと思ったら、意外と慶喜が円四郎を教育する面もありそうで、慶喜と円四郎は『幸福の王子』の王子とツバメのようないい関係が描かれることを期待する。草なぎ剛と堤真一はかつてふたり芝居を演じたこともある仲。登山の最中に遭難し一本の命綱でつながった者同士の芝居をやったふたりだけに、強い信頼が目に見えるようだった。

さて、栄一の社会の仕組みに対する怒りが描かれた回。理不尽にも「へいへい」と上の者の命令を聞いてきた父たちと、ペルリ(ペリー)の強引さによって日米和親条約を締結してしまった日本が重なって見える。骨っぽいエピソードが中心ながら、柔らかいエピソードもあった。

勉強が楽しくて根を詰めるあまり、寝てしまっている栄一の寝顔を、千代(橋本愛)がのぞきこむと、唇に陽光があたってつやつやして美しい。千代はついじっと見つめてしまう。

目を覚ました栄一と千代はあたふた。夢の話で盛り上がったあと、「お前…」となんかいい感じになりそうなところへ「朝から楽しそうだのう」と長七郎(満島真之介)と平九郎(高木波瑠)が邪魔をする。

「お千代の顔をあれほど間近で見たことはない」とぼーっとした栄一は畑仕事に遅れて大慌て。微笑ましい場面だった。どう考えても栄一、千代がいい関係なのだが、気づかない喜作(高良健吾)がややひとり相撲な様子でちょっと可哀相な青春の三角関係が展開している。

それから、慶喜の髪を円四郎が結う場面や、橋本左内(小池徹平)が松平慶永(要潤)の体を洗う場面も面白い。食事、髪結い、風呂など、かしこまっているばかりでない武士たちの親しみやすい姿に、身分は違っても同じ人間。だからこそ、栄一の築こうとする「みんなが嬉しいことがいいこと」である世界が夢ではないのだ。

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