東日本大震災から10年を迎え、最近は大きな地震が頻発していることもあり、防災への意識が高まっている。災害時のライフラインとして、もっとも重要視されるのは"飲料水"。有事の際にはスーパーで水が売り切れになってしまうことも珍しくない。備えあれば憂いなしとはいうものの、どのように飲料水を備蓄して災害に備えるべきなのだろうか?そこで今回は、サントリー食品インターナショナル ジャパン事業本部 ブランド開発事業部の米谷美咲さんに、"水のかしこい備蓄方法"についてお話を伺った。
どれぐらいの量をどのように備蓄しておくのが良い?
――防災への備えで備蓄しようというときに、まず思いつくのが飲料水だと思うのですが、どれぐらいの量をどのように備蓄しておくのが良いのでしょうか。
米谷:飲料水は、人間1人につき一日3リットルが必要で、必ず3日分は生きていけるように、「9リットル×家族分」が家にあるのが適していると言われています。もともと、3日間あれば救援物質が届くのがその理由と言われていたんですけど、2年ぐらい前の千葉を中心とした水害のときに、ライフラインが一週間止まってしまったこともあったので、量としては3日というよりは一週間分の水がある方が良いということが、今は推奨されています。水の備蓄と聞くと2リットルの大きなボトルを想像される方が多いと思うんですけど、このサイズと500ミリリットルのペットボトルでは使い方が違っているんです。今回、東日本大震災の3.11から10年という節目を機に、当時の被災者の方々のお話を聞いたりしたんですけど、2リットルボトルは料理なども含めて使いやすいというのはあるんですけど、再栓して何度も飲むときに、やはり2リットルだと飲みきれなくてもったいなかったり、何日も経って衛生的に気になるという話があったんです。そういう意味では、やはり500ミリリットルの方が個人で飲める水としては適していると思います。また、備蓄というと家をイメージされる方が多いと思いますが、例えば事業をしている方でしたら、オフィスに置く水はコップに入れたり回し飲みをしなくて良いという意味でも、みんなに個々に配れる500ミリリットルの方がいいと思います。水の置き方としては2リットルと500ミリリットルを組み合わせた方が良い、ということは最近お伝えするようにしています。
――備蓄というとどうしても大きいサイズを家に段ボールで置いておく、というイメージでした。
米谷:そうですよね。9リットルというとかなりの量になるので、箱でドカッと買ってクローゼットの奥に置いているという方も多いと思うんですけど、地震のときはどこの部屋で被災するかわからないですよね。もしかしたらドアが開かなくて閉じ込められてしまうというようなことを想定すると、本当は一箇所じゃなく各部屋に散りばめて置いてある方が良いと思います。1階、2階があるときは各フロアに置くておくとか、分散備蓄するというのも必要なんじゃないかなと思います。
――実際に有事のときに、飲み水だけじゃなくて生活用水としての必要性も出てくると思いますが、そのあたりの活用法という意味ではどうでしょうか。
米谷:必要なものを使いながら切らさないようにする「ローリングストック」の活用ができればいいと思います。それで備蓄していた水の賞味期限が万が一切れてしまっているときなどがあれば、捨てるのはもったいないので、手洗いの水に使うという方法もありますね。生きていく上で水は一番大事なんですけど、じつは被災して衝撃を受けたり不安なときって、食欲がなかったり、自分の喉が渇いていることも気が付かなかったりすることもあるんです。そういうときに普段水を飲み慣れていない人が、こうした無味の水を飲むのは、なかなか進まないこともあると思います。そこで、私たちは水の必要性も伝えつつ、普段飲みなれている飲料もストックしておいてほしい、ということをお伝えしているんです。普段飲んでいるお茶とかの飲料を飲むことでそこから食が進んだり、乾きに気付いたりすることもあるので。
備蓄品は「ローリングストック」がおすすめ
――自分は、以前防災用のリュックを買って、玄関にいつも置いているんですけど、最近その中に入ってる500ミリリットルの水を見てみたら、もうすぐ賞味期限が切れるところだったんですよ。なんとなく、永遠に持つぐらいの感覚でいたんですけど(笑)。賞味期限ってどれぐらいなんでしょうか?
米谷:通常の「サントリー天然水」だったら2年、備蓄用だったら5年3カ月ですね。買ったときには、それだけの期間があれば十分だと感じると思うんですけど、いざそのときが来るとあっという間に期限が来ていたりするんですよね。なので、買って安心ではなくて、それを常にメンテナンスする、防災グッズの中の食料を入れ替えるということが、本当の意味での"備え"だと思います。
――ところで、「サントリー天然水」の通常販売されているものと、備蓄用のものとでは賞味期限が違うというのは、どこに違いがあるんですか?
米谷:この違いは、容器のバリア性が違っていて、普段のペットボトルよりもちょっと肉厚にできているんです。無菌充填といって、菌が入らないように殺菌しているので、中が腐るということはないんですけど、ペットボトルはわずかに空気を通す性質があるので、それを最小限に抑えて、より長期間持つんです。中に入っている水そのものは全く変わらないんですけど、容器の違いで賞味期限の違いになっています。
――近年、こうした備蓄水のペットボトルの需要は伸びているわけですか。
米谷:そうですね。あと、水だけじゃなくて、今は例えばポテトチップスもローリングストックしておくと災害時の備蓄食になるとか、日清さんがすごく力を入れられていて、カップラーメン自体を普段食べながらぐるぐる消化しましょうということをやっているんです。特殊な災害備蓄を、というよりは、普段の食事をいつもよりちょっと多く置いておくだけで備蓄食になるよという、ローリングストックをしましょうという働きかけが多いですね。
――水も食べ物も、消費して必要なものが無くなったら買い足して置いておくことが大事なんですね。
米谷:そうですね。飲むときに、4年前の水を飲むのと、1年目の水を飲むのとでは、味としてはもちろん変わらないし衛生的にも大丈夫なんですけど、ちょっとなんとなく身体のリフレッシュ感が違うというか(笑)。なので、そのときに自分がどういう気持ちで飲めるか、生きていくために最低限必要な水分というだけじゃなくて、それを取り込んだことで自分がどうなれるかということまで考えると、ローリングストックが一番理想かなと思います。
飲み終わったあとのペットボトルも活用できる
――期限が切れてしまった水は、捨てるしかないのでしょうか?
米谷:衛生的な水としては変わらないので、手洗いとかお皿を洗う水に使うとか、飲む以外の水として代用していただくようにお伝えしています。あとは、被災された方は、給水車が来てもそこから水を持ち帰る手段すらない場合があって、ごみ袋に水を入れて持ち帰ったという声もあったんです。ですから、2リットルの備蓄用ペットボトルは飲んだ後も、その後のお風呂やトイレを流すための水を給水しにいくときの容器として再利用もできるんです。それと、お風呂に入れないときに、ペットボトルに入れた水を昼間運動場に置いておいて、日光で少しだけ水を暖かくして身体を拭いたという話もありました。2リットル入るペットボトルというのは、水がどんなことをするのにも必要なときに、2次利用もできるんだなと思います。
――備蓄する置き場所に困る、なんて言っていたこの大きさが、いざというときに頼りになるんですね。
米谷:そうですね。大きなバケツやタンクより持ち運びもしやすいので。